そんな1日

 携帯電話がメールの着信を知らせる。少し間を置いて、再び着信音。しばらくして、また。
 寝ぼけ眼で引き寄せた携帯電話のメールボックスは、未読メールでいっぱいになっていた。普段はそんなに連絡を取り合うこともない他校生の名前もある。

「はよ」
「おう」

 メールの確認をしていていつもよりリビングに降りていくのが遅くなった。一足先に起きていたは、ネクタイを首に引っ掛けたままコーヒーを啜っている。両親はとっくに仕事に出掛けている。
 ダイニングテーブルには、「亮へ」と書かれたメモと、弁当箱の代わりに包みが置かれていた。

「先行くぞ」

 コーヒーを飲み干して手早くネクタイを結んだは、鞄を肩から掛け、先に出掛けて行った。隣の家から出てきた自転車と、2台が連れ立って走って行く。
 始業時間10分前に登校すると、校門の前で5割増しの笑顔の長太郎が待っていた。朝練の後、わざわざ急いで着替えてきたらしい。
 教室へ辿り着くまでに、男女、同級生、下級生を問わずに声を掛けられた。
 今日は休み時間の度にやたらと人が訪ねてくる。
 昼に包みを開くと、昼飯はチーズサンドだった。2切れ目に齧り付いたところで、廊下から呼び出される。
 席に戻ると、岳人がパックジュースを寄越した。

「やるよ」
「おー。サンキュ」

 机に上には黄色い頭が乗っていた。寝言で「おめでとー」と言われた。
 放課後は久し振りに部室に集まって、少しテニスをした。跡部との手合わせは、軽くのつもりがいつの間にか熱を帯びて真剣になっていた。
 家に帰ると、少し遅れてが帰ってきた。玄関が閉まる音に続いて、階段を上がる足音が聞こえる。部屋の前を通り過ぎるとき、コツンとひとつドアが叩かれた。

「なに?」

 ドアを開けると、の部屋のドアが閉まるところだった。カサッと音がして視線を下げると、ドアノブにビニール袋が引っ掛かっている。
 取り上げて中を覗くと、某アイスクリームショップのチョコレートミントが入っていた。

「サンキュ」

 隣のドアに向かって言うと、「おう」と返事が返ってきた。