アトガキ

寒い季節になってきました。
近所の中学生が、なかなか別れられず、遅くまで話しています。
そんな時代もあったよね〜♪
なんか、ちょっと無理して甘い話を書いてしまいました(ちょい後悔・・・)。





夜中の電話




空気が冷たく、しんと静かな夜のことです。

私は暗闇の中に浮かぶ、一つの明かりに気がつきました。

青白くぼんやりと浮かび上がったそれは、夜中の公衆電話。

電話ボックスの中には女の子がいて、時折、かじかんだ手にはぁっと息を吹きかけ、

また受話器を握り締めます。

こんなに寒い夜なのに、彼女が外で凍えながら受話器を握り締めるその理由を、

何故か私は知っているのです。

外の寒さとは反対に、不思議な温かさを感じていることも。

こっそり家を抜け出して、近くの公衆電話で話す相手は、女の子の好きな人。

冷静を装いながら、とりとめのない話をしている。上気した顔つきで。

本当は、溢れ出す想いを必死に隠しているのです。

指先は真っ赤になって、吐く白い息がふわふわと流れます。

私はどうしてもその女の子が気になり、遅いからもう帰りなさいと声をかけようとして

近付きました。

丁度、女の子は電話を切って、なおも名残惜しそうに電話を見つめていました。

「ねえ」

振り返った女の子の顔をじっと見てみたら、どこかで見た顔。

それは、10年前の、私でした。

「あ―――」



いつの間にか、寝てしまっていたようで。

近くにおいていた携帯電話の振動で私は目を覚ましました。

「もしもし」

「ごめん、寝てたか?」

気遣うような彼の声。

「ううん、大丈夫。・・・今、外?」

「うん・・・」

いつもより少し、元気がない気がしました。

「何か、あった?」

「・・・いや、声、聞きたかっただけ」

少しの間があってから、彼はきっぱりと言いました。

「そっか」

それから私たちは、とりとめのない話をしました。

彼は強い人なので、私がしてあげられることはいくつもありません。

だから、必要とされるなら、出来るだけ、寄り添っていたい。せめて心だけでも。

時折、彼のはぁっという息を吹きかける音が聞こえて、私は少しおかしな気分になります。

冷え性の私の手を、いつも温めてくれた彼の手も、今は夜の空気にさらされて、

冷たくなっているのでしょうか。

凍えながら電話を握り締めているのでしょうか。

くもった窓硝子に触れると、ひんやりとしていて、外の寒さが感じられました。

静かな夜。彼の息遣いが聞こえてきそうな。

私はあの時と違って、暖かな部屋で。

それでも、あの時感じていた不思議な温かさは、同じで。

同じものを、彼も感じていてくれてたらいいけど。

いつもの声で、彼が言いました。

「お休み」

「お休み。・・・またね」

窓の外には、シリウスが嘘みたいに眩しく、輝いていました。