「こんなとこに、閉じ込められてるんだ・・・」
薄暗い、冷たい空気の中に似つかわしくない、幼い声が響く。
ミズキは億劫そうに顔をあげた。
暗闇でよく見えないが、背丈の小さな子供の影だけが確認できた。
「久しぶり、ミズキ先生」
聞いた覚えのある声。
「・・・・・・九尾のガキ・・・?」
「残念でした。俺はナルトだってば」
少しだけ暗闇に慣れた目が、ナルトの口の端が笑っているのを見た。
ナルト、と覚えている声にしては、やけに抑揚のない声に聞こえる。
「こんな所に何しに来た?ここは犯罪者の入る牢獄だぞ・・・」
「うん、こんな所初めて入ったってば。まさか、拷問室?」
「馬鹿か、処置を決められるまで、入れられるだけだ」
「あぁ、そっか」
きょろきょろと周りを見回しながら、ナルトは感心したように呟いた。
「で、何をしに来た?俺に復讐でもしにきたか?」
「まさか。・・・俺さ、言ってなかったけどミズキ先生には自分なりに感謝してるんだけど?」
「・・・・・・?」
「だってさ、今まで・・・ていうか九尾のこと聞くまでは意味も無く嫌われてると思ってたけど」
「・・・・・・・・・」
「ミズキ先生が教えてくれたお陰で、“俺”が嫌われてるんじゃない、って判ったわけじゃん?」
「・・・・・・・・・」
「そう言う意味では、感謝してるんだってば」
「・・・そう言う割には、あまり明るい声はしてないけどな」
「まぁね。俺が嫌煙されてることに、変わりは無いし」
「まぁ、そういうことだ」
「・・・ククっ、ミズキ先生ならそう言うと思ったってば」
押し殺した笑いを含む、どこか満足そうな声。
「イルカ先生に言ったらさ、怒られそうじゃない?そんなこと言うな、って」
「・・・あぁ、あの教師は熱血タイプらしいからな・・・」
「らしい、っていうか、実際そうだけど」
「不満でもあるのかよ。・・・お前のお気に入りの教師じゃなかったか?」
「不満?無いってばよ。たださ、面白いなー・・・って思うだけ。いろんな考え方があって」
「自分のことのわりに、ずいぶんと客観的じゃねーか・・・」
「う〜ん・・・そーかも。冷めてる?」
「俺に聞くな」
「クスクス・・・だって、自分じゃあんましわかんねーもん」
悲観的な考えも愉快気に嘲笑う、その子供の声は、酷く冷たい。
「・・・・・・ここへどうやって来た?」
「ん?あぁ、じっちゃんに頼んでみた」
「・・・火影か」
「最後まで心配してたみたいだったけど。心配性だってば、じっちゃんも」
「お前が冷めすぎなんだ」
「あれ?やっぱり冷めてるってば?・・・そう言うもんなのかなぁ・・・?」
「はぁ・・・。結局お前は何しに来たんだ。礼でも言いに来たか?」
「まぁ、それもあるけど・・・別に意味なんて無いってば」
「意味も無いのにこんなところに来るな。ガキの相手は疲れる」
「アハハ。んじゃ、教師生活の間も、お疲れ様だってばよ」
「お前の相手よりマシだ」
「あ、言ってくれるじゃん。被害者に対して加害者がさ」
「・・・お前に被害者の意識があるのならな」
「無いけどね」
「・・・・・・ったく、疲れるガキだな。さっさと帰れ」
頭を垂れて、虫でも追い払うように手を払う。
「じゃ、そろそろ帰るってば。またなー」
「もう来るな」
「どうかなぁ・・・」
大人をからかうのを楽しむかのような言い方で。
また声を押し殺して嘲笑う。
「まあさ、出た後あんたが何しようとしてんのか知らねーけど・・・」
「・・・・・・・・・」
「早く出れると、いいなー・・・」
「そう簡単に出られるかよ、俺が」
ミズキの捨て台詞にまた笑いながら、ナルトは足音だけで出て行った。
「九尾のガキ・・・いや、ナルト、か。面白いガキだな・・・」
終