Teaty



いきなりするといつも怒るので

アイツの言うとおり、許可を取ってからすることにしてみた。



「オイ、キスしていいか?」
大真面目な顔で、サスケが聞いた。
ナルトの表情が固まる。
「・・・・・・・・・・・・なんて答えて欲しいんだってば」
「『いいよ』に決まってんだろ」
当然だろ、という顔でサスケ。
「お前さぁ・・・っ」
ナルト、脱力したように肩をがくりと落として、しかしその肩はフルフルと震えている。
「そんなんいきなり聞かれて答えられるかっ!」
怒った口調で叫んでみるが、うつむいた、呆れと怒りの混ざった表情の顔は朱色に染まっている。
怒りのためか、それとも羞恥ゆえか。
はたまた、両方の感情のなす技か。
「お前がいつも、『いきなりすんな』って怒るから、許可とろうとしたんだろうが」
やはり怒ったように言う、サスケの主張も、それはそれで正しいといえよう。
サスケに不意打ちを食らった後に、顔を真っ赤にして喚く自分が思い出された。
(だからって・・・・・・・・・・・・)
そう。
だからと言って、いきなり、していいかどうかなど聞かれて『うん、いいよ』なんて答えられるような自分でもない。
そういう自分の性格を、ナルトはもちろん承知しているし、サスケだって分かっているはず。
分かっているんならいいじゃないかと。
「嫌だ」
きっぱりとナルト、意思表示をした。
当然サスケの表情が、それであっさりと納得するはずもなく。
「・・・・・・なんでだよ」
「なんでって・・・お前がいいかどうか聞いたんだろっ。返事したじゃんか」
返事は、した。
それが、相手の望む答えであったかどうかなんて、こちらとしては知ったことではないし。
なんか文句あるのかよ、と。
ナルト、こんなわけの分からないやり取りに時間をとられるのはゴメンだとばかりに、そっぽを向いた。
そのナルトの肩をつかんで、サスケがぐいっとひっぱる。
「え?・・・・・・・・・・っっ!?」
有無を言わさず触れてきた唇の感触に、脳内思考が一瞬停止する。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・このっ・・・馬鹿ーーーー!!」
ゴン・・・っ
と。
いい音がして、サスケは脳天に容赦ない拳骨を喰らった。
「って・・・・・・てめ・・・何しやがる」
「それはこっちの台詞だってば、このアホっ!」
「ちゃんとあらかじめ聞いただろーが」
「嫌って言っただろ!訊いたんだったら人の返事くらいちゃんと聞けってばよ!」
「訊いたってお前、了承なんかしねーだろうが」
ふんぞり返ってそう言うサスケは、自分のことを悪いとなんか思ってはいないに違いない。
『了承なんかしない』
確かにそうだ、そうだとも。
だからって。
「だからって、人の意見を無視すんなっ。だったら初めっから聞くなってばよ!」
「ふぅん・・・じゃ、いきなりで良いんだな?」
「・・・・・・うっ・・・・・・」
「良いんだな?」
「それも・・・どうかと・・・」
「どっちなんだよ・・・・・・」
「どっちもヤダ」
「じゃあ、お前が聞かれたときに了承すればいいんだろうが」
「う・・・・・・そっか・・・な?」
追いこめられるように理論詰めされれば、元来ものごとを深く考えるのに適していないナルトは、どんどんサスケに都合よく流されていく。
今回も。
ナルトは
(そっか、俺が『いいよ』って言えば、それで済む話なのか・・・なぁ・・・)
などという結論にまで、達しかけていた。
・・・・・・が。
今日のナルト、いつもとは一味違ったらしく。
「ちょっとまて、おかしいってばよ。やっぱ俺が嫌だっていったんだから、サスケがおかしいんだってば」
一瞬ほくそえんだサスケ、心の中で舌打ちした。
(ちっ・・・、変に頭回るようになりやがって・・・・・・)
口にすればナルトは100%怒るであろう言葉は、半分を胸に秘めることを覚えたサスケであった。
このままナルトを上手く丸めこんで、あわよくばこのまま・・・・・・、などと下卑た考えを抱いていたサスケとしては、もちろん非常に面白くない展開。
しかも、このナルトの怒りよう。
下手に触れば、ブチ切れて、イルカ先生またはカカシ先生の家へ行ってしまい、しばらく帰ってこなくなる、何てこともありうる。
それどころか、先1週間は口をきいてももらえなくなると言うことも、サスケはすでに幾度となく経験済みだ。
(サクラには相性が合わないんじゃないかと言われるが、サスケとしては、倦怠感を感じない良い関係だと結論付けている)
反論すれば、ナルトの激昂(その後三行半(?))は必至。
とすれば・・・・・・?


「嫌かよ、俺とキスすんの」
「え?」
急に沈んだサスケの声に、ナルトはきょとんとする。
「だから、嫌かって聞いてんだよ」
「・・・・・・・・・・・・?」
サスケの沈み具合が演技であることぐらい、さしものナルトにも分かる。
ここで、「嫌だ」と軽く言ってしまえば、コイツを本当に沈めるのなんて簡単なのだろう。
しかしそれは、本心ではなくて。
キス自体は、嫌、ではないのだ。
いきなりするとか、タイミングがどうとかの問題であって。
とはいえ、じゃあどんなタイミングですればいいのか、と聞かれても答えられないナルトではあるが。
とりあえず、嘘はつけないナルト
「『嫌』ではないってば・・・・・・」
と、曖昧な返事しか返すことが出来ない。
が、その返事がストレートにサスケの脳に入るはずもなく、サスケの耳には
「嫌じゃないってば・・・・・・」
と言うように、みごとに変換されて聞こえている。
うちは家一族は、車輪眼と言う血継限界を受け継ぐ代わりに、聴覚の方は退化したと言わざるを得ないかもしれない。

何はともかく、希望通りの返答を(半幻聴とはいえ)手に入れたサスケに、すでにマイナス思考などあるはずもなく。
「じゃあ、キスしていいんだな・・・・・・?」
クエスチョンマークなどつけてみても、すでに響きは有無を言わさぬ命令形。



「何でそうお前は極端にしか走れないんだってばよ・・・・・・」
などという呆れたナルトの突っ込みすらも、脳内ノイズ(何でそんなもんが聞こえてんだ)と同化。
後は行動、とばかりに迫るサスケを、ぎゃあぎゃあ喚きつつ退けながら。
ナルトは3週間ぶりのイルカ先生宅行きを決意するのだった――――。




終われ