
NAOKO KUDOU

工藤直子さんの詩は、小学校や中学校の教科書によくでていますね。初めて見たのは、やっぱり教科書でした。
メルヘンだ〜って思いました(笑)。それまでは、くら〜いかんじの詩・・・情景を表しているものより、ドロドロとした
心の中の葛藤とか、そんなのが好きだったんだけど、こういうのもいいな〜って思ったのはこの人の詩を読んで
からです。あたたかい気持ちになれる詩が多いですよ〜。
工藤直子 「くどうなおこ詩集」 より
「てつがくのライオン」
ライオンは「てつがく」が気に入っている。
かたつむりが、ライオンというのは獣の王で哲学的な様子をしているものだと教えてくれたからだ。
きょうライオンは「てつがくてき」になろうと思った。
哲学というのは座り方から工夫した方がよいと思われるので、尾を右にまるめて腹ばいに座り、前肢(まえあし)を
重ねてそろえた。
首をのばし、右斜め上をむいた。尾のまるめ具合からして、その方がよい。尾が右で顔が左をむいたら、でれりとしてしまう。
ライオンが顔をむけた先に、草原が続き、木が一本はえていた。
ライオンは、その木の梢を見つめた。梢の葉は風に吹かれてゆれた。ライオンのたてがみも、ときどきゆれた。
(だれか来てくれるといいな。「なにしてるの?」と聞いたら「てつがくしてるの」って答えるんだ)
ラ
イオンは、横目で、だれか来るのを見張りながらじっとしていたがだれもこなかった。
日が暮れた。ライオンは肩がこってお腹がすいた。
(てつがくは肩がこるな。お腹がすくと、てつがくはだめだな)
きょうは「てつがく」はおわりにして、かたつむりのところへ行こうと思った。
「やあ、かたつむり。ぼくはきょう、てつがくだった」
「やあ、ライオン。それはよかった。で、どんなだった?」
「うん、こんなだった」
ライオンは、てつがくをやった時の様子をしてみせた。
さっきと同じように首をのばして右斜め上を見ると、そこには夕焼けの空があった。
「ああ、なんていいのだろう。ライオン、あんたの哲学は、とても美しくてとても立派」
「そう?・・・とても・・何だって?もういちど云ってくれない?」
「うん、とても美しくて、とても立派」
「そう、ぼくのてつがくは、とても美しくてとても立派なの?ありがとうかたつむり」
ライオンは肩こりもお腹すきもわすれて、じっとてつがくになっていた。

「ライオン」
雲を見ながらライオンが
女房にいった
そろそろ めしにしようか
ライオンと女房は
つれだってでかけ
しみじみと縞馬を食べた
工藤直子 「うたにあわせて あいうえお」 より
「おれはかまきり」 かまきり りゅうじ
おう なつだぜ
おれは げんきだぜ
あまり ちかよるな
おれの こころも かまも
どきどきするほど ひかってるぜ
おう あついぜ
おれは がんばるぜ
もえる ひをあびて
かまを ふりかざす すがた
わくわくするほど
きまってるぜ
工藤直子 「あ・い・た・く・て」 より
「痛い」
すきになる ということは
心を ちぎってあげるのか
だから こんなに痛いのか

「こころ」
「こころが くだける」というのは
たとえばなしだと思っていた ゆうべまで
今朝 こころはくだけていた ほんとうに
ひとつひとつ かけらをひろう
涙が出るのは
かけらに日が射して まぶしいから
くだけても これはわたしの こころ
ていねいに ひろう
「夜なか」
寝返りうたなきゃ さびしくて
寝返りうつと なおさびしくて

「いいえより はいが」
いいえ というより
はい と答える方が
どれほど むずかしいことか
あなたは知っているだろうか
きのう
はい と答えたために わたしは
わたしのひとりを 殺してしまった
・・・・それはまるで
みえないところではずれたホックのように
かすかな悲鳴をあげたようだが
死んだわたしが残していった
ハンカチを洗濯しながら
わたしは涙をこぼしている
(陽気な返事のかげに消えた たくさんのおくびょうなわたし)
ハンカチをひろげよう
遺言状のように
・・・・それはまるで
ちいさな胸とおんなじに
みられることを恥じているのだが
