「最強ノ人」
「へぇ〜、カカシ先生の部屋ってば、案外広いんだ」初めて担当上忍、カカシの住む、マンションの一部屋に来て。開口一番。「案外ってどういう意味なのよ?」まさか俺が、ウサギ小屋にでも住んでると思った?と。きょろきょろと見回すナルトに、カカシは苦笑しながら言う。「や、そうじゃなくってさ。カカシ先生一人暮らしだし、狭い部屋なのかなーって思ってたから、意外だったんだってば」「そりゃあね、お前たち下忍と比べたら、高給取りだもの、俺ら上忍は」あちこち家具を見回すナルトの頭をポフ、となでて。あそこにでも座ってなさい、お茶入れてあげるから。と、接客用のソファを指差す。「おっ、ソファだってばよ」ナルトは目を輝かせて、勢いよくそれに座った。弾力のあるソファが、ナルトの軽い体を少し押し戻す。ナルトは「わ〜い、ふかふかだってばよv」と嬉しそうに、その弾力を楽しんで。やっぱ子供だねェ・・・と、カカシは笑った。ナルトがきっと怒るから、声には出さないけど。「あんましいろいろと、探りまわらないようにね」そう言ってカカシはお茶を入れるべく、台所へと引っ込んだ。けれど。生来の悪戯好きっ子ナルトに、そのセリフはまるで、『荒らしまわってくださいヨ』とでも言っているようなもの。始めは探るつもりなんか無かったナルトも、そう言われれば探ってみたくなる。悪戯っ子の性質。
本当はタンスの中から何から、いろいろと探ったやるつもりだったけど。その目論見は、テーブルの下に落ちていた『ある物』を見つけて、中止することとなる。変な、動物の顔に似た面。「これってば・・・暗部のお面?」知識の範囲の少ないナルトにも、さすがにそれくらいは分かった。上忍の中でも更に格上である、という証明にもなるその面に。ナルトは憧れを抱くでもなく、嫌悪感を抱くでもなく、じっとそれを見ていた。
「ナルト〜・・・って何見てんの?」なぜか、ソファーから降りて、床にじかに座り込んでいるナルトを見つけて、カカシは覗き込んだ。「あ・・・・・・」ナルトが見つめているものに気付いて、カカシは声を出した。ちゃんとしたところに片付けておかなければいけなかったのに。多分、テキトーなところに置いておいたんだろう。ずぼらだよね、俺も。まぁいいけど。なんて思いながら。「とりあえず、ナルト。ソファにちゃんと座りなさいヨ」と促した。「あ、うん・・・」しばらく放心していたナルトは、はっと気付いたように振り返って、言われたとおり、ソファに座った。視線は未だ、暗部の面に注がれたまま。呆然とした様子でそれをじいっと見つめるナルトに、さすがに奇妙さを感じて。「何?興味あるの?暗部の面に」と、訊ねる。「えっ?あ、ううん、違うけど・・・。これさ、先生が昔使ってたやつ?」やっとナルトが顔をあげて、しかしまたすぐに視線をお面に落として、指でつ、と面の輪郭をなぞる。「うん、まーね」カカシは、短くそう答えた。ナルトは今度は、面を自分の顔に近づける。「これ・・・血の匂いするってば」「そうだねェ、ま、暗部ってそういう仕事だからね」曖昧にそう答える。「・・・怖くなかったんだってば?」「俺が?」「当たり前じゃん」ここにはカカシ先生しかいないってばよ、と。「怖い訳ないデショ。忍びがいちいち怖がってたら、任務が出来ないじゃない」「あ、そっか」なるほど、とナルトは頷く。「でもさ、やっぱ死ぬのって、怖くない?」誰だってやっぱ、死ぬのっていやだってばよ、とナルトが言った。そんなナルトに、カカシは苦笑。「そうだね〜、死ぬのは怖いね」と、適当な答えを返して。「でもさ、ナルトも命がかかった任務とかあったら、行くでしょ?」と逆に質問を返す。虚をつかれたように、ナルトはきょとんとして、でもすぐに「当然行くってばよ」と返した。「俺ってば強いからな」「でしょ?俺も一緒。自分が強いって分かってるから、行くの」まぁ、相手の忍びが強いとも分かってるんだけど。なんて言えば、探究心満ち溢れるこの子供に質問攻めにされるのは目に見えている。から、黙っておくことに。「カカシ先生、最強だもんなっ」と、笑顔を向ける子供。
・・・・・・はて?
「どうかなあ・・・?」それはどうだろうねェ、と顎に手をやる。「?・・・あ、火影のじっちゃんには負けるか」なんたって火影だもんな、とナルトは、うんうんと頷いた。が、それはカカシの思い浮かべた答えとは違う。「それもそうだけどね・・・」次の答えを促した。「・・・・・・?他にいんの?あっ、ガイ先生!」「ハハ・・・嫌な顔思い出しちゃったじゃない」「あれ、ちがう?ん〜と・・・アスマ先生?」「ちがうって・・・」「大蛇丸?」「いや・・・、まぁ勝てないけどさ」「むむ?んっとー・・・イビキのおっちゃん?」「違います」「エロ仙人!?」「・・・・・・誰さ、それ?」「あれ、これも違う・・・?誰だっけ、あと・・・」いろんな顔を頭に浮かべては消していくナルト。それじゃあいつまで経っても、俺の言いたい答えは出てこないなぁ、とカカシは苦笑する。「む〜っ、分かんないってば。カカシ先生が勝てない人〜!」降参、とでも言いた気に、ナルトは思考を放り出した。
そんなナルトを見て、カカシはくすくすと笑って。「何がおかしいんだってばよ、カカシ先生!」と、怒った顔をするナルトの耳元で
「ナルトだよ、俺が勝てないのは」
と、囁いてやった。
「俺?なんで・・・?」ナルトは、意味不明、というように、首をかしげる。「いいよ、今は。意味わかんなくて」カカシは笑って、そう返した。
だって、そうでしょ?俺は、お前のためなら、里さえ裏切る覚悟は出来てるんだからね?