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「ナルト君・・・・・・v」日向家の豪邸とも呼べる御屋敷の一室で、ご令嬢、ヒナタがため息混じりに呟いた。手に持っているのは、愛しい愛しい、憧れの「あの人」の写真。隠し撮りかと思いきや、その被写体はしっかりとレンズに向かってピースして笑っている。それもそのはず、これはヒナタのとある努力のあらわれである。
「あ、ナ、ナルト君・・・・・・」とある朝、12枚撮りのインスタントカメラを持ったヒナタは、ナルトにめぐり合った。・・・・・・というのは嘘で、あらかじめナルトがその日イルカ先生宅へ行く情報を入手していたヒナタが、待ち伏せしていただけの話。それでもヒナタに言わせれば、ナルトがその道を通るとは分からないはずなのだから、それは偶然・・・運命だ、というのが本人論。断っておくとすれば、ナルトの家からイルカ先生の家までは、ほぼ1本道だということだろうか。何はともあれ、ヒナタの情報戦は勝利に終わり。「おぅ、ヒナタじゃん。偶然だなー」と、ナルトがいつもの調子で挨拶する。「(そうよ、偶然・・・偶然なのよ)うん・・・偶然ね。どこかへ行くの?」「イルカ先生んち行くんだってばよ。昼飯奢ってもらうんだ〜。ヒナタは?」「わ、私は、あのぉ・・・このカメラ、現像に出しに行こうと思って・・・・・・」そう言ってヒナタは、手に持っていたカメラを見せた。現像屋さんが、そこから正反対の里の端だと言うことは、どうやらナルトの頭には引っかからなかったようだ。「あ、ナルト君。もし良かったら・・・写真とっていいかな?に、2、3枚残ってるの・・・」と、ヒナタ、カメラのヘッド部分(?)を見せる。確かに、枚数表示のところには8だか9だかの微妙な数字が示してあった。ちなみに、その8枚だか9枚は、ヒナタの家だとかぬいぐるみだとか、要するにどうでもいいものが収められている。ナルトの真の写真を手に入れるためなら、インスタントカメラの1つや2つ、出費は惜しまないヒナタであった。「おぅ。いいってばよ。いやー、やっぱ俺みたいな美少年は、写真とっても絵になるからなぁ〜」照れるぜ、などといいながら、頭をかくナルト。「ありがとう・・・じゃ、じゃあ、撮るね」「ピース!」カシャッ、カシャッ・・・と、いかにも安物な音を立てて、シャッターを切る。まっすぐ向けられている笑顔が、自分にだけ向けられていれば良いのに・・・などと思いながら、ヒナタ、数秒間のトリップ。シャッターを押している数秒間の間に、なんとも器用なことをする乙女である。「もう全部撮れたってば?」「あ、うん・・・ありがとう」「いいって。誰か人いたら、一緒に2人で取れたのになー。じゃな、現像できたら、見してってば」そう言うと、ナルトはさわやかに(ヒナタ視点)去っていったのだった。たとえ一緒に撮れなくても、今の一言でヒナタはその80%程度は、幸せになったであろう。その後、急いで現像屋さんに駆けつけたヒナタは、店員の(少し迷惑そうな)「待ってなくてもいいんですよ」という言葉も無視して、約1時間、その見せに居座り続けたのだった。時折思い出したように(実際思い出してだが)、叫び声を挙げたり大爆発したりしながら・・・・・・。
それ以来、ヒナタの机に貼ってあった隠し撮り写真は、『ナルト君アルバム』(ヒナタ作成)に収められ、新たにその写真が貼られたのだった。もちろん、汚れがつかないようシートにいれ、防菌加工、防腐加工を施してから。そして、時折取り出しては、うっとりとしながらそれを眺めるのが、恋する内気な乙女、ヒナタの日常なのである。
そして、そんなささやかな日常を壊すもの、ここに現れり。
「ヒナタ様、失礼致します・・・」こんこん、とノックをしたにもかかわらず、ほとんど間髪いれず、入ってくる無礼者。「・・・ネジ兄さん・・・・・・」「ヒアシ様が稽古をつけてくださるというので、呼びに来たが・・・・・・」ヒナタの敬愛し、また同時に恐れの対象でもある、ネジだった。「何を見ている・・・・・・?」「!!!」まずいところを、まずい人に見られてしまった。ヒナタと言えども確信はないが、ネジが少なからずナルトに対して特別な感情を抱いているのは、血継故かなんとなく分かる。そうでなくとも、ヒナタに言わせれば、ナルトは老若男女の差を越えて魅力的だと言える。(乙女の視点は、いつでも予測のつかないところにあるようである)こんな花丸笑顔の写真を見られた日には・・・・・・・・・。「・・・・・・うずまきナルト、・・・の、写真?」「・・・・・・・・・え?あ、あぁっ!!」どうやら頭の中で葛藤している間に、手の中にあった写真は、ひょい、っと取り上げられていた。シートにはさみ、目には見えないが、防菌加工・防腐処理まで施された、その写真をじろじろと見るネジ。「・・・・・・・・・ほぉ・・・・・・なかなか面白いものをお持ちで、ヒナタ様」そう言ったネジの口の端が、引きつるように上がった。「っ!!!!」ヤバイ。と、血縁的第6感で察知するヒナタ。このままでは、あの写真は奪われてしまうのも時間の問題だ。「どうやって、手に入れたんだ?」「・・・・・・・・・っ」ヒナタが、少々むっとする。まるで今の言い方では、盗んだか拾ったのだろう、と言いた気だ。「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」普段は温厚なヒナタだが、ここで怒りの炎が燃え上がった。何でも良いからやり返してやるべし、と、耳のそばで強気ヒナタが囁く。(幻聴です)「どうやってって・・・・・・、私がナルト君本人に、撮らせてもらったのよ・・・・・・」暗に、自分とナルトは写真を簡単に取り合える仲だ、と、強調する。「・・・・・・!?」ヒナタはネジの反応に、手ごたえを感じた。今まで言い負かされてくることの多かったネジ兄さんに、口で勝つことが出来た・・・・・・!と、ささやかな喜びに包まれる。しかし。ネジは、所詮少しばかりやる気を出したヒナタが勝てるような相手では、なかった。「ふ・・・・・・それではこの写真がなくなっても、アナタはいつでもこいつの写真が手に入ると言うことだな・・・・・・」「えっ」「ではこの写真を俺が貰っても、別に良いと言うことだな、ヒナタ様」しまった・・・・・・・・と、気付いたときには、ときすでに遅し。すでにナルトの写真は、ネジのものとなろうとしている。「ちょ、ちょっと待って・・・・・・どう・・・してネジ兄さんが、な、ナルト君の写真を・・・・・・?」「・・・・・・そんなことはアナタに関係ない」関係ないはずがなかろう。ヒナタが今、まさに写真を奪われようとしているのだから。しかしそのように返されれば、ヒナタはなす術もなく。とはいえ、せっかく撮った写真を、そう簡単に奪われていくほど、ヒナタも甘くはない。ナルトは簡単に撮らせてくれたとはいえ、今回のような行動に、ヒナタがどれだけ勇気を要したことか。「そ、そんな簡単に、その写真を渡すわけには行かないわ・・・兄さん・・・・・・」「ほぅ・・・・・・珍しいな、アナタが闘志を抱くなんて・・・・・・」
かくして。第3次試験予選以来の、日向家従兄弟喧嘩(しかし精神的レベル低し)が、日向家・ヒナタの部屋で開催されることとなった。
「・・・・・・・・・・・ネジ兄さん・・・・・・・・・・勝負です」「いいだろう・・・・・・・・・」
15分後。なかなかやってこない2人を、不思議に思ったヒアシが、自らヒナタの部屋へやってきた。「2人とも、一体何をぐずぐずしている?・・・・・・しかもなんだ、この騒音は・・・・・・?」そこで彼が目にしたものは、分家の甥と、自分の落ちこぼれだと思っていた長女が、本気で戦っている姿。「・・・・・・!!?」訳がわからなくなった彼だが。父は、見切りをつけていた娘の成長に感動し、修行中と思われる(誤解)2人を、そっとしておいてやろう、と部屋を後にしたのだった。
END