従来の緩速ろ過

原理
 緩速ろ過の原理は生物処理であることである。急速ろ過,膜ろ過はいずれも生物の働きを嫌う。そのため塩素をあらかじめ投入することが行われている。その ようにするならば,浄水処理が安定し,人の制御が容易になるというものである。欠点は,有機物や細菌を嫌い,それらの生態系を除外したところの人工 的な手段であるから,生き物としての人間に優しくないこともある。あまりにも原理的話であるが,緩速ろ過の奥深いところを知っておく必要がある。
 緩速ろ過は,微生物や小動物,植物などの生態系を自然な方法で発達させ,結果として良好な飲み水を作る。たとえば赤痢菌は砂の間に発達したろ過膜に捕ら えられ,自然の細菌群に分解されてしまう。
 赤痢菌は,緩速ろ過池は繁殖に適さない世界であるから生態系の秩序に従って食われてしまうのである。
 有機物は,一般に人間の廃棄物(食べかすやトイレ成分など),あるいは植物プランクトンなどであるが,池では人間由来の成分は生態系を用いて除去されて しまう。植物プランクトンや肥料は池の表面水では逆に繁殖することがある。これはあるべき生態系を考えるならば理解できよう。ろ過砂ではこれらは分解され る。それは生物の生息条件が変わりそれに適さないものは除去されるためである。
 このようにして,多くの動物由来の細菌は分解され,人工的な有機物も分解除去される。これが緩速ろ過のすごさである。
 今問題となっているクリプトスポリジウムはろ過膜に吸着され,時間をかけて分解される。ろ過水には漏出しない。

利用される場所
 通常は河川の中流,上流で利用される。もちろん河口近くの都市でも使われているが,近年次第に急速ろ過などに置き換わってしまう例が多くなった。これは ろ過速度が低 く生産的でないと見られること,下流の汚濁水では維持管理費が必ずしも安価でないことによる。
 上流は浄水場が小規模である。コストの安い方法となれば現在の普及している方法では緩速ろ過となる。膜ろ過は結果として大変高価であり,交付金減額に泣 く 自治体の重荷になっているようである。なんだかんだといっても経験者がいれば何とか安価にやっていける緩速ろ過は,今後も中心的方法となるべきであろう。

色々な問題点
 なんといっても,生態系が完結するには時間がかかる。そのためろ過速度は4〜5m/日と極めて遅い。早くすると中途半端なろ過水になることがあるとされ る。しかしながらろ過速度はもっと速くてもよい場合が少なくない。一般的には早くするほうが運転順調意とされる。特に伏流水など比較的有機物や藻類が少な い場合は3倍以上にするのがよいとされている。ただしこれは設計指針では認められていない。減水にかかわらず一律指針となっている。
 有機物が少なすぎると微小藻類が流出することがあるので,池は十分太陽光線を取り込んでわざと藻類を発生させるとよいとされてきた。しかしきれいな伏流 水をわざわざ汚濁させて,砂できれいにするのはあまりうれしい方法ではない。かえって処理を複雑にし不安定な維持管理となりや安い。装置的に考えを巡らす 必要 がある。細砂ろ過はその一つの方法として提示された。
 ろ過速度を高めると藻類が繁殖しすぎるのでろ過抵抗が上昇する場合が少なくない。これに対しては50%遮光するという研究発表がある。
 湖沼・ダム水など藻類由来の有機物が多い場合は緩速ろ過も目詰まりが早くなる。藻類は細菌に分解されるのに長期間かかる。7日程度では簡単には死滅しな い。この場合ろ過膜はお手上げとなることもある。その場合はあらかじめ凝集沈殿処理などが行われている。
 藻類が相当あって有機物が多いとなると,ろ過膜が繁殖しすぎて嫌気性になることがしばしばある。この場合,ろ過速度を速める方が結果はよいの が一般的である。
 窒素とリンが多い場合,ろ過池で藻類が猛烈に繁殖することになる。このような水は河川水では一般的である。これを避けるには池で藻類の繁殖を抑制するこ とが行われている。塩素投入はあまり芳しくない結果をもたらすであろう。塩素は藻類の繁殖を止めるだけでなくろ過膜をも消毒してしまう可能性がある。

クリプトスポリジウム
 濁度をクリプトスポリジウム対策として0.1度以下とするとされるが,緩速ろ過では厳しい場合もある。しかしながら緩速ろ過の濁りはろ過膜の残さであ り,無害である。他の方法が濁度の上昇は即その危険性を示すのとは異なることを理解しなければならない。
 たとえば膜ろ過では上流水で濁度1度の場合,ろ過水濁度0.1度は90%除去であることを意味する。ろ過として極めて問題が大きい。この場合,濁度0. 001度としても除去率は99.9%にすぎない。ところが膜ろ過ではこれは出来ない相談である。このように膜ろ過では少なくとも濁度0.005度以下が絶 対条件になるのに対し,緩速ろ過では濁度0.1度は十分すぎる条件となる。

維持管理費
 緩速ろ過は維持費が安いか? 何処に金を使うかといえそうであるが,現実には下流では月1回の砂掻き取りを行うのである。そうすると人件費が馬鹿に出来 ない。安い労働を使うことを行っているところなどは十分安価ではあるが,外注ではコスト削減に限界があろう。いずれにしても人件費の削減は命題である。
 上流では,大水時の濁質に泣かされる。これがしばしば襲ってくるのであるからたまらない。この場合問題は無機濁質である。ほとんどの場合これが問題にな るといっても過言でない。

その他の方法との比較
 あれやこれや問題があるとしても,上流の小規模浄水処理では緩速ろ過が適しているであろう。
○急速ろ過では正しい維持管理は現実問題として困難である。自動運転にも限界がある。下手をすると風呂の中で凝集剤が働きだして白濁してしまうこともある と聞いたことがある。凝集剤を入れないまま運転しているところもあるようだ。この場合,晴天時には高速生物ろ過で浄水機能がある程度働く。しかし濁水時の 後では未処理,原水そのままの水を給水することになる。
○膜ろ過は高コストである。建設費だけでなく維持管理を考えると小規模浄水には問題があるようだ。地方ではコストダウンが至上命題である。1立方メートル 当たり少なくとも浄水処理コストを50円以下にする必要がある。浄水費が50円以下であっても家庭までの配管が長いのでトータルコストは結構高くなる。地 方においては収入が少ない家庭が多く水道料金を下げるのが行政の課題であるが,之に逆行する。
 加えて,劣化の問題がある。上記のクリプトスポリジウムで述べたように,谷の沢水では晴天時濁度1あるいはそれ以下であるから,0.001度をろ過条件 としたい。しかし膜劣化により原水が漏れるようになるため,この条件の運転は難しい。もちろん3,4年毎に膜を取り替えるならば問題はなさそうであうがコ ストがそれを難しくしている。
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