アトガキ

テーマは「くす」です・・・
最後にくす、となったらワタシの思うツボ(笑)
ありがとうございます。






私は、お気に入りの紅茶(目の前に座っている友人が淹れてくれた)の入ったカップを

ガチャンと乱暴に置いて、呆れた顔を彼女に向けた。

「まだ電話してないの?」

だって、と目の前の友人はすねたような顔をする。

「もう2週間も経つんじゃないの?」

カレンダーを見て言うと、「2週間と2日!」と訂正された。

彼女には恋人がいる。違う学校に通っている人なので、ちゃんと約束を取り付けないと、

2週間も会わずにいられるのだ。

彼のことを、私はよくは知らないけれど、話を聞く限り気持ちのいい、年相応の青年みたいだ。

その彼と、つまらないことで喧嘩したと彼女が言ったのは、もう2週間も、いや2週間と2日も

前のことで、それ以来連絡をとっていないというのだ。

つまらないこと、は本当につまらないことで、言うのも憚られる。

その話を聞いた時、私は思わず「は?」と聞きなおしてしまった。

「私の気持ちなんてわかってくれない」

「いや、わからないでしょ、それ・・・明らかに説明不足だって」

「説明しなくてもわかってほしかった」

「・・・」

足をきゅっと抱いて俯く小さな彼女は、多少の贔屓目はあるとしても、とても可愛いと思う。

ふう、という溜め息が同時に漏れた。彼女と私と。

「このまま連絡をとらないと、これで終わってしまうかもしれないよ。それでもいいの?」

「わからない」

「わからない、って・・・」

「失いたくないのか、失ってもいいのか、考えることすら憂鬱になっちゃうんだ」

「困った子だね・・・」

電話を手の上で転がしながら、ひどく傷ついた顔で彼女は言う。

「向こうからかけてこないってことは、彼がこのまま終わってしまってもいいって思ってるって

ことじゃない?私からかけたら、そこがあやふやなまま、同じことの繰り返し、の気がするのよ」

「・・・試しても仕方がないことだよ」

「仕方がないことだってわかってる。わかってるけど」

 

「自分がすごくつまらないことをしてるってわかってるつもり。だけど、相手にとって自分は

失ってもいい存在なんだなって思うと、何も出来なくなっちゃうの」

「・・・」

もちろん、彼女はそんな意地は捨てて、自分から電話しなよ、と私が言うのを待っているのだ。

無意識にしろ、意識的にせよ。

もし、本当にどうでもいいなら、こんな顔で相談したりするはずがない。

背中をぽんと押してほしいのだ。

「あのさ、これは私じゃなくてあなた達二人の問題なんだから、私はああしろ、こうしろとは

言わない。だけど、失いたくないと思うなら、電話をかけなさい。

手放すのは簡単なんだから。

つまらない意地を張っても、失うばっかりだよ。

それってほんと、つまらないことだよ」

 

 

彼女の部屋を出て、坂道をゆっくり歩いた。

外はもう暗くなっていた。

「人のことは言えないか」

こ憎たらしいあいつの顔が思い浮かぶ。甘い言葉の一つも言ってくれず、減らず口ばかりたたく、あいつ。

でも、本当にいてほしい時には、いつの間にかそっと隣にいてくれる。





そして私は、電話のボタンを押した。