白雪姫in木の葉

後編



小人ならぬ子供たちの生活は、森での農作業(寧ろ採集作業)で成り立っている。
食料豊富な森の奥目指して、今日も今日とて彼らは行く。
サスケ姫を一人、小屋の中に残して・・・・・・。
(虐めではなく、本人が『めんどくさい』と言ったのである)

そんな平和な森の中に、なにやら不信な影一つ。(サスケではない)
その影は、ゆっくりゆっくり着実に、サスケ姫在宅中の小屋へ忍び寄っていく。
もちろん正体はカカシ。
漆黒のほっかむりに、薄汚いドレスは、どこぞの御伽話で見た魔女役のつもり。
片手にはしっかりと、おいしそうな毒リンゴをつめた篭を。
オリジナリティがない、と言われても、この話で勧めている限り選択肢はない。
広いとはいえ、すっかり下調べ済みの森の中のことである。
あっという間に、目的の小屋に到着。
「せっま・・・それにボロ・・・・・・・サスケには御似合いだね。
 ・・・・・・ってあの子も済んでるんだっけ?撤回撤回・・・・・・」
何度撤回しようが、今の本音は取り消せるはずもない。
が、それを聞いていた人物は居ない。
カカシは、ポケットに忍ばせておいたカンペ(?)を、最後にもう1度確認し、勢い良くドアをノック・・・・・・。
しようとして、
「あ、いけない、いけない。俺、魔法使いのババァなんだっけ、今」
と、『魔法使いのババァ』らしく、控えめに木製のドアをノックした。

トントントン・・・っ。
「あぁ?」
静かにノックされたドアを振り返って、サスケが立ち上がった。
普通の人ならここで、住民でない自分が出るべきかどうか迷うだろうが、残念ながらこのジャイアン元・姫に、そのような遠慮はない。
というか、彼にとっては既にこの家は、わが城で。
更に夢を語るとすれば、自分とナルトの将来の城。
「新聞の勧誘ならお断りだな・・・・・・」
と、訳のわからないことを呟きながら、玄関へ向かった。
気分は2人暮らしをはじめたばかりの新婚一家。
どうでもいいが、王家の人間のわりに、庶民的知識を持っているはなぜか。
「誰だ?」
客人に対して、相当な対応の仕方だが、カカシは特に意にも介さない。
むしろ、ドアを手で開けたことに驚きを感じた。
(絶対蹴破ると思ってたのに・・・・・・)
あの子の家だからか?と、下世話な考えを抱きつつ、
「どうも、このあたりのリンゴ売りなんですけどねぇ、お一つどうです、お代は要りませんよ」
カカシ、シナリオ通りの科白を吐く。
「リンゴだぁ?・・・・・・俺の好みじゃねえな」
「(・・・・・・そういや甘いモン嫌いだったか?)ま、ま、そういわずに。おいしいですから」
「押し売りはお断りだ」
「(ちっ・・・王家出身の癖に、やけに押し売りの断り方を心得てやがる・・・)」
誰だよ、こんな教育したのは、とカカシは舌打ちしたが、多分誰も教えていない。
恐らくは、サスケの生来の性格であろうと思われる。
「一つだけでもどうです?おいしいですよ?」
「しつこいな、いらねぇモンはいらねぇ・・・」
「五月蝿い!グダグダ言わずにとっとと喰え!!」
カカシの鼻の先で、無情にもドアを閉めようとしたサスケの口に、カカシは無理矢理リンゴを突っ込んだ。
・・・・・・相当無理矢理。
毒でなくても、咽喉に詰まって死ぬかもしれない。
「うぐっ!!!?ぐっ・・・くっ・・・・・・・・・ゴクン。・・・・・・き、貴様まさか・・・」
「アハハ、今更気付いたって、遅いヨ。即効性の毒だし」
その即効性の毒の所為か、リンゴが咽喉に詰まった所為かは知らないが、倒れていくサスケ。
カカシはそれを、バサバサと変装グッズ(簡易)を脱ぎ捨てながら、優越感に満ちた表情で見守(?)った。
ピクリとも動かなくなったサスケを見て、指先でつついてみる。
・・・・・・反応なし。
「もう良いかな?さすがハヤテの毒薬・・・・・・クビは勘弁してやるか」
カカシはすっと立ち上がった。
そして、変装グッズ、毒リンゴの余り、その他諸々を始末して、おもむろに小人達の家へと不法侵入。
血液の繋がりはないと言えども、元家族だけあってどこか共通点を感じる。
「よしっ、じゃあ俺はここで、あの金髪の子を待っていよーっとvv」
すでにナルトしか見えていない様子のカカシの脳には、ナルトの仲間達(小人)は、存在しない。

「今日の食事当番はヒナタとシカマルー!」
「ちょっとは落ち着きなさいよ、五月蝿いわね、ナルト!」
「めんどくせぇ・・・・・・」
「ちょっとー、アンタ、またヒナタにばっかり任せちゃ駄目よー」
わらわらと。
採集作業を終えた御疲れ様な小人達が、帰ってきた。
「ところでさ、あいつまだ居んのかぁ?」
家を目の前にして、キバが露骨に嫌そうな顔をした。
いのとサクラが同時に振り返る。
「「アイツって、サスケ君のこと?当たり前じゃない、まだ居るわよ」」
「つーかよ、じゃあ何で仕事についてこねえんだよ。(まぁ、ナルトに手が出せないと言う意味では都合はいいが)」
「だよなー、アイツずるいってばよ」
お疲れのナルトも、シカマルに賛同した。(心の声は別)
「あのねぇ、サスケ君は元・王家の人なのよ?そんな人が、森をうろつけるわけないでしょー」
いつの間にそんな話を聞きだしたのか、サクラ反論。
うろつけるわけはないも何も、サスケは森をうろついて彼らの小屋へたどり着いたのだと思うが。
そんなことは、彼女達にとってはどうでも良いらしい。
((((何でもいい、早くあの男を追い出さなければ・・・))))
圧倒的な権力者を前に、ナルトとサクラ・いのを除く4人の意思が、本人達知らずに固まった。
「ただいまぁー、サスケ君元気にしてたー?」
「ちょっとイノブタ!なに馴れ馴れしく声かけてんのよ!・・・サスケ君、ただいまぁvv」
先ほどまでの意思結束はどこへやら、すっかり宿敵となっている2人。
後からため息をつきながら入ってきた5人を向かえたのは。
・・・・・・・・・またもや見知らぬ顔だった。
「お帰りなさーい、お邪魔してますヨ」
にっこりと、カカシ。
犯罪者(不法侵入罪)だと言うことなど、おくびにも出さず、笑顔で爽やかに迎えた。
が、こんな状況の中で、そんな爽やかな笑顔が信用に繋がるかといえば、否。
「・・・・・・アンタ誰?」
開口一番、ナルトが訝しげな表情で問うた。
一同、揃って頷く。
「アハハ、いやぁ、いきなりどうも、失礼したねぇ。実は・・・・・・」
「ちょっと、サスケ君はどこよ?」
有りもしない事情を話しかけたカカシの言葉をさえぎるように、サクラがあたりを見渡した。
いのも同じく。
他の5人が、『あぁ、そう言えば見当たらないな』と、気付く。(酷)
「あぁ、サスケなら・・・・・・そこに」
カカシが指差した先には、サスケが放置され・・・横たえられたベッド。
それは死人のように白かった・・・・・・というか、もともと白いので、特に変化は見られない。
「っつーか、ゲッ、俺のベッドじゃねーか!」
悲壮な声で、キバが叫び声をあげたが、特に誰も反応せず。
それもまた一興。(?)
不法侵入者のカカシも、ついでにキバの存在も無視して、サクラといのが駆け寄った。
「サスケくーん・・・・・・寝てるのかしら?」
「おかしいわね、昨日は寝てるときに私達が近づいただけで、飛び起きたのに・・・・・・」
寝ている間に何をしようとしたのだ。
2人は、ぐっすり眠りこけているらしく見えるサスケを、不思議がり、また心配した。
「う〜ん・・・・・・言い難いんだけどネ」
カカシが後頭部を掻きながら、言った。
が、言葉とは裏腹に、微塵も言い難そうな表情には見えないが。
「死んじゃってるみたいなんだよねー、ソレ・・・・・・じゃなくてその子」
いともあっさりと、言い放った。
自分でしたんだから当たり前だが、情のかけらも見当たらない。
しかし逆に、あったら怖い。
「「何ですってぇ!!?」」
「「「「ええっ!?」」」」
聞き捨てならない、というサクラといのの声と、純粋な驚きの4人の声。
シノもさすがに眉を顰めた。
いざという時のリーダーシップ。
シノはサスケに近づき、冷静に手首に指を当てて、脈を取ろうとする。
何度か、指の位置や角度を変えて・・・・・・
「脈はないようだな」
死亡通告を、しっかり言い渡した。
「そ、そんな・・・・・・」
「何で・・・・・・?」
ぺたりと座り込むいのとサクラ。
他5人も、さすがに呆然として。
「でも、何でいきなり・・・・・・?」
「出かけるとき、元気だったよなぁ?いらねー位」
「怪我とかでもなさそうだし・・・・・・」
ざわざわと、戸惑いの色を見せた。
「なんかねー、この家の前で倒れてたから、この家の人かなぁって思って。連れて入ってたのヨ」
カカシがいけしゃあしゃあと述べる。
「最近突然知って増えてるしねぇ・・・・・・心臓発作とか、心筋梗塞とか・・・」
「そんな・・・・・・」
と、涙ぐんだサクラのいのの横をすりぬけて、ナルトがサスケの寝ているベッドに近づいた。
「サスケが死ぬなんて・・・・・・せっかくこれから・・・・・・」
いつも元気がとりえのはずのナルトの声が、沈みきっている。
昨日、『家族が増えたってばよー』と、(4名の心中も知らないで)嬉しそうだったのを知っているだけに、
「ナルト・・・・・・」
「ナルト君・・・・・・」
周りのメンバーの心も、締め付けられる。
カカシ一人が、ナルトのサスケへの態度に、内心面白くないものを感じていたが、
(ま、これが最後だし?俺には『これから』があるし。いっか〜)
と、非人道的。
「せっかく・・・・・・」
ナルトはサスケの横たわるベッドに、片腕をついた。
「せっかくこれから、食事当番の順番がまわるのが、遅くなると思ってたのに!!!」
「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」


それから間もなく、簡易だが葬式(通夜はどうした!?)が開かれることになった。
ガラスの棺、などという素敵な代物があるはずもなく、使用しているのは普通の棺。
(もっとも、ガラスの棺など本人が嫌がったと思われる)
花を一応周りに飾ろうとしたが、ありにも似合わなかったため、中止した。
サクラといのは、仲良く泣きじゃくり、ヒナタもさすがに目をうるませている。
男子4人も、沈痛な面持ちで。
カカシも一応
「まぁ、偶然とはいえ発見しちゃったんだしね」
と、どこまでも真実は押し通しながら、列に加わった。
合掌して、黙祷を捧げようした時。
お待ちかね(?)の、隣の国の王子ご登場。
それはもう、かっぽかっぽと、軽やかに馬のひづめを響かせて・・・・・・。
ちなみに、目つき性格共に悪し、眉なしの彼が、ただいま結婚相手探し中であることは、当然ながら誰も知らない。
木々のこすれる音しか聞こえない静寂の中に、突如混ざった異質な音に気付いて、全員がはっと顔をあげる。
「何をしているんだ・・・これは?オイ、お前ら何をしている?」
高いところ(馬の上)から、見下ろすと、なにやら沈痛な面持ちをした7人と、何を考えているか分からない男、そして棺。
ここで本来なら、ガラスの棺に目が行くはず。
が、残念ながらこの棺、しっかりと木製であるため、ただの木の箱にしか見えない。
代わりに、隣国の王子、我愛羅の目に止まったのは、周りと同じように見上げている、金髪。
(・・・・・・結婚相手はコイツに決定だな)
みごと短絡的に、王子は身を固める決心をした。
そんな王子の一大決心(?)など知る由もなく。
カカシが、オヤ?と、見たことがある顔に気付いた。
「あれ?もしかして、隣国の王子様じゃないの?」
「「「「「「ええっ!?」」」」」」
6人同時に驚愕の声をあげた。(シノは冷静)
どうしてそんなことをこの男が知っているのか、という疑問は、その驚きの隅に、都合よく忘れ去られる。
「そうだ」
我愛羅王子は、言葉短くそう答えた。
「それはそれは、一国の王子ともあろう者が、何故こんなところに?」
驚きの余り声も出ない6人と、普段から滅多に声を出さない1人を無視して、訊ねるカカシ。
それを言うなら、お前こそ一国の王女とあろう者が(以下略)なのだが、生憎ソレを突っ込む人間は居ない。
「結婚相手を探しにな」
結婚相手って、森の中で一体どんな結婚相手を探すつもりだったのか。
それはいささか謎の残るところだが、なんにせよ、彼の希望する相手は、たった今見つかった。
「しかしそのたびも早くも終わりだな。俺はお前を后に迎える」
我愛羅氏、ひらりと身軽に馬から降りて、いかにも高貴な身分らしく、ナルトの手を取った。
「・・・・・・・・は?」
素っ頓狂な声をナルトがあげるのも無理はなく。
何言ってやがるんだと、シノ・シカマル・キバ・ヒナタ、そしてカカシが振り返るのも、また話の流れからすれば当然。
見当もつかないところで話が進みかけていることに、焦りと疑問を抱く、サクラ&いのと。
そして、棺に入れられたまま忘れ去られかけているサスケ。(哀)
「心配することはない、すでに城の方では用意は出来てるはずだ。行くぞ」
相手の都合・意見その他諸々所存するところを聞き入れようとすらしないのは、やはり王家ならでは。
まぁ、これであの口うるさい姉(テマリ)も、少しは安心して静かになるだろう、と。
そう思えば、さっさと式でもなんでも挙げて、落ち着くところに落ち着きたいのは分かるが。
まさか、森の中でのんびりと暮らしていたナルトが、そのゴーイング・マイ・ウェイに、ついて行けるはずもなく。
寧ろ、ついて行きたくなどないはず。
更に言うなら、サクラ・いのを除く5人も、それを黙って方っておけるはずがなく。
サクラといのにしたって、今魔で家族として暮らしていたナルトが、突然連れ去られていくのを、黙って見ているはずもなく。
「何言ってんだってばよ、俺そんなとこ行かねぇからなっ!」
驚きつつも、ナルトがきっぱりと拒否すると、ヒナタも一歩前に出て。
「そ、そうよ・・・・・・ナルト君は、私・・・達の家族なんだからっ」
「・・・・・・ヒナタ」
「そうそう、いきなり出てきて、お前連れて行こうなんて、誰がさせるかっつーの」
「キバ・・・・・・」
「ほらほら、我愛羅王子君、皆もナルトもこう言ってることだし。今日の所は(てか永遠に)身を退いときなよ」
「・・・・・・なんでアンタまで?(しかも名前知らない)」
「五月蝿い・・・・・・俺は連れて行くといったら連れて行くぞ」
「ものっすごい自己中だな、世渡りできねーぞ」
「・・・・・・突っ込むところがずれてるぞ、シカマル・・・」
「ていうかー、サスケ君の御葬式はぁー?」
「なんか、忘れ去られてない?私達・・・・・・」
ガヤガヤガヤガヤ。
意見がまとまるはずもなく、またまとめ役もおらず。
・・・・・・・・・・・・・大混乱。
「ちょっ、な・・・・・・・・何なんだってばよ、一体―――?」


「貴様ら、さっきからワイワイガヤガヤうるせぇっっ!!」


棺の中からの、ありえない声に、一同一瞬静まり返った。
と、次の瞬間、メキメキ・・・ッ、木を潰していく音が聞こえ・・・・・・。
死んでいたはずのサスケが、元気に姿を現した。
「サ、サスケ君・・・・・・?」
「サスケ・・・・・・?」
「なんで、生きてんの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
それぞれ疑問符だらけの周囲を、意にも介さず、サスケは棺から出て行き、我愛羅・カカシの目の前へ。
棺の中で眠り(?)ながらも、しっかりと自分の敵を、定めていたようである。
「お前ら(特にカカシ)、言いたい放題、好き勝手やっているようだがな、俺が思い通りにさせるか!」
「・・・・・・何だお前は?」
「つーかさ、何でお前生きてんのさ?今度こそちゃんと息の根を止めたほうがいいのかなぁ?」(←勿論ナルトには聞こえない)
国は違えど、王家の人間が奇しくも3人睨み合い。
戦いの火蓋は、誰からともなく、切って落とされた。
最早付き合っていられるはずもなく、小人達は全員、遠くに避難。
ギャアギャアギャアギャア・・・・・・・・・。
それこそ『お前の母ちゃんデベソ』とでも言い出しかねない、低レベルな争いを。
7人は、手出しもせず(出来ず)に、遠巻きに見ていた。
「ねぇ、どうしてサスケ君、生きかえったのかなぁ・・・・・・?」
「そんなん気にしてたら、これから先やってけねぇぞ」
呆然と問うサクラに、呆然と(しかもかみ合わない答えを)返すシカマル。
そんな奇妙な問答にも、ツッコミを入れられないほど、その他5人も疲れきっていた。
そこへ、やはり同じように付かれきっているナルトがポツリ。
「なぁ、なんであの3人、あんなにケンカばっかしてんだ・・・・・・?」
「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」
全員が長い沈黙の後、ため息をつきたくなったのは無理もない。
「よーするにだな、あいつらはお前とけっ・・・・・・、ま、一緒に暮らした言って訳だ」
『結婚』と言う言葉など、使うのもおぞましく、キバが簡単に説明した。
まわりも、「そうそう」と頷く。
「あぁ、そっか」
ナルトが、単純に納得して。
「じゃあさ、じゃあさ、皆一緒に暮らせばいいじゃん!
 そしたら、食事当番が遅くなって、楽だってばよー!!」
「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」
・・・・・・・・・・・・お前の頭の中には、食事当番のことしかないのか。
と突っ込むことも、最早ままならない6人であった。



数日後、2つの国の王家に短い1通の手紙が届いた。


『諸事情により、森の中で暮らすことにします。後はよろしく』