4 years
『次のおまえの誕生日に戻ってくる』
そう言って去って行った君を。
僕は今も待っている。
もうすぐ、あれから二度目の誕生日を迎える――
去って行く君の背中を見送ったのは、散る桜の中。遠ざかる後ろ姿が滲まないよう涙を堪える僕の代わりに、桜の樹が涙を流しているようだった。
『必ず戻る』
二人の約束を見届けたのは、この桜の樹だけ。
一年目は、ただただ寂しくて。君が居ない寒さに耐え切れず涙にくれた。
二年目は、ぼんやりと空虚で。君に会えるまでの残る月日の長さを思って、溜息にくれた。
三年目は、ゆったりと静かで。どこか遠い空の下の君を想った。
四年目は、小さく胸を躍らせ。一日一日と、日が沈む度に数を減らす再会までの日々を指折り数えた。
君は帰っては来なかった。
また次の四年。
ぽっかりと空いた穴を抱え。それでもまだ、僕は待っていた。
「ねぇ、不二。いつまで手塚のこと待ってるつもり」
そう言って英二は不満顔で、頬を膨らませ唇を尖らせて怒る。僕の顔を見る度に同じ言葉を繰り返す英二の隣で大石は、親友の弁明をするのに苦慮している。
待つことにはもう慣れた。予定を超えたこの四年間は、不思議と穏やかな時間だった。ただ、いつまでなのかはわからない。次の誕生日までなのか、またその次なのか。この時間がいつまで続くのかはわからなかった。誕生日が毎年巡ってくれば、次の誕生日までの時間は短くて済んだのかもしれない。けれど、その度に訪れる失望の数を数えれば、四年というサイクルは優しい時間なのかもしれなかった。四つの季節を経て一年が巡るように、一年を四度繰り返して一つの周期。僕の時間は、人の四倍の時間をかけて、ゆっくりと進んでいた。
もうすぐまた、四年の歳月が満ちる。
四年に一度の潤いの日。
その日を迎えればまた、新たな四年を歩み出すのだろうか。次の四年はどんな風景だろう。
君の背を見送った桜の樹の下。花弁を開かせるには未だあと一月ほど。その枝に手を伸ばし、そっと指先で触れる。
ねぇ、キミは覚えているかい。あの日の僕たち二人を見ていただろう。
彼が確かにそう言ったと、違わずそう言ったと。
証人はキミしかいないんだ。
僕の幻聴なんかではないと。
お願い、証明しておくれ。
ここを訪れたのは、あれから二度目だ。前に来たのは、四年前。彼を見送った後と、四年前の僕の涙を吸った幹に額を預けて語りかける。夢幻でもいい。年輪を重ねた大樹に霊力が宿るというなら、彼の幻影を見せて。僕の元へ帰ってくると言った、その声を聴かせて。
「不二」
背後から届いた声に、ゆっくりと顔を上げて振り返る。
「すまない。遅くなってしまった」
春を呼ぶ風が訪れたあとの遅い雪が、あの日散っていた桜の花弁の代わりのように舞い始めた。
「また、次の誕生日まで待たなければいけないかと思ったよ。だって、僕の誕生日は四年に一度しかないんだよ……」