『アメリカはコインランドリーの国ですよ。ガンガン洗うてガンガン乾燥機かけてますやん。(林芳亨;DENIMEディテールの書:祥社.1998.P71)』と林氏も言っている。それでも洗剤がアクロンだったのは、所詮小心者のMSだ(笑)

洗い上がればスッキリ晴れた空の下で太陽まかせの天日干し。MSが高校の頃に見た映画、『パーフェクトワールド』でも主演のケビン・コスナー演じる逃走犯のブッチが、農家の庭先に干してあった洗い晒しのデニム(映画の設定がケネディ暗殺前の1960年頃であることを考えれば、洗い晒しにされていたのは501XXの紙パッチか?)を盗んで着替えるシーンがあった。裏返し(セルヴィッジが確認できる)にされて庭先の洗濯紐に引っかけられたジーンズは陽を浴び、気持ちよさそうに風に揺られていた。「デニムは陰干しで陽焼けをしないようにウンヌンカンヌン…」と言った日本的ウンチクとは無縁の世界。うむ、これぞ本道ではないか。それにしても、『パーフェクトワールド』のコスナーは自然かつ男前にジーンズを穿きこなしている。

街でも、自宅でも、山でも、海でも、あらゆる場所でMSと共にあった'98モデル。一年余を共にする間になかなかの色落ちとなり、またMSを根性穿きの呪縛から解放してくれた意味でも、思い出深い一本となった。
96年に購入したXXで根性穿きのダメージを体験し、今度は特に意識せず、ごくごく普通に穿き込んでいこうと考えた。

96年頃はジーンズはドゥニームのXX一本しか持っていなかった為、根性穿きはある種やむを得ない部分もあった。

だが97年の夏にはエヴィスの2501XXも履き込み始めており、状況としての根性履きはもはや不要となった。
コイツを購入したのは忘れもしない年の瀬も押し迫った97年の暮れ。バイトの面接の帰り、梅田のEST-1にフラッと寄った時に『PADDY』で購入した。レディスのアイテムを多く揃える同店でこんなマニアライクなジーンズがあるとは思ってもいなかったので非常に驚いた。なんせドゥニームだけではなく、フルカウントや後にはアルキャミストのジーンズも揃え、裾上げは四つ折りのチェーンステッチでいつも完璧に仕上げてくれる。
購入後は街に山に学校に、そして海に。ドゥニームはいつも生活の中にあった。ファーストウォッシュからほどない頃、水も冷たい五月の連休。神戸は須磨海岸へ遊びに行った。

余談だが須磨の海は宮廷文学の華と言われる『源氏物語』にも登場する。桐壷院崩御によって世の権勢は右大臣派へと移り、人の心の移ろいやすさに嫌気がさした(オマエが言うか!?葵の上も六条御息所も泣いてるぞ)光源氏が退居した地であり、後に宮廷での権勢を競う頭中将の友情に涙した地でもある。

また『源氏物語』の読破へ挑んだ読者の多くはこの「須磨の巻」で根を上げる為、「須磨がえり」の巻とも呼ばれる。原文を読む知性はなく、「別に文学部じゃないし」と現代語訳を手にしたMSもまた、例外ではなかった(笑)

と言ってもMS達は宮廷文学の地を訪ねたワケではなく、ただ陽光の中でのんびりと海を眺め、弁当を食べ、色んな話をしながら日が暮れるまで波打ち際を歩いた。帰り際に写真を撮るから、と言われて波打ち際に立てばカメラを構えたツレから「もう少し後ろ、もう少し」と促されるままに後退。

気が付けば波が足元に押し寄せ、見事MSの両足は水没。慌てたトコにスッ転んで今度は全身水没。「まさか、こんなテに引っかかるなんて」と慌てるツレにタオルで拭われ、まだほの寒い春の夕暮れを帰ったのは忘れ得ぬ想い出である(笑)

奇しくも穿き込み開始から間もない時期に訪れたセカンドウォッシュの機会だが、まぁ海へ浸かったワケなので洗剤と一緒に洗濯機へ放り込んだ。
DENIME XX model '98