「多難な恋」
10班、任務終了後の帰り道。
いつものように担当上忍アスマのおごりで、茶店で団子をつついていた。
いのとシカマルは、毎日と言うわけではないが、こんなに何度もおごっていて給料は大丈夫なのかと心配したものだが、上忍の給料ともなれば、それくらいではびくともしないのかもしれない。
さて、もういっぱいお茶でも飲むか、という頃に、
「お〜い」
と、やけにはしゃいだ声。
「ん?」
シカマル、いの、チョウジ、アスマが、一斉に振り向く。
手を振りながら走ってくるのは、ナルトだった。
「なんだ、ナルトじゃないー、サスケ君は?」
「悪かったな、俺一人で」
開口一番、不躾ないのに、むっとして口を尖らせるナルト。
いのは悪びれた様子もなく、きゃはは、ゴメンゴメ〜ン、などと謝っている。
と、そこへ来てナルトは、4人が食べているものに目が行く。
「あっ、いいもん食べてるってば。いいないいな〜」
そう言って、4人が食べていた団子に指を指す。
「ボっ、ボクのはあげないよ!」
あわてて、自分の分を隠すように下げたのは、言わずもがなチョウジ。
「いや、お前のには誰も手ぇださねえってばよ・・・」
分かってるから、と言うようにナルトが手のひらを顔の前で振った。
すると、シカマルがうんざりしたように
「ってことは俺のんかよ、お前が狙ってんのは」
と言った。
「うんvチョーダイv」
よく分かりました、とでも言わんばかりに、ナルトがにっこりと微笑む。
シカマルの顔が、少し赤くなったのに気がついたのは、アスマといのだけ。
「っち、しょーがねえなぁ」
と言って、ナルトに1本団子を渡す。
サンキュ、と言いながらナルトはそれを受け取った。
「アスマ先生でもいいんだけどさ、体の大きさ的にシカマルの方がいいじゃん」
暗にアスマのほうが良く食べるだろう、と。
「それに、いのだったら絶対、サスケにあげたかったのにー、とか、文句言いそうだし」
そう言って、ナルトは団子を1つほおばった。
おいしそうに舌鼓をうち、シカマルの隣に座る。
「いいなー、シカマルんとこは。いろいろ奢ってもらえて」
口をもぐもぐさせながら、ナルト。
アスマがそれを聞いて、豪快に笑う。
「ははははっ、カカシんとこは、何も奢ってくれねぇか」
「そうだってばよ。任務終わったら、報告した後さっさと一人で帰っちゃうもん」
むぅ、と怒ったような表情をし、愚痴った。
「たまにはさ、アスマ先生みたいに何か奢ってほしいってばよ〜」
「ははっ、じゃあ、俺の班に来るか?」
「それが出来たら、喜んでそうするってば」
ナルトがそう言うと、アスマは更に笑った。
が、それはカカシが許さないだろう。
(サクラはどうか分からないが、)サスケだったら喜んで引き渡すに違いないが。
パクパク、と食が進む。
ふと、いのがナルトの腕に血が付いているのを見つけた。
「ちょっとやだ、あんた怪我してんじゃないー」
うわ、痛そー、と顔をゆがめる。
「あ、これ、任務中に引っ掛けちゃったときの傷だってば」
ナルトはあっけなく答えた。
シカマルがため息をつく。
「そうじゃねーだろ、バイキンでも入ったらどうすんだよ。ったく・・・消毒すんぞ、消毒」
そう言って、シカマルがナルトの腕を引っ張る。
ナルトが慌ててかぶりを振って。
「え・・・、いや、いいってば。もう傷なんか塞がってるし」
「塞がるわきゃねーだろ、ほんのさっきついた傷が」
「でも塞がってるってば。見てみろ」
袖をまくって、腕の傷跡を見せる。
九尾の回復力(本人は無自覚)で、確かにすっかり傷は塞がっていた。
シカマルはシカマルで、出血量は多目だが意外と浅い傷だったのかもしれない、とかたづけて。
それでも、服の袖ににじむほどの出血は、目に痛いものがあるので。
「じゃー、血ぃ洗うから、来い」
と、やはりナルトを引っ張る。
「えぇー?別にいいって言ってんのに・・・」
「衛生上もよくねーだろ、それじゃ。俺んち一番近いから。洗っとけ」
そう言われて、ナルトも渋々シカマルについていくことにした。
ナルトの腕を引っ張りながら、シカマルが
「ったく、・・・めんどくせーやつー・・・」
と、呟く。
「めんどくさいならやらなきゃいいのに・・・シカマルってば変な奴ー」
ナルトは、勝手に決めておいて・・・、とむっとしてそう言うと、振り返って、いのとアスマと(団子を食べてこちらをちっとも見ていない)チョウジに、またな〜、と手を振った。
手を振って見送って、2人の姿が見えなくなってから。
アスマがいのに囁くように訊ねる。
「オイオイ、もしかしてシカマルもうずまきに・・・か?」
いのはきょとんとして。
「え・・・まさか気付いてなかったのー?あいつ、ナルトが来てから全然雰囲気違うじゃないー」
忍者失格ね、と非難の目で見る。
「だいたい、普通めんどくさいとか言いながら人の塞がった傷の手当て(始末?)までしないわよ」
「まぁな・・・(あいつの場合、“めんどくせー”は口癖みたいなもんなんだろーな)」
「まーったく、何で揃いも揃って男のナルトなのよ・・・。近くにこんな魅力的な私がいるってのにー」
「・・・・・・・・・・・・」
そこだけ黙るアスマ。
案の定、何で黙ってるのよー、と手痛い突込みを受けた。
「ぐっ・・・、そ、揃いも揃ってって、(カカシ以外に)他に誰が・・・?」
いのは、少し考えるように首を傾げてから。
「まずは・・・カカシ上忍でしょ、8班のヒナタ・・・は明白よね。ていうか、8班は他のシノとキバもそうだし・・・」
言いながら、指折り数えていく。
「イルカ先生は・・・また違うかな。あとあの砂の里の我愛羅?ってやつとか、ヒナタの従兄弟のネジとか、中忍試験の試験管の人もあいつのこと気に入ってたし、口惜しいけど憎たらしいけど、サスケ君も・・・・・・」
それからそれから・・・、と、次々に出て来る名前の羅列。
アスマは呆れて何も言えなかった。
「な、何でお前はそんなに知ってんだ・・・?」
「女の直感・・・ていうか、見てれば分かるわよー。まぁ、ナルトはひとっっっつも気付いてないと思うけど」
『ひと』と『つ』の間に、力をこめて、強調するいの。
アスマは、“女”に対する恐れを1つ抱いた。
「ま、まぁ、なんにせよ、あいつもなかなか多難だなぁ・・・」
自分の教え子を、憐れむように言うと、
「そう?」
いのが反論。
「なんだかんだ言って、ナルトも結構シカマルに懐いてるトコあるし。アレはアレで、上手く言ってるんじゃないー?」
そう言って、最後の団子を口に入れた。
「ま、とりあえずは・・・」
「とりあえずはー・・・ね」
2人は、シカマルとナルトの消えていった方向を見て。
「「“頑張れ”ってトコか・・・」」
声をそろえてそう言った。