だって、誕生日なんだから。『特別』にして欲しい、って願うのは、当たり前。我儘でもなんでも、ないでしょう?大切な人になら、なおさら。
特別。
ナルトは、むぅっとした顔で、目の前のシノを睨み上げた。先ほどから読書をし始めたシノは、それに気付かない。ナルトの家に来てシノがすることといえば、せいぜいナルトのたわいもない話の聞き役か、読書。ナルトの家で出来ることなんて、そもそもそれぐらいしかないのだ。修行の相手になれ、とナルトから強要されたことはあったが、シノは断った。もともと自分は肉体的な『強さ』を鍛える相手として、ナルトに向いていないことが、シノには分かっているのである。自分の専門分野といえば、家系によるその蟲の操作。それが役に立つのは、たとえば情報戦であり、追跡活動であり。『殺す』という目的無しの実践においては、あまり自分の得意分野は発揮されない。もっとも、実践、つまり戦闘能力や飛び道具の扱いなどが、人より劣っている、というわけではないけれど。最近目覚しく成長してきているナルトに、自分が教えられるほどでもないだろう、とは認識している。『それでも、シノと2人で修行したいんだってば』というような、それだけで自分の気分を浮かせるだろう言葉を。ナルトが飲み込んだなんてことは、シノには想像も及ばないことであったが。なんにせよ、シノはナルトの家でこうして落ち着いて読書をする、ということが気に入っていたし、ナルトもそんな日常が嫌いではなかった。だから、今まで言葉の続かないこんなシノとの時間を、ナルトもそれなりに楽しんできたのだけれど。今日のナルトは、それでも、シノに不満を抱いていた。
「シノ・・・・・・」読書の邪魔をしては悪いか、どうしようか。迷った末、小さな声で呟いた。読書に没頭していたはずのシノは、それに反応して顔をあげる。「どうした?」いつもと変わらぬ対応で。なのに、それが更にナルトのイライラを煽る。「今日・・・・・・・・・さ、それ、本読んでるだけなの?」「?・・・いつもどおりだろう?」「・・・・・・・・・・・・っ」そう。いつもどおり。いつもどおりなのだ。ナルトの部屋で、何をするでもなく無言で本を読んで、ほどほどの時間になったら帰る。いつもそれ以上、ほかの事をすることはない。でも。今日は。「今日・・・・・・・・・何の日か、知ってるってば?」「・・・・・・誕生日だろう?」「っ、知ってるんじゃんか!」「知ってるに決まっているだろう」当たり前だ、と言いたげなまでの、シノの言葉。「じゃあ、・・・・・・じゃあさ、なんか、特別にしてくれても良いんじゃないってばよ?」「特・・・・・・別?」
だって、そうじゃん。普通、誕生日って「お祝い」するもんだってば。なのに・・・・・・・・・・・・・・・・・。何にもないわけ?シノにとって俺、誕生日さえどうでも良いような存在?
あまりにも無反応なシノに、だんだん不安になる。誕生日を祝ってもらいたい、なんて、自分の勝手な我儘かもしれないけど。大好きな人に『特別』な対応して貰うだけで、嬉しいのに。
「プレゼントでも、欲しいのか?」「!!そんなんじゃないってば、バカッ」予想以上に的外れな答えを返すシノに、ナルトがだんだん腹が立ってきた。「だって、これじゃ本当にいつもどおりじゃん。俺誕生日なのにさ、ちょっとくらい、いつもと違ってても良いってばよ」ここまで言わなきゃいけないのが情けなくて。悲しさ半分、情けなさ半分、涙が出そうになるのを、ナルトはぐっとこらえた。シノが、考え込むように沈黙する。もしかして、怒ったかな・・・・・・、なんて。ナルトが今更ながら不安になり始めた頃、「こっち・・・・・・」と、自分の方へ来るよう手招きした。「・・・・・・・・・・・・・?」呼ばれるままに、シノの目の前に行く。「なんだってば・・・・・・・・・、わっ!??」言い終わるか終わらないかのうちに、ナルトはシノに引っ張られて、シノの腕の中に倒れこんだ。そのまま、座っていたシノに抱きしめられるような体制になる。「な、な、シノっ・・・・・・何す・・・?」「悪かった」「・・・・・・・・・・シノ?」表情もそうだが、淡々と言葉をつむぐシノの感情は、わかりにくい。だから、余計に言葉というものが必要になるだろうに、よりによってシノはナルトの知る中でもトップを行く無口で。「別に今日じゃなくても、お前はいつも『特別』だから。今日、別に特別なことをしなくてもいいと思った・・・・・・」しかし、だからこそ、数少ない言葉がそれ以上の力を持つ。ましてや腕の中で抱きしめれたまま、耳のそばでそんな言葉を言われた日には。「・・・・・・・・・・・・・・・っっ!!」ナルトとしては、耳まで真っ赤になって黙り込むしかない。至上最強の殺し文句だ、とナルトは思った。
コイツだったら、やり方しだいでいくらでも恋人できるってば。
そう思ったが。『それ』におちてしまっているのは、ほかならぬ自分自身のナルト。「も、もう・・・いいってばよ」それだけ答えるので、精一杯だった。「何がして欲しい?」「んー・・・・・・・・・」何がして欲しい?などと聞かれても。とにかくシノが無反応だったことだけが不満だったナルトとしては、特に何か要望があるでもなく。まして、こうやって抱いてもらってるだけ充分すぎるなどとは、心でもいえるはずもなく。「別に、なんにもないけど・・・・・・さ」
「おめでとうって」「え・・・・・・?」「まだ、『おめでとう』、言ってもらってないってばよ」「あぁ・・・・・・」そうか、とシノはナルトの顔をあげさせて、一瞬だけ触れる、キスをして。「誕生日、おめでとう。ナルト」真っ赤になって目を見開くナルトに、そう言った。
大好きな人の腕の中、一番嬉しい誕生日を。『特別』な『日常』の中で
END