カンヌキはシッカリしてますので、現状では完全にほどける心配はいらないでしょう。ウチのミシンだとメーカー(ドゥニーム)のカンヌキとは違った縫い方になってしまいますが、どうされますか?」と選択肢をユーザーに渡すプロのアドバイス。

MSには「ステッチワークがウンヌン…」よりも「ディリーウエアとして丈夫」な方が価値基準の上位にあり、迷うことなくリペアを依頼した。元々はコンディションの良いオールド・リーバイスを取り扱い、必要に応じたリペアを施していた同店である。当然、その仕上がりは大満足であった。

『エヴィスの岡山の工場はスゴイで。
ボロボロのジーパンが山積みや。
全部修理や。ほんまにボロボロやで。
みんなそんだけ思い入れが強いって
ことやろな』


(山根英彦;DENIME STYLE BOOK,別冊
 Lightning vol.9:竢o版.2004.P78)
冒頭で林氏が笑うように、良く穿き込まれたジーンズはダメージと無縁ではいられない。気が付けば、MSの穿いているドゥニームのXXの縫製糸の一部が擦り切れていた。ドゥニームの名誉の為に述べると、MSはドゥニームのXXを過去に2本、66を1本、WW2を1本穿いてきたが、ダメージが生じたのは今回が初めてだ。

そもそもデニム(ジーンズ、カバーオール等)は長期にわたる着用には部分的なダメージが避けられず、その多くは生地よりも縫製糸へ現れる。余談になるが、ジーンズの強度を検証する実験がフジテレビの『トリビアの泉』で実施された。04年12月22OA)
これはリーバイスの『ツーホース・マーク』に倣って二台の重機で両側からジーンズを牽引してジーンズの強度を検証した。容赦なく牽引されたジーンズは次々と引き裂かれていったが、デニム自体が裂けたモノはなかった。つまり生地が悲鳴を上げる前段階で縫製糸が牽引力に耐えきれなかったのだ。

と言っても最初に破れた牽引力が150kg、最後は285kgまで破れなかったのだからジーンズの進歩と耐久性は素晴らしい。『ポケット開口部固定改善方法』を考え出したヤコブ・ディビスは墓の中で目を細めて喜んでいるだろう。
『ゴワゴワで綿糸は切れるし、ネジれるし。
ホンマに服としては悪いとこだらけ(笑)』

 (林芳亨:『関西3大ジーンズ王に聞く』Cazi Cazi;交通
  タイムズ社.1995.6月号.P30)
ドゥニームは66にはスパン糸、XXには綿糸を基本仕様としているが、『ブルーで、ただきれいに穿けるジーンズを作りたかっただけ(金岡徹,ポパイ編集部:『98年度版ジーンズ大特集』POPEYE 5月10日号;マガジンハウス.1998.P85.)と98年の秋にリリースしたAタイプ(現在は生産終了)にスパン糸を選択したことは興味深い。その理由はドゥニームが「現代のジーンズに求められるのはシルエットと色落ち、そして穿き続けられる強度」と捉えたからではないだろうか。実際、ドゥニームのAタイプを見れば皮パッチも隠しリベットも無く、スパン糸で縫い上げたシンプルなジーンズだった。
ジーンズが穿き込んでいくモノである限り、ダメージと無縁ではない。だからこそ(体制は様々とは言え)各社ともリペアを対応し、また販売側のショップも独自にリペアを受け付けるケースも少なくない。MSの場合、メーカーの直営店である『ドゥニーム京都店』に持ち込んでもいいのだが、京都の老舗『Porky's』で購入していた為、『Porky's』へ持ち込むことにした。

【リペア前の画像】

【リペア後の画像】

ドゥニームのデニムは最初はかなりゴワつくが、穿き込むに連れてシッカリとユーザーの体
型をシッカリと刻み込む。腰を包み込むようなシルエットも手伝い、ヒゲが定着し始めている。

10日程度でリペアが完了。しかし受け取りに行くまでに1ヶ月近くかかってしまった。恥骨部、バックポケット付近
に見られた縫製糸の擦り切れは改めて縫い直され、再び穿き込んでいくのに相応しい状態になった。特にダメー
ジが生じやすいバックポケットは、以前のひ弱さは見る影もなく、内側の上下部ともシッカリと縫い上げられた。

約9ヶ月穿き込んだドゥニームのXXモデル。ウエアハウスの1003(旧型)と同時期に穿き込んだ為、実際には4〜5
ヶ月と言ったトコロだ。裏側から見ると恥骨部付近のステッチが擦り切れて浮き上がっているのが確認できる。また
ジーンズを穿く自宅では椅子に座ることが多く、バックポケットの内側下部もステッチが途切れてしまっている。

※『トリビアの泉』の放送内容に対し、EDWINが『放送中のジーンズの強度の比較実験は、ジーンズ
  のカッティング、ウォッシュ加工等の違いによる条件面の差に全く留意しておらず、もともと正確性
  を欠いたものであり、ジーンズ本来の品質に何ら寄与するものではない』と抗議し、後日、フジテレ
  ビは番組内(119OA)で謝罪した。
しかし結果としては最も早く裂けたジーンズでも150kgと言う
  非日常的な牽引力であり、実験の趣旨である総論としてのジーンズの強度は(前提条件が異なると
  はいえ)数値という客観性を持って証明されたのではないかと思う。自社が競合他社よりも早く破れ
  たと言う自社の結果に固執せず、デニムという素材とジーンズという服の強さを知って貰えると、
  おおらかな気持ちで見守って欲しかった気がしてならない。

股リベットの廃止に伴って採用された
このカンヌキはデニムが最も厚く、スト
レスの大きな部位である。

その縫い直しには一旦、カンヌキと周囲
のステッチをほどく必要がある。縫い直
されステッチワークからかなり広範囲に
作業が及んことがわかる。

DENIME XX '04
repair report

昨年(04年)から穿き込み始めたドゥニームは、まだまだその色濃い染めを残している。だが夜明け前の地平線にいつしか光が姿を現すように、ドゥニームのデニムも黒に近い濃紺から気が付けば、フッと鮮やかな蒼が顔をのぞかせる。その瞬間にドゥニームはたまらない魅力を放つ。美しく色落ちしたデニムは勿論素晴らしいが、こうした変化を共に出来ることもデニムの醍醐味のひとつだ。確かな技術で仕上げられたドゥニームは、これからもゆっくりとMSと同じ時間を過ごしていくだろう。