口吻くちづけ

 人気のない路地裏。二人の少年と、力を無くした男の姿。

「手塚、早く君も飲まないと。そろそろ人が来る」
「……」
「手塚…?」

 全く動こうとしない手塚の様子を訝しんで、不二が顔を覗き込む。それでも手塚は動こうとしなかった。

「飲まないつもり? もう何日“食事”をしていない? 青い顔をしてる。さあ、早く」
「……」
「…後悔してるの?」

 わかっている。
 君が他人の生血を啜って生き続けることに罪悪感を感じていること。そんな自分に嫌悪感すら抱いていることも。

 でも――

「ダメだよ」

 不二は、動かなくなった男の首筋に開いた二つの穴から再び残りの血液を吸い出し、手塚に口づけると、無理矢理口移しで含ませた。

「う…ぐっ…不二、止めろ…」

 口内に広がる慣れた味。微かな甘みさえ感じるそれは、不二の舌と共に絡みつき、どろっと喉に纏わりつく様に流れ、やがて後に残る喉に張りつく感覚と鉄の味。

「やめてくれ…」

 二つの唇が離れた後には、暗闇に光る紅い糸。
 これが手塚と自分とを繋ぐ運命の赤い糸だったらどんなにいいだろう。恍惚とした表情でそれを見つめながら不二は思う。だがこれは、運命の赤い糸にしては余りに淫猥だ。
 不二はいつもより紅い舌で手塚の唇に残ったそれを丁寧に舐め取り、再び口づけた。
 舌を絡め合い、強く深く。

 君が罪に堕ちたあの日から、僕達のキスは血の味がする――

「選んだのは君だよ」

 まだ、逝かせない。
 終わらせてあげない。
 君がどんなに自分を責め苦しんでも。
 僕から逃げるなんて許さない。

 これは、二人で居ることを選んだ罰だから。
 永遠に続く罪の証だから――

 それは、残酷なまでに甘美な罰――