何で腹立つんだ?
こんなにも。
『理由無き葛藤』
「ごめん、俺、イルカ先生と行くんだってば。だから・・・・・・」
『一緒に初詣にでもいかねー?』
と誘った俺に、返ってきた返事は、こんなものだった。
まぁ、ある意味当然だと思う。
なんだかんだ言って、今まで保護者代わりだったのは、あの教師。
ずっと御世話になってる人と、初詣に行きたい・・・・・・と思うのは、余りにも当たり前。
ましてやそれが、先約で入っているのなら。
そういう面は(“その教師”の教育かは知らないが)律儀なナルトが、俺を断るなんて、別に不思議でも何でもない。
大体、人が多いときに、人が多いところへ参拝、なんて、狂気じみている。
自他共に認める『面倒くさがり屋』の俺は、そんなものに行ったこと、人生において、皆無。
いいじゃねーか、行かなくて。
わざわざあんな五月蝿い、『面倒くさい奴』を連れて、そんなところへ行くなんて、それこそ狂気の沙汰じゃねーか?
(なら何で誘ったのかと訊かれたら、答えようも無いが)
断られてラッキーだったんだ、と自分に言い聞かせる。
・・・・・・・・・のだが、どうしても釈然としない。「今年もまた明けるんだなぁ・・・・・・」
また1本、燗を空けながら、親父が感慨深げに呟いた。
「何感じ入ってんだ、この親父は・・・・・・年末だってのに、酒ばっかし飲みやがって」
「何言ってやがる、年末だからこそだろ。今夜は無礼講だ、無礼講!」
酒に酔ったこの男、随分と機嫌よさ気に御猪口の中の酒を、一口で飲み干した。
「無礼講も何も、毎日飲んでんじゃねーか・・・・・・馬鹿親父が」
うんざりして、そう吐き捨てた。・・・・・・・・・・・・なんか、イライラする。「後少しもすりゃ、年越えだぞ。お前もちったぁ、今年の清算でもしとけや」
酒気に顔を赤らめて、酔っ払いが俺の肩を遠慮なく叩いた。
駄目親父・・・、と言っても矢張り、常日頃から鍛えている忍びの人間。
・・・・・・・・・・痛いっつーんだよ、馬鹿。
「今年の清算だ?清算するほどのこと、した覚えもねーよ。テメーこそ年始ぐれー、清らかに迎えやがれ」
「おっ、言うようになったなぁ。上等上等」
撥ね付けるように言うと、親父はさも上機嫌に馬鹿笑い。
酔っ払いには嫌味も罵詈も、通じないんだろうか?・・・・・・・・・・・・・ますます、イライラしてきた。もうそろそろ、日付変更線越えんのか?
新年だな・・・・・・・。
まぁ、そんなたかが1年の変わり目なんかをいちいち感じ入るほど、俺は情緒なんか解さないが。ナルトは・・・・もう寝てんのかね?
明日早そうだし、寝てるかもなぁ・・・・・・。
次会うとしたら、何時だ?
別に俺が行きゃ、何時だって会えないことは無いが・・・・・・しばらくは任務も演習も休みだし。
年始休みも終わって・・・・・・5日ぐらいかね?
5日ぐらいねぇ・・・・・・5日。
新年のゴアイサツなんか、そん時にでもすればいいか。
たかが年と年の境目じゃねーか。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「オイ、酔っ払い。俺ちょっと出かけてくるわ」
「はぁ?こんな夜中にか?まさか初詣かぁ?」
「アホ、なんでこんな混んでそうなときに、そんなとこいかにゃならんのだ。・・・・・・散歩だよ、散歩」
「ケケケケケ・・・・・・、お前が散歩か?怪しいな」
「うっさい、酔っ払い。テメーは酒でも飲んで寝てろや」それが親にたいする言葉かー?と、それでも楽しそうに言う親父の言葉を、無視して
寒空の下へ、飛び出した。・・・・・・・・・何やってんだ、・・・俺?
ナルトの家は、予想に反してまだ灯りが付いていた。
・・・・・・まだ起きてんのか、アイツ?
まぁ、好都合か。「オイ、ナルト?」
ちゃちいドアを、乱暴たたくと
「誰だってばよ、こんな夜中に」
非常識な訪問に迷惑そうな表情が、開かれたドアから覘いた。
そしてそれは、すぐさま、意外そうな表情へと変わる。
「シカマル?なんで・・・・・・?」
“なんで”?
俺だって知るか、そんなもん。
しらねーけど、来たモンは来たんだよ、文句あるか?家を出てから、多分もう、20分ほど。
年は越えてんだろ。「明けましておめでとう」
とりあえず、時候(?)にそって、謹賀新年の挨拶などしてみる。
ナルトはと言うと、わからない様子で、眉を顰めて。
「は?」
「アホ、もう新年向かえてんだろーが。挨拶だ、挨拶」
と言うと、ああ、と気付いたようにたたずまいを正した。
「明けましておめでとうございます」
と言って、ガラにも無く深々と頭を下げる。
可笑しくて、つい笑うと、ナルトは
「せっかく礼儀正しく挨拶してやったのに、しつれーな奴!」
と不機嫌な顔をした。
「ワリーワリー」
「で、何しに来たんだってば?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんだろーな」
「何だそりゃ?」わかんねーんだよ、何で来たのか。
とりあえず来て。
とりあえず新年の挨拶して。
相変わらず、こいつのアホさに笑って。
そしたら、満足したっつーか・・・・・・?「別に何でもねー。来ただけだ」
どうも相手を納得させるには欠ける返答を、適当にしておくと、しかしナルトは
「ふぅん?変な奴だな、お前」
と、失礼ではあるが、それ以上突っ込むこともしない。
・・・・・・単細胞って時に便利だな。
そしてその単細胞生物は、さっさと次の話題へと移る。
「ま、さ。せっかく来たんだから、年越し蕎麦でも食ってけば?」
「そんなもん作ってたんか」
あぁ、それでこんな時間に灯りがついてたのか、と、妙に納得した。
「でも、もう年明けてんじゃねーか、とっくに」
「こ、細かいこと気にしてたらデカくなれねーってばよ、うん」
そりゃお前のことだろう、と思ったが、それを言ったら、またややこしくなる。
ので、避けて置いた。
「あー・・・・・・、そう言えば、今年初めて会ったの、シカマルだったな」
「はぁ?」
「イルカ先生と初詣行くから、イルカ先生だと思ってたけどなー」
「そいつぁ悪うござんしたね、俺が今年初対面で」
「・・・・・・誰もそんなん言ってねーってばよ」
「それよか早く食え。蕎麦伸びんぞ」
「あ、うん」
「「・・・・・・・・(黙って蕎麦食し中・・・・・・・・」」
「シカマルー?」
「なんだよ?」
「今年もよろしくなっ」
「・・・・・・・・・・・・・・ハイハイ、よろしく」
END