思考錯誤
元来、物事を考えなきゃいけねーってのは、めんどくさいし嫌いな俺だが。(知能指数高いとはいえ)生まれてはじめて、本気で悩んでる気がする。
今日はナルトの誕生日だ。別に誕生日プレゼントとか人にあげるよーなこと、したことないが、ナルトには・・・・・・なぁ?と言うわけで、誕生日の祝い品をやろうとは考えた俺だったが。人にプレゼントをあげたこともない人間が、いきなりそういうことをぱっとできるわけもなく。滅多にフル回転させねー頭を、珍しくフル回転させる。だいたい人にやるモンなんて、発想的に思いつくもんであって、考えて答えが出るもんじゃねーんじゃねーのか?と、半ば投げやりな気分にさえなってきた俺は、自分でわからねーんなら、人に聞くまでだ、と思い腰を浮かした。この諦めの早さは、自分としては潔いとしているが、ナルトからは「根性なし」との手痛い批評を受けている。
とりあえず、ちょうど出合ったいのに、訪ねてみることに。「誕生日プレゼントに何貰ったら嬉しいかー?そんなの、人によるんじゃないのー?」なるほど、いのの答えはこれ以上ないほど適切だったが。俺が求めてる答えじゃねーだろ、それは。「何?アンタ誰かに誕生日プレゼント・・・・・・あっ、ナルトねー?」気付いたように、いのの表情が満面笑顔になる。嫌な笑顔だ。「うっせーなー、どーでもいいだろーが、そんなん」「アンタともあろう奴がねー、誕生日ねー・・・・・・ふむふむ」「なんだよ、その意味なさそうで意味ありげな『ふむふむ』ってのは・・・・・・」ったく、それだから女ってのは苦手だ。「なんでもないわよー。ま、でもさ、ナルトだったら別に、何貰ったって喜んでくれるわよ」「・・・・・・・・・・・・」それももっともな話。どうやらいのは、なかなか頭の良い奴だったらしい。(失礼)そんなん俺が一番良く分かってんだよ。でも、それでもアイツが一番喜ぶ物をあげてェって思うのは、当然だろ?・・・・・・いや、当然かどうかは分からんが。「今日は7班、もう任務終了したって言ってたわよー、早く行きなさいよねー」「ったく・・・・・・・・・・・・わかったよ」テキトーにいのに手を振って、俺はその場を後にした。気配と言うか、コンビネーションを組んでいる同士の勘と言うか、いのが相当愉快そうだったのが分かった。・・・・・・俺は不愉快だ。
いのに聞いたあとは、なんとなく必然的にチョウジのところへと、足が向かった。「オイ、デ・・・・・・いや、チョウジ」「あれ?シカマルじゃん。どーかした?」「大したことじゃねーよ。誕生日プレゼントって、何貰ったらうれしい?」「・・・・・・プレゼント?簡単だよ、食べ物だったら何でも嬉しい!!」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ」こいつに聞いたのが、そもそも間違いだった。だいたい、こいつに欲しいモンの話なんか聞いたら、食いモン以外の何が出てくるっつーんだよ?それを予測しなかったのか、あまりにも当たり前のこと過ぎて思いつきもしなかったのか。どちらにしても、アホだな、俺も。「ありがとよ。もーいーよ」「アレ?何、なんか奢ってくれるんじゃないの?」「アホか!何で俺がてめーに、奢ってやんなきゃいけねーんだ」「なーんだ、何が欲しいかなんて聞いてくるから、奢ってくれるのかと思ったのに・・・・・・ちぇ」呆れさせてくれるにも程がある。つーか、お前は普段から、俺の5倍は食べてんだろーが。(家系ゆえとはいえ)餓死寸前の奴にならともかく、なんで自分より多く食ってる奴に、飯奢んなきゃなんねーんだ。「アスマ先生なら奢ってくれるのになぁーー・・・・・・先生んとこいこっかなー?」オイオイ、普段散々あの親父に奢ってもらっといて、まだたかる気かよ、こいつは。上忍の給料ってそんなに余裕あんのか?さまざまな疑問符が浮かんだが、これ以上こいつに関わってる暇はない。っつーことで、ひげのおっさんには悪いが、俺は止めることもせず次の場所へと向かった。
ナルトの欲しいモンなら、やっぱこの人に聞くのが一番良いだろ。と、俺が訪れたのは、すでに思い出の地となりつつあるアカデミー。俺の尋ね人は、この時間帯なら俺の記憶が正しけりゃ、職員室で日誌をつけているころのはずだった。「失礼しまーっス」ビンゴ。見慣れた背中姿が、入り口のそばの机に見られた。この元担任は、そういえば1日たりとも生徒の状況を日誌に書き留めることを欠かさなかった気がする。そして、多分今もそうなはず。めんどくせーことを良くぞそんなに続けるもんだ、と呆れ半分に感心するが、それでもこの人のそういう誠実さは尊敬に値する。・・・・・・まぁ、そのおかげと言うか何と言うかで、ナルトから、他とは比にならないほどの信用を受けていると思うと、多少憎らしいが。「・・・・・・イルカ先生」「・・・お、シカマルじゃないか。久しぶりだな、どうした?」イルカ先生は声をかけると振り返り、俺を見て懐かしそうに目を細めた。昔っからだが、まあ、人当たりのいい先生だ。「あー・・・いや、ちょっと聞きたいことがあったんでー・・・」「聞きたいこと?何だ?」「あのー・・・ナルトが今欲しがってるモンとか、しらねーっすかね?」「ナルトが・・・・・・そうか、今日は誕生日だったんだな。・・・・・・そーか・・・欲しいもの・・・?」と言うと、イルカ先生は少し黙り込んで考え始めた。こんな質問に、いちいち律儀な先生だ。もっとも、だからこそ人望も厚い教師なのだろうが。「そうだなぁ・・・・・・あいつの欲しいモンなんて、ラーメンしか思い付かないなぁ・・・・・・」そういえば、ナルトが『一楽』のラーメンを大好物とするのは、この先生の影響だった。「はぁ、そうですか・・・・・・」「そういえば最近会ってないよなぁ・・・ナルトの奴、大丈夫かなぁ、怪我とかしてんじゃないだろうな・・・・・・」だんだん雲行きが怪しくなってきた。目の前の担任は、思い出モードに突入している。そりゃぁ、生徒と言わずイルカ先生とナルトの関係は、兄弟か親子、といった感じに近いものもあった。とはいえ、この人の心配性はどんなもんだろう?「ナールートーォォ・・・・・・」「じゃ、どうも・・・・・・」こういうのは矛先が向かないうちに、さっさと退散しておいた方がいい。イルカ先生がトリップモードに入っている間に、俺は職員室を出た。
さて、どうしたモンか、と考えあぐねながらブラブラする。とりあえず、行き先はナルトの家の方へ向けて。と、途中でサクラとすれ違った。同じスリーマンセルで、なおかつアイツが少なからず好意を抱いている相手だ、可能性は高いだろ。「よぉ、サクラ」「シカマル?珍しいわね、アンタが話し掛けてくるなんて」いのとサクラは仲が悪いらしいが、この2人、反応や性格はよく似ていると思う。女子なんか、俺らから見りゃ、皆同じようなモンなんかもしんねーけど。よく言う、性格が似ている奴は相性があわない、って奴なんだろーか?アカデミーでは、昔仲良くしていたように思うが、まぁなんかあったのかもしれない。どっちにしろ、聞き出すのはめんどくせーし、特に気にもしてないが。「あー・・・お前さ、ナルトが今欲しがってるモンとか、聞いたことねー?」「ナルトォ・・・・・・?」ナルトの名前を繰り返して、サクラは俺を見て意味ありげに笑った。冷やかしと言うか、からかいの目つき。・・・・・・・・・・本当にいのの奴とよく似てやがる。「そーねぇ・・・・・・・・・アイツって、“物”を欲しがることって、滅多にないわね」「は?」「だから。出来るようになりたい、とか、〜〜したい、とか言うのはあっても、ものを欲しがってるのは見たことないわ」「・・・・・・ナルホドね」「分かってると思うけど、ナルトだったら何あげたって喜ぶわよ。単純なんだから」「っせーな、わっかてんよ」「・・・だけど、やっぱり『喜ばれる物』、あげたいのよねー?」サクラが笑いながら言う。思わず凝視した。女の勘は恐ろしいと言うけれど、アイツのは女の勘か?それとも、回転の速い頭ゆえの洞察能力か?いずれにしても、この場合俺にとってそれがありがたいはずもなく。なんだかんだ言いながらも、気が合い、いがみ合いながら仲のよさげないのとサクラを、心底恐ろしいと思った。勘がよく洞察力もあって、どちらかと言うと人をからかうことが好きそうなこの2人が、俺にとっていい存在であるわけがねー。頭痛くなってくんぜ、マジで・・・・・・。「・・・・・・・・・・・・ま、どーもな」サクラの疑問形の言葉は無視して、俺は足早に立ち去った。どうせ語尾を上げながらも、その言葉は確定の響きを持っていたし。それに、返事はしてないが、否定もしてないんだから、嘘はついてねぇだろ。
しばらく歩いて、一瞬足を止める。目の前は、いのん家の花屋だ。ナルトの家に行こうと思うと、自然と通ることになるその家の前を、俺は足踏みしていた。つーか、こうもいのとサクラに意味ありげな言葉と笑いを投げかけられた後に、この家の前を通るのが平気だなんて、おかしいだろ。女は苦手なんだよ、めんどくせーし。しかしながら、ここを通らなければ相当遠回りをしなければならない。生来の面倒くさがりや精神が、その遠回りという、無駄な労働の面倒くささに負けた。ま、いーか。別にいのと会うって決まってるわけでもねーし、会ったところでどうってことはない。と思いながら、俺は立ち止まりかけた足を進めた。間もなく、花の匂いが鼻をつく。嫌いな匂いではないけど、毎日嗅いでると嫌になったりしないんだろーか?なんて思いながら、店頭に並んでいる、緑をベースにいろいろな草花の鉢や、花束に目を向ける。と、ふと、俺の目に止まるものがあった。
「オーイ、ナルトいるか?」少々乱暴に、ナルトの家のドアをたたく。程なくして、ナルトが勢いよくドアを開けた。ドアから1メートルほど下がっといて良かった。近かったら間違いなく、鼻にでも当たってたぞ、お約束な・・・・・・・・・。「はーい・・・・・・あっ、シカマル。よぉ」「よ。誕生日おめでとさん」いきなり誕生日を祝うと、ナルトは一瞬面食らった表情をした。「・・・・・・あぁ、そのことで来たんだ?そんな散らかってないし、上がれってばよ」そう言って笑うと、ナルトが俺を招き入れる動作をする。「んじゃ、遠慮なく・・・・・・・・・・・・」と、家に上がらせて貰った。ナルトの言ったとおり、そんなに家の中は散らかっていない。どちらかと言うと(と言うか間違いなく)不精者っぽいナルトだが、意外なことに滅多に散らかることはないという。理由を以前聞くと、『家ですることなんて、修行かご飯か風呂か寝るくらいしかないじゃん』と笑った。任務が早めに終わったら、家に帰るでもなく、演習所などへ行って修行をするナルトにとって、家にいる時間はそう長くもないのかもしれない。でもそれは、なんか淋しくねぇ?と言う質問を更にすると、『そういうの以外の生活をしたことないから、よくわかんねってば』更に明るくない返事が返ってきたが。そういう理由を念頭においてでもないが、最近俺はナルトの家によく来るようになった。『シカマルがしょっちゅう来るから、家が散らかるってばよ』と、この間文句を言われたが、そういうナルトの表情は、そこまで本気で怒ってはいなかったと記憶している。「今食べるもん全然ないってば・・・・・・お茶でいい?」「あ?別にいらねーよ、そんなもん。・・・・・・それより、これ」「・・・・・・・・・これ?」台所へ立とうとしていたナルトが、体ごとこちらを振り返った。誕生日プレゼントに、ともってきた『ソレ』を、示すように見せる。「・・・・・・・サボテン?」「おお」「俺に?」「プレゼントだ、やるよ」言うと、ナルトはそのサボテンに視線を移した。片手に持てるくらいの大きさの鉢で、棘の少な目のサボテン。花をつけんのは難しいけど、だからこそガーデニング趣味の人が結構好む、といのが説明してくれた。ナルトは植物に水やるのが好きとか言ってたから、まぁ大丈夫だろ。「何サボテン?」「・・・・・・さぁ?忘れた」「何だってばよ、ソレ」「仕方ねーだろ、おりゃ花とか木とかに興味はねぇんだよ。鉢に名前書いてねえの?」「う〜ん・・・・・・?書いてないってば・・・・・・・なんだこれェ?」ナルトは棘を指さないように慎重気味に、鉢の底を覗いたりいろいろ見てまわした。「いのに聞いたらわかんだろ」「あ、いののところで買ったのか。だけど、何でサボテンなんだってば?」ナルトが更に疑問系で投げかけてくる。「お前、最近忙しくて植物に水やれねェっつってただろ。サボテンなら毎日水遣り必要ねーじゃねーか」「あぁ、なるほど。ありがとなー、大切に育てるってば・・・・・・名前決めなきゃなーー」「花咲かすのは難しいって言ってたぜ?」「俺に任せろってばよ!絶対咲かしてやるってー」言いながら、ナルトは嬉しそうに、その鉢植えをどこに置くのがいいか、思案していた。どうやらとりあえず、気に入ってはもらえたらしい。
とりあえず、俺の誕生日プレゼントが喜ばれたかどうかは。難しいと言われる、サボテンの花が咲くかどうかに、委ねてみることにした。
終