
| 太刀魚 | どう聞いたの? |
| 下手したら | お嬢さん、ワインはいかが? |
| Uh-huh・・・Reasonable (うーん、なるほど) |
手仕事 |
| 特別バージョン |
戯話(たわわ)の概要
太刀魚
むかし、むかし、武者と天帝は、もう一人クマという男と3人で土曜になると夜の10時位に集まり、カラオケへ行ったり、酒を飲んではうだうだ言うとった。
クマだけは時々「釣りに行く」と言って一人抜けておった。
天帝と武者はクマの行動は怪しいと思い、2人で「あれは、岡釣りだ」と噂をしておった。この2人、クマと違って釣りには興味がまったくなかった。
夏の最中たまたま3人は、鳴尾浜へ行き、クマの指南で釣りをした。
この時、天帝と武者はクマはきっと岡釣りはしているはずだが、ちゃんとした釣りもしているのだと知った。
この時初めてまともな釣りをした天帝と武者には、アジ、サバが釣れた。
また、この釣れた魚をその場で炭焼きにして食べたらたいそう旨かった。
2ヶ月が過ぎた秋の頃、クマ宅に呼び付けられて武者は驚いた。天帝があれ以来、釣りに興味を持ち、かなりな道具を誰にも相談せず、揃えていたのじゃった。
天帝はクマに懇願した。
「なあ−、釣りに連れっててよ。」
「何が釣りたいんや? それによって道具が違うんやで。」
「俺が買った道具で釣れる魚。」
と、げらげら笑うクマ。
「どんな道具を買ったん?」武者が尋ねる。
「無茶苦茶でかいリールに竿、ははははははは・・・・
何釣る気や、クジラでも釣れるで、はははっはは・・・・・・」
思わず武者もつられて笑う。
「笑ろてんと、ほんまに連れてってよ・・・・・」
「いつのまに道具揃えたんや?」と武者。
「あの夏に釣ったのが面白くて、あの後すぐ道具を買いに行ったんや。」熱心に訴える天帝。
「しかも、人に相談せんと買うもんやから、とんでもないもの買うてんねんで、はははははははは・・・・・・・・・・・・」笑うクマ。
「大は小を兼ねる言うやんか。それに同じ買うならええ竿買いたいやろ?」
「いや、釣りで大は小を兼ねられへんで」と突っ込むクマ。
「いきなり、誰にも相談せんと大胆なことするな。」呆れる武者
「何でも新しいものが好きやし、人よりええもん持ちたいもん。」と天帝。
「そうやな、天帝は新しもん好きやな。日本で3人しか持ってないテレビ電話持ってるくらいやもんな。」いたずらっぽく笑う武者。
「何や、テレビ電話って?」
「いやな、天帝な、新しもの好きやろ。テレビ電話も出た瞬間買いに行ったんやて。
で、結局買ったんは日本全国で3人だけやて。
テレビ電話だけは相手も同じ物を持たんことには話にならん。
結局、一回も使わんと、今じゃ押し入れの中。」
「あれは、NTT方式とSONY方式で互換性がなかったんや。僕が買ったのはSONY方式。当時買ったのは、東京のマンションで一人暮らし始めた島田伸介と嫁さん。伸介の嫁さんが浮気してないかチェックするために2台買うて伸介の東京のマンションに設置したんや。」
「伸介にテレビ電話させて下さい言うて使こたらええのに。」
「そんなことどうでもええから、釣りに連れっててよ−−−−−−−−−−−」
クマはしばらく考えた後に
「その竿とリールで今、釣れる言うたら、太刀魚かな?」
「どんな魚?」
「まあ、1m位で歯が鋭い魚や。釣り上げたら手では絶対触ったらあかん。指落とすで。」
「そんな魚どこで釣れるの?」
「今、西宮港でぼちぼち釣れてるみたいやで。」
「行こ−−−−−−−−−−−、今から行こ−−−−−−−」と叫ぶ天帝。
「今から?! 何時や思てんねん。夜の9時やで。」嫌がる武者。
「いや、太刀魚は夜になると沖から波止近くへ小魚を追って来るから、
これからの時間が一番いいんや。」乗り気のクマ。
「行こ−−−−−−−−−−−−−、すぐ行こ−−−−−−」
「ちょっと、待って。道具持ってないよ、俺。」抵抗する武者。
「クマに借りたらええやん。いこ−−−−−−−−−−−−」
「外は寒いで」
「クマに借りたらええやん、いこ−−−−−−−−−−−−−−−」
「しゃ−ない、行こか。武者には道具貸したるから。」
「おいおい、ほんまかいな・・・・・」
あっと言う間に決まってしまったんじゃ。
3人はそれぞれの思いを胸に抱いて、釣り具屋へ行き、餌と仕掛けを買って西宮港へ行ったんじゃ。
<ま、ええか。太刀魚は釣りたかったし。家に居なくて済むし。>クマ
<やった−!!!! 釣りが出来る! 竿が使える!リールが回せる!!
家に帰らなくて済むし。>天帝
<じょーだんじゃないぜ。寒いし、眠いし。家に帰りたいよ。>武者
予想以上に防波堤は寒かったんじゃ。
しかし、釣りが初めて出来る天帝は嬉しさの余り寒さは全く感じなかったんじゃ。
寒さの中でクマが自分の仕掛けを竿につけ、借りた竿に仕掛けをつけてくれるのを待っている武者。
その横でいそいそと仕掛けを闇の中で真新しい竿につける天帝。
もう、鼻歌でも出てきそうなくらい幸せな顔が不思議に暗闇の中で輝いていた。
ふと、クマが「リールをフリーにせな竿先が折れるで、天帝。」と言った瞬間、
暗闇に響く乾いた音 <ポキ!>
青ざめる天帝。闇の中で竿先を探る、探る、探る・・・・、無い・・・。
さっきまでの幸せの顔はそこにはもうない。
クーラーボックスにしゃがみ込んだまま、身じろぎもしない天帝。
くらーい時間が流れていく。
「あ−あ、やってまいよった。」笑うクマ
「あら−、まだ一回も使ってないのに・・・・」笑うに笑えない武者
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」天帝
クマは天帝の竿先を調べて、
「まあ、大丈夫。竿先だけなら修理出来るから。」
「・・・・・・・・・・・・ほんま????」
「まあ、今日は俺の竿使ったらええやん。」
と、思いもかけず優しいクマ。
両肩を落としながら、それでも天帝は借りた竿に仕掛けをつけて、釣りを始めたんじゃ。
さむ−い、初冬のことじゃ。波止の寒さは余計に天帝の身にしみたもんじゃ。
武者が神の存在を信じたのはこの夜じゃった。
この日は当たりが無く (というより太刀魚を釣るタイミングを知らない)
誰も釣れなかったんじゃ。
夜も深々、更けていく。
寒さもジンジン身に凍みる。
<もうやめぞうぜ、釣れやしない>
武者がそう思った瞬間、後ろで必死にリールを巻く天帝の姿が目に入った。
ただただ、リールを巻く天帝。
<釣れてないやろ>横目で見る武者。
その武者の目に暗闇に光る太刀魚の姿。
キラキラ光り、まさに太刀そのもの。
<キレイ!>武者の心にある種の感動が走る。
「頭を踏みつけろ! 天帝!」クマが指示する。
「・・・・・・・」うろたえる天帝。
跳ねる太刀魚。
クマが太刀魚の頭を踏みつける。
釣竿を立て、「やった−! どうや見たか、クマ、武者さん!!」
「お−、素晴らしい」心にも無いことを言うクマ。
「いや−、神様はやっぱりおるねんな。一番不幸な奴には、何かを与えてくれるもんや。
俺は無宗教やけど、今日だけは神様の存在を信じるわ。」感心する武者
自慢気な天帝の口から意外な言葉が発せられた。
「取って−−−−−−−−! 魚を竿から外して−−−−。」
「それくらい自分でやれよ、天帝。」
「いや−、俺、魚よう触らんねん、誰か取って−−−−−−−」もがく天帝
「え?! 魚もよう触らんのに釣りしよう言うたんか?」
「道具まで一式揃えたのに? 魚よう触らんの?」
呆れるクマと武者
「お願いやから、魚外して−−−−−−−−−−−−−−−!」
闇の中で銀色の太刀魚が揺れておった。
神様は初めて間違いを犯したのかも知れない。
− 完 −
作:武者
この話はノンフィクションです。
ページトップへ
下手したら
人生にはもし、
あの時こうしていなかったら、という時があります。
過去を振り返って、悔やむこともあれば、ホッとすることもあります。
「何年ぶりやろな。」
「ほんまに久し振りやな。」
彼と交わした会話の始めはこんな風だった。
まだ寒さが残る4月始め、新婚と言うには結構年を取ってしまった友人の結婚式。
受け付けをしていた彼はまだ未婚である。
幸せそうな新郎、新婦を横目で見ながら、彼はいつもの暗い口調で武者に語りかけた。
「最近、腹が痛くてな。」
「ストレスか? 胃潰瘍でもあるんじゃないの。」
「いや、レントゲンで診てもらったんだけど、何ともないって言われたんや。」
「じゃ、大丈夫やろ。」
「いや、ずーと痛みは続いているんや。どうしたらええ?」
「まあ、確認のために一回胃カメラでも飲んだら?何も無かったらラッキーやし、それこそ癌でも見つかったら早期発見でラッキーやで。今の早期発見の胃癌の完治率はかなり高いらしいからな。」
「そうやな、来週でも早速胃カメラ飲みにいくか。」
「そうしとき。もうそろそろ無理が利かん年代やから。」
お決まりの二次会も何気なく過ぎて行った。
幸せそうなちょっと年がいった新婚夫婦を囲んで賑やかに・・・・
電話が鳴った。いつもの暗い口調の友人である。
「あ、おれ。この前の話しのことなんやけど・・・・」
「? この前? 何やったかな?」
「あいつの結婚式の時に俺、胃が痛い言うとったやろ。」
「ああ! 胃カメラ飲んだんか?」
「いや、行こうと思ったんやけど、何か俺が行ってる医者、ヤブみたいやねん。」
「ははは、大丈夫やろ。そんなん気にせんと検査してもらえよ。」
「いや、何となくあの医者に診てもらうん嫌やねん。
例え胃カメラ飲むにしてもちゃんとした病院の方がええんちゃう?」
「まあ、大阪の病院やったら良いとこはあるけどな。」
「どこがええ?」
「胃カメラ飲むだけやったらどこでも同じやろけど、もし癌やとしたら森之宮にある○○○センターなんかどうや?あそこは検診で結構きっちり診てくれるみたいやで。」
「森之宮か、遠いな・・・・・。」
「まあ、お前のとこの会社からやったら、済生会△△なんかええんちゃう?」
「やっぱり、そうか。皆そう言うなあ。」
「胃潰瘍やったら薬で治るし、癌でも胃がんは早期発見で治癒率は高いらしいから、心配せんと早よ診てもらえよ。」
「いや、胃が痛いんはほんまにそうやねんけど、時々胸も痛むねん。」
「胸のどのへんが?」
「心臓のある方や。」
ふと、武者の頭にあることがよぎった。
長年の一人暮らしは食生活も偏りがちであろう。
「胃が痛いのは胸が痛い時やないか?」
「ああ、そういう時もあるよ。でも胃はず−と痛いねん。」
「胸が痛い時の痛みって、締め付けられる感じか?」
「そうそう。」
「胸が痛い時、みぞおちが痛くないか?」
「ああ、あるよ。」
「そんな時、顎というか、歯が痛むことないか?」
「言われてみたらあるな。」
「肩が痛むとか、凝った感じとか、背中が痛いとか、二の腕が痛いとかはどうや?」
「うーん、言われてみたらあるな。」
「心臓かも知れへんな。」
「心臓? ・・・やっぱりそうか? 前からちょっと気になっててん。」
「気になってるって?」
「仕事で荷物持ったりするやろ。動けんぐらい胸が痛むことがあるねん。
この前なんか、結構な距離を歩いてて胸が痛なって、うずくまって、数分動けんかってん。」
「時間にしてどれくらい?」
「さあ、結構長かったで。」
「2、3分位で治まったやろ?」
「いや、5分以上は続いたで。」
「うーん、もし狭心症やったら5分以内で発作は治まるからな。」
「狭心症の可能性がやっぱりあるんか?」
「痛む場所と何か持ったり、動いた時に胸が痛むとこみたら、その可能性は高いな。でも狭心症の痛みは5分以上は続かへんもんやけどな。最近痛みが強なったとか、前より軽い運動で痛みがあるとかはない?」
「いや、そうでも無いな。」
「食事は外食ばっかりで、脂もんばっかり採ってるやろ?」
「まあ、そうやな。脂好きやからな。」
「早よ結婚して、カミさんに料理作ってもらわなあかんで。
狭心症は心臓の血管が動脈硬化で詰まるから起こるんや。
脂っぽい食事ばっかりしてるから結構動脈硬化が起こってるんかも知れへんで。」
一人身は気楽だけれど、食事が偏るからな、ふと転勤で一人暮らしをしている自分の部下のことを思い出す武者であった。
心臓の方の可能性がかなり高い。
そう思った武者は心配させないようアドバイスをした。
「どっちにしても、胃カメラ飲む前に心電図撮ってもらえ。
循環器の専門の先生がよう言うてる。消化器とか肩凝りで来た患者さんの心電図は診察の前に必ず撮って欲しいって。
肩が凝ったとか胃が痛い言うて来る患者には結構狭心症が多いらしい。ある消化器の先生のとこで胃が痛い言うて来た患者に胃カメラ飲ましたら、狭心症の発作が起こって、結構危なかったって。でもいつも同じ位の運動で発作が出る安定した狭心症なら死ぬことはないらしいから、大丈夫。心筋梗塞やったら一刻を争うけどな。」
「心臓やったらどこがええ? 家に近い方がええねんけど。」
「それやったら□□病院がええやろ。間違いはないで。」
「で、最初にどこへ行ったらええ?」
「受け付けで、心電図撮って下さいって言え。胃が痛い言うたら消化器内科行かされるやろから胸が痛むって言えよ。心電図で何も無かったら、改めて消化器で胃カメラ飲んだらええねん。」
「明日、早速行ってみるわ。」
それから10日余り彼からの電話は無かった。
電話が鳴った。
いつもながらの暗めの声だ。彼の場合、普段も暗い声で話すので、病気なのか、健康なのか分からない。
「おお、どうやった検査結果は?」
「今病院からや。お前に電話してて良かったわ。」
「どうしたんや?」
「心筋梗塞や。教えられた通りあの次の日に病院行って、心電図撮ってくれ言うたんや。医者も最初は「どうしたんですか?」なんて話してたけど、心電図撮った途端、顔色が変ってな。何かあるなって思ったんやけど。
もう一回発作があったら死んでたって。」
「へー! どの血管が詰ってたん?」
「左の血管で下に降りてる血管があるやろ。それが完全に詰ってて、右の方の血管も50%位詰ってるって。」
「右の50%はまあ、大丈夫やろけど、左の方が詰ってたんか。よう生きてたな。」
「ああ、今は他の血管が必死にパイパス作ってるって先生が言うとった。」
「うん、左に心臓の後ろに回っているもう一本血管があるからね。」
「とにかく、今は大丈夫。寝てるだけや。行ったその場で「即入院」言われてな。仕事のこともあるんで一度帰っていいかって聞いたんやけど、「死んでもいいなら構わない」って言われて。もう諦めたわ。」
「まあ、とにかく余計な事考えずに安静にすることや。落ち着いたらリハビリとか始まるやろし。可愛い看護婦さんがたくさん居るから嫁さんでも探せや。」
「ほんま、ここ美人が多いな。まあ、お前には感謝してるで。あの時お前に電話してなかったら今ごろ生きてないな。」
人には何かの拍子で人生を狂わすこともあれば、助かることも有る。
それは全く偶然我が身に降りかかる。
えてして人は物を欲しがる。
でも本当に大切なのは物より自分の周りの人じゃないのかな。
果たして私は迷った時に誰かに道を聞くことが出来るだろうか?
明日はどっちの方向だ
武者
注:この話の中で出てくる病気の話はあくまでも素人が聞きかじっただけの範囲での内容です。
内容に誤りや誤解を生む表現もあるかもしれませんので、キチンとお医者さんにご相談下さい。ページトップへ
Uh-huh…Reasonable ふーん…なるほど
イギリスに来て、やっと1週間が経った。ホテルの朝食をオーダーする時にさえ、ウエートレスの言っていることが分からない武者にとってはこの1週間は想像もつかないような長い時間であった。
そんな武者がさらに今週から英国人に混じって2週間のマーケティングセミナーを受けることは、プロダクトマネジャーの経験も無く、非常に困難に思え、セミナーでの自分の姿を想像するだけで緊張が体を縛り付けた。
英国での研修は、日本のように多人数で講師に全員が向く学校形式ではなく、参加人数は7〜8人の小クラスで、研修生同士が十分討議出来るようコの字に机は並べられ、講師はいつでもそれぞれの研修生の近くで話すことが出来る形式を取っていた。
いよいよ研修が始まった。
講師が参加者に向かってにこやかに自己紹介を行い、今回の研修の概要を説明し始めた。
「ドック、ドック」 武者の心臓は高まり始める。
講師が "Then, please introduce yourself, let me see…"
「じゃ、皆さん自己紹介をして下さい、えーと…」
「まだ、何を言うか決めてないぞ。最初にあてないでくれ・・・」 焦る武者
"…, Graham, you first." 「・・・グラハム、君からだ。」
講師は武者の斜め前に座っている口髭をたくわえた34,5才の男を指名した。
その後、Grahamから時計回りで次々に自己紹介をしていく。
さすがにイギリス人、ユーモア溢れた自己紹介が続き、研修所は笑いとリラックスに満ちた雰囲気になっていった。一人武者を除いて・・・・
武者と共に参加しているもう一人の日本人は、語学が趣味というくらいで、これまたリラックスして楽しそうに自己紹介をしていた。
武者は彼らがどのような言い回しをしているのかを聞き、それを真似ようとしたが、早口で何を言っているか分からず、この計画は断念した。途端、自分がこれから使う英語は文法的に正しいのか? この単語は英語でどう言うのだろうか? そんな思いが頭を駆け巡り、心臓の鼓動はさらにその速度を増していった。
いよいよ次が自分の番になった時、やっと心に決めた。
「名前を言って、今の会社にいつ入社したか、その後どんな仕事に就いたかを簡単に言おう。それで良しとしよう。」
"Thank you, Ann. Next…, Mr.Musha" 「ありがとう、アン。じゃ次は武者さん」
"Yes. I'm Musha. Please call me Musha. I joined this company in 19xx as a sales rep."
「はい、武者と言います。どうぞ、武者と呼んで下さい。この会社には19xx年に営業で入社ました。」 ここまでは順調のようだ。
" I was in charge of some Universities…," 「私は大学担当でした。」
なかなかうまく喋れているみたいだ。いいぞ。
営業での経験はこれ位にして次に就いた仕事の紹介をしようと思ったが、ふと、「この辺のイギリス人は日本人を見ることはほとんど無いと言っていたし、日本と言えば京都、奈良、東京しか知らないようだ。ここは、日本で二番目に大きい大阪と京都を含めた地区である近畿地方も知って貰おうかな。」という考えが頭をよぎった。
"・…, for example, Osaka City University and Kinki University."
「例えば、大阪市立大学や近畿大学です。」
こう付け加えた時、これまでリラックスしていたクラスの雰囲気が一瞬何とも言えず硬くなったように感じた。
やや間があって、
"Uh-huh・…, reasonable" 「ふーん、なるほど」 斜め前のグラハムがうなづいた。
この言葉をきっかけに、少し笑いが戻った。まだ、何となく硬い笑いではあったが。
緊張した自己紹介も終わり、その後研修はたどたどしい英語の日本人のお陰でスムーズとは言えないまでも無事1日目のプログラムを終了した。
1日目のプログラムが終わった時にもう一人の日本人の研修生が武者に近づいた。
「武者さん、自己紹介の時に、グラハムがウーン、リーズナブルって言ったの覚えてますか?」
「うん? ああ、覚えているよ。どうして彼はあんなことを言ったの?」
「武者さん、あの時どう言いました?」
「えーと、営業の時は大学担当で、大阪市大と近畿大を担当していたって言ったんだけど。」
「そうでしたよね。それって英語でどう言いました?」
「えーと、Osaka City University and Kinki Universityだけど・・・」
「そうKinkiっていう単語を辞書で調べて下さい。これも勉強ですから。」
辞書を調べる武者
Kinki は無い、しかし、非常に似ている単語は有った。
Kinky : 変態の 性的に倒錯した
なるほど、あの時の紹介とその直後の硬くなった雰囲気は他のイギリス人にとって私が冗談を言っているのか本当なのか分からず、笑うに笑えなかったのだと理解できた。また、グラハムの一言が硬くなった雰囲気を少し和ませたのだ・・・・、しかし、本当に私は理解してもらえたのだろうか?
「大阪市立大学と変態の大学を担当しました。」
「ふーん、なるほど、そりゃ、理にかなってるね (あなたを見てれば)」
ページトップへ
「ギタリスト」を「テロリスト」に聞き違いで拘束される
18日付のシンガポール紙ストレーツ・タイムズによると、同国チャンギ空港で15日、インド人2人がテロリストと間違えられ、当局に身柄を拘束される騒ぎがあった。
空港ラウンジで、インド人の1人が米国人と会話した際、自分のことを
「ベースギター奏者(ベース・ギタリスト)」と言ったのを、米国人が
「ボスニアのテロリスト(ボスニアン・テロリスト)」と聞き間違え、空港の警備員に通報。シンガポール航空の香港行きの便に乗り込もうとしていた2人は直ちに身柄を拘束された。その後、誤解は解け、2人は無事香港に向かったという。
(時事:2001.9.18)
武者の感想:発音の問題?聞く側の問題? どちらにしてもうまく間違えるものだなあ。ネイティブでもそうなんだから、私が英語を聞き取れなかったり、私の英語が通じないのも無理ないか。・・・・トホホ。
ページトップへ
「お嬢さん、ワインはいかが?」
「武者さん、今日はこれを試して下さい。」
ハイアラはボトルを白熱灯にかざした後、武者のグラスに赤ワインをゆっくりと注いだ。
酒屋の床下に造られた木の持つ柔らかさ活かしたコンクリートの打ちぱなしの居酒屋。十数人が座れる長テーブルが店の真ん中に置かれ、壁際に6人程度が座れるボックス席が3つ、奥にはカウンターテーブル席と十人程度が楽しめる個室がガラス越しに見える。 店内は武者達が座っている長テーブルを除きほぼ満席である。
武者はハイアラの注ぐワインを見ながら 「今日はワインか? 珍しいな。」
「まあ、試して下さい。味は最高です。」
酒を人に勧める時のいつもの口調でハイアラはいつもより少し浮かれた感じで言った。
酒そのものを愛し、銘柄で惑わされるのではなく、その酒の持つ味そのものにこだわっている男。武者が日本酒が飲めるようになったのは30歳を少し超えた時、天帝に連れて行かれた飲み会で初めてこの男と出会い、醸造アルコールが添加されていない酒を勧められてからだった。
「あんまり、ワインのことは分からんけど、やや軽めで飲みやすくて美味しいな。」
武者の言葉に嬉しそうに天帝のグラスにもワインを注ぎ、さらに突然、少なくとも武者には突然に感じたのだがハイアラにとってはごく普通のことなのかもしれないが、「如何ですか、このワインを試されませんか?」 と隣に座っている20半ばだろうか、女性3人グループにも勧めた。
武者のこの突然の勧めは拒否されるであろうという予測はあっさり外れ、女性3人のグラスは白熱灯の光を受け、柔らかに深紅に揺れた。
女性3人から注いだワインの感想を聞いた後は何事もなったように酒屋の客としてそれぞれの話題に埋没していった。
「すみません、ちょっと団体さんが来たので席を替わってもらえませんかね?」
店長が武者のグループと女性3人のグループに声をかけた。入り口からはバイオリンやコントラバスであろうか弦楽器のケースを持った一団が入ってきた。演奏会が終わった楽団のメンバーのようであった。
店長は一つだけ空いている壁際の6人用のボックス席を武者のグループと女性のグループに指しながら 「ハイアラさん、ラッキーやね!」 とにんまり笑った。 武者のこれを機会に彼女達は帰るであろうという予測はいともあっさりと外れ、6人はそれぞれのグラスを持ってボックスの中で乾杯した。
先程とは異なるワインを味わいながら、2つのグループは1つの話題に収束していった。
「どちらにお住まいですか?」
「3人ともN市です。」 ちょっとためらい気味に武者の斜め左に座った女性が答えた。柔らかな感じで受け答えも好感が持てた。
「私もN市ですよ。ご近所ですねえ!」 酔いと伴にウキウキする武者
「私はA市です、ほぼご近所ですねえ」 酔わなくてもウキウキしているハイアラ
「O市」 自分が中心でないことに不満げな天帝
「N市ならこの近所ですか?」 ウキウキついでにテンションが上昇していく武者
「ええ、まあ。でも少し距離がありますけど・・・」
「おお!、この近くですか! 私もこの近くですよ! これを機会にカラオケでもどうですか?」 すけべ心がムクムクと湧き上がる武者 「近くということは、何町ですか?」 質問を更に重ねていく。
「そちらはどちらなのですか?」 さすがに警戒し始めたのか武者の質問には直接答えず、質問返しをする女性
「K町です。」 いとも簡単に事実を露呈する武者
「・・・・・・・・・・・・・・・・」 若干の間があったあと
「K町のどこですか?」 更に女性からの質問が放たれた。
「TのXXです。」 無邪気に答える武者
3人の女性はお互いに顔を見合わせ、不思議な笑みを交わした。
「この娘もTのXXですよ。」 武者の前に座った女性が右隣、すなわち武者の斜め左に座った柔らかな感じの女性を指差して言った。
「?????????」 状況が把握できない武者 「え? 同じ番地ですか?」
暫く間があって 「武者さんですか?」 柔らかな女性が尋ねた。
「は、はい? そうですけど。」
「Yです。 隣の・・・」
「え! Yさんの所のお嬢さん!?」 絶句する武者。 パンパンに膨らんでいたすけべ心はヘナヘナと萎んだ。
そして武者にとって完璧なパンチが放たれた。「武者さんは真面目な方だと我が家では評判なんですよ。」 他のメンバーに武者を紹介するお隣のお嬢さん。この説明に対して若干の疑惑の雰囲気がメンバー間で共有された。
次の日の朝、玄関前の花をいじっている武者の背中越しに声がかけられた。
「おはようございます。」 振り向くとそこには、Yさんの奥さんが出掛けようとしている娘を送り出しながら明るく武者に声をかけたところであった。 奥さんの肩越しに娘が微笑みながら軽く会釈をし「おはようござます。」と挨拶した。
「おはようございます」 緊張と後ろめたさを少し感じながら、ためらいがちに真面目な武者が答えた。
朝は清々しく、南東の太陽が武者の背中を暖めていた。
(2002.4.6)
ページトップへ
「手仕事」
英国での数週間に亙る営業トレーニングが修了した夕方、研修生は皆ドレスアップして夕食会に参加した。
武者も研修マネジャーから予め「明日はトレーニングの最終日で、夕食会をするからスマートカジュアルで来なさい。」と指示を受けていた。スマートカジュアルという言葉の本当の意味が分からなかったこともあるが、何分、英国に来るにあたって武者が日本から持って来た服は、休日用のジーパンかスラックスに幾つかのポロシャツとトレーナー、或いはビジネススーツが数着のみであった。
「まあ、いつも会社に着て行っているグレーや紺のスーツは止めておく以外にないな」
という安直な結論から、中でもっとも色合いが明るく、ダークグリーンの糸で縫製されたダブルのスーツに、ウエッジウッドのタイピンとカフスを付けて参加することが武者にとっての精一杯のスマートカジュアルであった。
指定されたホテルに着くや、武者は気後れしてしまった。
ビジネススーツを着ている者など武者以外には居なかった。男性は派手な色のジャケットを、女性は大きく胸や背中が開いたドレスや大きく割れたスリットが入ったドレスを着て、惜しげもなく肌や足を見せて楽しげにお互いのドレスを褒め合っていた。例え露出した肌がシミで覆われ、スリットから見える足がどんなに逞しく、ジャケットが青蛙やカメレオンにも負けない緑色であっても、素晴らしいと褒め合う彼らの感覚は武者にとっては計り知れないものであった。一部の女性研修生から "Oh! Musha! Good jacket, uh..n! Nice tie pine." とお世辞を言われてもはにかむしかなかった。
しかし、そんな中でもやや小柄でブロンドの髪のケリーは、研修中の印象そのままにダークで決して派手ではない、武者の感覚でも上品と思えるドレスを着ており、その顔立ちと落着いた振る舞いと人を惹きつける笑顔がフィットして、もっとも好感が持てた。
庭でカクテルやワインをひととき楽しんだ後、一同はホテルの一室に移動し、だ円形のテーブルに思い思いについたが、トレーングマネジャーがケリーを武者の横に指名して座らせた。武者にとっては最上の条件でディナーが始まった。
料理を食べ、酒が進むほどに話は盛り上がり、着て来たドレスとは裏腹のイングリッシュジョークで場は盛り上がって行った。まあ、武者にとっては下ネタとはいえ殆ど理解できない話ばかりであったが、そこは場の雰囲気とほんのり頬に赤味が差したケリーの笑顔で十分楽しめた。
トレーニングマネージャーが仕事に関する話をし始め、場がマネージャーに集中した。
「・・・で、この講演会にドイツ人が演者で呼ばれており、信じられないことが起こった。聴衆の多くは大学教授や見識者ばかりだ。数百というそういった聴衆の前でドイツ人が自己紹介した。彼は自分の名前を職人と言いたかったんだろうよ。こう言ったんだ。『 私の名前はxxxxです。英語で言うとハンジョです。』」
こうマネジャーが言った瞬間、緊張の糸が切れて大声で笑う者や女性の幾人かは Oh, no! と苦笑した。武者の隣のケリーもちょっと苦笑いしていた。武者だけがポカンと一人取り残された。
そんな、武者を目ざとくマネジャーが見つけ楽しそうに聞いた。
「分るか? 武者。」
「うん.....、ドイツ人が講演の初めに自己紹介したんだろ? お偉い人達の前で。職人という意味の自分の名前を英語で置き換えて.....、そこが良く聞き取れなかった。」
「彼は自分をハンジョって紹介したんだ。」
「そう、それ、ハンジョって何だ?」
「ハンジョだよ。」
「ハン、ジョ?」
マネージャーはゆっくり発音した。
「ハンド、ジョブ。分るか?」
「ああ、ハンドジョブか?・・・・で、何が変なんだ?」
周りはまだ、クスクス笑っている。
「ケリー! 武者に説明してやって。」マネジャーが言った。
少し困ったような表情を浮かべながら、ケリーは体半分を武者に向け、はにかみながら言った。
「ハンド、ジョブよ、分る武者?」
「うん、分ってるつもりだけど・・・・、ハンドは手だろ? ジョブは仕事だよね。つまり職人、ドイツ人の説明どおりじゃないか?」
「そう、ハンド、ジョブよ。」
「で? 何が可笑しいの?」
ケリーはもう仕方ないといった風で仕草を交えて言った、周りの視線をやや気にしながら。
「ハンド、・・・・・ジョブ。」
「あぁーぁ! そ、いう意味ね・・・・」
彼女の仕草に軽い驚き覚えながらもブロンドの髪を少し掻き分け、やや伏目がちに緑の瞳で武者を見つめながら、酒のせいなのか問題となった言葉のせいなのかは定かではないが、顔をほんのり紅潮させて語りかけられたことが、武者に時間を経るごとに幸せな気分にさせていった・・・・、彼女の細くしなやかな右手の指が筒を握った形のまま細かく何回か上下させたのを思い出すたびに。
ページトップへ