リング
ありがちかな、とも思ったけれど。好きな人への誕生日プレゼントなんか、それくらいしか思いつかないわけで。
「おい、お前今日誕生日だろ」いつもより早く集合場所へ着くと、それより更に早く来ていたサスケが、開口一番。「おはよう」の挨拶もなしに不躾だとも思わないではないが、別に悪口を言われたわけではないし。どちらにせよ、サスケが『おはよう』なんて言うことはない。朝からサスケに『おはよう』なんて挨拶をされた日には、とりあえず病院に行かなくてはならない。幻聴もしくは幻覚か、夢ならほっぺたを抓ってみるが。まぁそんなわけで、いつも通りの雰囲気に気を悪くするでもないナルトは、「?・・・・・・そうだけど、何で知ってるんだってば」と訝しげにサスケを見た。「お前だって、サクラの誕生日は知ってんだろ」「3月28日」「だろ、同じ班の人間の誕生日を知ってて、何かおかしいかよ?」「・・・それもそうか。で、なんだってばよ?」と言うと、サスケが何やら、小さな箱を取り出す。「誕生日プレゼントだ、受け取れ」そう言って、ナルトにそれを手渡す。手のひらにすっぽり収まるそれが何であるのか、ナルトには分からなかったが、とにかくもらえるのは嬉しい。「へー、サンキュー。・・・・・・な、開けてもいい?」「あぁ・・・・・・」一応了承を得て、包装紙をかさかさと開けるナルト。多分「駄目だ」と言ったって聞かなかっただろう。
包装されていたのは、ちんまりとした箱。紫と青の中間くらいの、綺麗な色。それを一般に『藍色』と呼ぶことを、ナルトは知らない。パコン、と小気味良い音を立てて開いたその中には、何もついていないシルバーの指輪。指輪。それはもちろん、サスケしては特別な意味を持つもので。というか、この男が人に誕生日プレゼントを渡すと言う時点で、それは特別なのに変わりはないのだが。つまりは、その指輪は、『約束』の、具現化されたものなわけである。しかしながら、一般常識とはかけ離れて生きてきて、なお、生来の鈍感さの持ち主であるナルトが、その真意に気づくであろうか。答えは、否。ナルトは、珍しいものをくれる奴だ、と思いながらも、それをファッションリングとして、ありがたく受け取った。「かっこいいってばよー・・・。なぁなぁ、付けていい?」普段“おしゃれ”と言うものにはさして興味のないナルトであるが、ナルトだっていわば『御年頃』なわけで。多かれ少なかれ、その指輪に興味を示すのは、あまりに当たり前と言うもの。「好きにしろ」そっけなく答えたサスケだったが、本音は寧ろ、早くつけて欲しい。さっさとあのチンケな(失礼)リングで、ナルトの将来ごと縛り付けてしまえば。なんて、妙な独占欲が、頭を渦巻く。一方ナルトは、そんなサスケの心中など知るべくもなく。かっこいい俺様には、こういうかっこいい指輪が似合うってばよ!と、酷くご満悦。そして、その指輪は、サスケの考えとは違うところへはめられた。「よし、ここが一番ぴったしだってばよ」そう言ってナルトは、指輪のはまった右手の中指を見た。しかしながら、サスケがそれで満足するはずはない。「オイ、ウスラトンカチ・・・・・・なんでその指なんだよ?」「は・・・?だって、他の指だったら緩すぎだったりきつかったりするじゃん・・・・・・この指がちょうどなんだってば」と言って、ナルトはその指輪を左手の指先で、くりくりと回した。中指にはまったまま回されても、するりと抜けそうになることはなく、かといって窮屈そうでもなく。ほら、ぴったりだろ?とでも、言うように。サスケは内心舌打ちをした。ナルトの身長を自分との身長差から大まかに予測し、その身長に見合うはずの薬指のサイズを割り出し、さらにナルトが常人より細いことを意識して、普通より1サイズ小さなものを選んだと言うのに。それでもまだ、1サイズ大きかったらしい。「このドベ、それは左手の薬指にするモンなんだよ」「左手の薬指・・・・・・・・・・・・?なんで?(っつーかドベって言うな)」「なんでもだ!!」「はぁ・・・?何なんだてばよ、一体・・・・・・?」サスケってばわけわかんねー、と呟きながら、言われたとおりの指にはめかえる。思ったとおりと言うかなんと言うか、当然しっくりくるサイズではない。しかし、自分よりサスケのほうが知識と言う面において、勝っていることは、悔しいながらも承知のナルトだったので「緩いってばー・・・・・・抜けそう」とゴチながらも、何か意味があることなんだろう、と考えた。「なぁ、左手につけるのって、なんか意味あるのか?」「まぁな」「へぇー、意味って何だってばよ?」「教えねぇ、自分で考えろ」「ムカッ、しらねーもん考えたって、分かるわけねーだろ、馬鹿」「本物のアホに、馬鹿と言われる筋合いはねえな」「・・・・・・・・・・・・・てっめー・・・」ナルトがいつものように激昂しかけたとき、「おはよーサスケ君、ナルト」と、サクラがいつもより遅れてやってきた。サクラは隠すようにして、綺麗な袋を持っている。ナルトはみごとに気付かなかったが、サスケから見ると、ナルトの誕生日プレゼントなのであろうことは歴然であった。「あっ、おはようってばよ、サクラちゃん」ナルトが、ちょうどよかった、という顔をした。その表情を見たサスケは、瞬時にマズイ、と判断。するが、時すでに遅し。「なあなあサクラちゃん、左手の薬指につける指輪の意味って、何か知ってる?」ナルトの素朴な疑問、サスケにとっては黒魔術の呪文が、ナルトの口から解き放たれた。サクラは「アンタそんなんも知らないの?左手の薬指の指輪ってのはね、婚約したときとか、結婚したときとかに付けんのよ」女の子のサクラとしては、もちろん自分のその指に、いつか理想の男性に貰ったその指輪がはめられることを、夢見ているだろう。それを想像してか、うっとりとする調子でナルトに分かりやすく、簡単に説明した。ナルトは固まった。それはもう、ピキン、という音すらたてて。「・・・・・・?どうしたのよ、ナルト?・・・・・・ってかアンタ、何その薬指の指輪」無表情のまま固まるナルトと、非難するような目で自分を見るサスケを見比べる。里一番の切れ者と言われるサクラの勘は、鋭い。「ま、マサカその指輪・・・・・・・・・・・・」
「ちょっとナルト、一体コレどういうことよ?サスケ君に貰ったわけ?説明しなさい!!」「アホサスケーーー!!騙したなーーーーーっっ!」(←別に騙してはいない)「ちっ、余計なこと言いやがって、サクラめ・・・・・・」
ナルトの誕生日ということで、いつもよりも早く、35分遅れでやってきたカカシは、サクラがナルトを、ナルトがサスケを、サスケがサクラを、3人で器用に互いに責め合っている姿を見て。「何があったんだろうなあ?」と、首をかしげるのだった。
end