そしてもうひとつ、告白すべき恥がある。それは「なかなか古着みたいな薄汚れた色落ちにならないな〜」などと愚考したMSは愚行へと行動を移したのである。なんと…大腿部や臀部等、色落ちの進んだ部位に『極めて濃く煮出した紅茶をハケで塗りたくる』と言う暴挙に出たのだ(爆)

以前、フルカウントのNOISE別注を『砂場に埋める』と言う、まさに穴があったら入りたい愚行に及び、あまつさえ妙な色落ちになった哀れなジーンズはツレへプレゼントした経緯があり、当時のMSはもう少しソフトな方法としてこの「紅茶塗り」を考案したのだろう。自身の行為に仮定形を用いるのは適切ではないが、自分が何を考えていたのか今では皆目見当が付かないのだ(笑)

確かに意図した薄汚れたカンジが再現できた。だが、膝窩部のハチノスには塗り忘れるなど、一貫性を欠いた色落ちになってしまった(笑)

如何に当時この類の小技が流行っていたとしても、これはもはや蛮行である。このジーンズを見る度、昔書いたラブレターを見つけてしまったような気恥ずかしさに捕らわてしまう(爆)

今は欲しいデニムを欲しい時、欲しいサイズで購入できる。また過剰な色落ちを求めて小技に走るユーザーも少なくなった。欲しいモノを買い、ごく普通に穿く。だからこそ市場を形成するユーザー・ショップ・メーカーの三者にとって、現状は「市場の飽和」というより、むしろ「市場の成熟」と言えるだろう。

つまりは、みんな大人になったのだ。
MSのルーツとも言うべきドゥニームの定番、XXモデル。コイツとの出会いはうら若き十代の夏(笑)の思い出でもある。このジーンズは京都は北山の『FGヒルビリース』で購入した。96年当時、レプリカ・ムーブメントの真っ直中でセレクトショップはおろか、直営店でさえデニムは入荷の度に朝から行列、即日完売。今からすれば信じられないほど過熱した状況だった。
結局、エヴィスの2501を次の一本として購入するまでの一年半、毎日穿きまくった。このXXはジャストから1インチ大きい28インチ、27インチに比べると大腿部の余裕から下がりヒゲはキッチリ定着したが、股関節周囲のヒゲはあまり深く刻まれていない。しかし下がりヒゲ以上にMSの記憶に刻み込まれたのは、忌まわしきは「根性穿き」の悪夢だ(笑)
当時は様々な雑誌媒体が「(オールド・リーバイスがワークウェアとして用いられていた当時)デニムはワークウェアであり、毎日洗っていたとは考えにくい。またワークウェアとして強いストレスが加わるからこそ、タテ落ちし、他の部分は砂埃などが付着して色落ちが進まず、コントラストの強い色落ちが現れるんです」と有名古着店オーナーのコメントを引用し、「だからデニムは洗わない」と根性穿きを推奨していた。多分に漏れずMSも「洗濯は3ヶ月の1回」などと宣い、実践していたのだから多大な負荷をかけたデニムには謝罪せねばなるまい。おかげで着用期間のワリに全体的な色落ちは進んでいない。

確かにオールド・リーバイスはワークウェアとして用いられていた時代もあり、毎日洗っていたとは考えがたい。しかしそれはあくまでも使い捨てのワークウェアとしてであり、だから彼らはダメージの生じたデニム(ジーンズ、Gジャン、カバーオール)を惜しげもなく廃棄したのだろう。その典型例が札幌の古着ショップ『ペールフェイス』を率いるベンジャミン・バスキンス氏が地方の鳥小屋で体験した『世界最古の501XX』発見劇と言えるだろう。なんせ鳥小屋の断熱材代わり(笑)に詰め込まれたジーンズの中に、1905年頃と推定された世界最古の501XXが眠っていたのだから。
少し話は脇道に逸れたが、ワークウェアとしてコントラストの強い色落ちを得たオールド・リーバイスは、ダメージやリペアと無縁ではいられない。逆にファッションとしてのジーンズが定着した60年代以降のダメージの少ないデニムは比較的薄い色のまま、その姿を現代に留めている。やや早計ではあるが、洗濯回数とダメージは反比例すると言っても差し支えないだろう。ワークウェアほどではないにしても、街ナカで汗を吸い、日々ストレスを受け続けるデニムのマテリアルたる原綿は決して耐久性の高い素材ではない。その為、根性穿きを強いられたこの'96は随所にダメージを受けている。やはり穿く、洗うを繰り返してこその色落ちとアジだろう。
DENIME  XX model '96

ダメージの出やすいバックポケットも
内側下部のステッチの大半は抜け、
サイフか何かを入れれば今にも剥が
れてしまいそうな状態である。

シングルステッチはアジの面ではチェ
ーンステッチに譲るが、ほつれにくさ
ではチェーンステッチに勝っている。

タテ落ちが最も強く現れる大腿近位部付近。縦
糸の色落ちと共に、ヒゲが刻まれているのがわ
かる。濃紺の中から美しい藍色が顔を出す。ドゥ
ニームらしい、荒々しいタテ落ちが魅力を放つ。

ジャストよりワンサイズ大きかった為に、
大腿内側部のダメージは生じていない。
また下がりヒゲの起始部が確認できる。

MSの履き方では珍しいハチノス。根性
穿きの成果であるが、紅茶の塗り忘れ
から爽やかさを残している(笑)

荒々しいバックスタイル。だがレザー・
ラベルにもダメージは無く、バックポケ
ットのリペアを済ませればまだまだ現
役で履けるだろう。