ほんのちょっとした隙に、消えてしまうような気がして
だから
手放せない。
『チョウチョ』
後ろから抱きすくめると、その小さな体は、すっぽりと自分の腕の中に収まった。
・・・・・・ちゃんと食べろと言っているのに、未だ食生活は改善されないのだろうか。
まぁ、個人にはそれぞれ、食べた分体の成長する個体と、食べても食べても体格に出ない個体とが、それぞれ有るのだが。
「・・・・・・何だってばよ?シノ・・・・・・?」
いきなり何するんだ、と言いた気に、詰る目でこちらを見る、ナルト。
「蝶が逃げちゃったじゃんか・・・・・・」
せっかく触れそうだったのに・・・・・・、と残念そうに、その蝶の後姿を目で追う。
同じ方向に視線を這わすと、確かに、ひらひらと1匹の蝶が、木々の間へと消えていった。
「蝶はあまり触れない方がいい・・・・・・鱗粉をあまり落とすと、蝶が困る」
「ふぅん・・・・・・そっか。でも、せっかく珍しい蝶だったのに・・・・・・もっと見てたかったってばよ」
そう言って、大げさなため息をつく様子は、まるでお前の所為だ、と言っているようである。
(実際そうなのかもしれないのだが)
「どんな蝶だったんだ?」
生物全般ならともかく、虫だけなら知識に自信は充分有った。
「全体的に青っぽくて・・・・・・時々紫色に見える羽の、結構大きくて綺麗な蝶」
「あぁ・・・・・・」
それだけ聞けば、該当しそうな蝶が脳裏に浮び上がった。
種としてそこまで希少なわけではないが、生息地が限られているため、「珍しい」といえば確かにそうかもしれない。
「それならたくさんいる場所を知ってる。今度連れて行ってやろう」
言葉少なにそう言うと、ナルトは
「やった!約束な、シノ」
と、嬉しそうな顔をして、念を押すように言った。
無言のまま頷く。
体勢は、依然後ろから羽交い絞めにしている状態である。
「なぁ・・・・・・シノ?もう放してくんない?」
「・・・・・・何故?」
「『何故』って、・・・・・・お前がこうやってんのこそ、何でなんだってば・・・・・・」
問い返すと、ナルトは呆れたような表情を見せた。
言っていることは、確かに正しい。
とは言いながらも、腕の中のナルトは、抵抗するでもなく大人しく収まっている。
「シノって、時々こうやって後ろから抱きついてくるよな・・・・・・何でか知らないけどさ」
「そうか・・・・・・?」
「そうだってば。しかも、絶対俺が後ろ向いたとき」
「・・・・・・・・・・・・」
「何か抱きしめられるって言うより、捕まえられてる感じ」
「・・・・・・・・そう、かも知れないな」
「何で?」
「逃げるような・・・・・・気が、するから」
「逃げる?・・・・・・俺、別に蝶とかの虫じゃないってばよ・・・」
一緒にするな、と言いた気な目で、こちらを仰ぐように見上げた。
「分かっている・・・・・・」
分かっている。
けど、そんな気がする。
捕まえていなければ、捕らえていなければ。
逃げる、というより、突然消えてしまいそうな後姿。
触れていないと存在の確かめようが無いような、不安感。
心配のし過ぎ?
そうかもしれない。
それでも、それが想いの深さ故だというなら
それでいいとは、思っているのだが。
失いたくないだとか、ずっと触れていたい、隣に居たいだとかいう、貪欲なまでの執着心が
すべて、彼に在る、というのなら。
「・・・・・・ま、いいけどさ。もーいい加減放せってば」
「もう少し、このまま・・・・・・・・・・・・」
お前が、離れてしまわないように。
俺が、安心していられるように。