馬鹿馬鹿しい。
一体何のために?
会うため?祝うため?何かを伝えるため?


・・・・・・・・・・・・馬鹿馬鹿しい。



only



朝一番。
日も昇りきってなく、まだ寒い時間帯、ナルトの家のドアをたたく音があった。
「・・・・・・・・・・・・・?誰だってば?」
こんな早い時間に、と不思議に思いながらも、はーい、と返事をして出るナルト。
忍びとして少々無用心すぎる気がする。
朝早い時間帯であることを考慮して、静かにドアを開けると、よく知っている顔が。
そして、今ここにいるはずも、いるべきでもない顔が。
「・・・・・・お前ってば・・・・・・我愛羅??」
思わず指を指して大声を出してしまったナルトを、責められる者はいないはず。
何故里の人間でない人物が、こんなところに来ているのか。
「人に指を指すな、不躾な奴だな」
相変わらずの無表情で、目の前の少年が言った。
こんな朝早い時間帯から、いきなり人の家に押しかけておいて、不躾も何もないと思うのだが。
こんなところで言い合ったって仕方がない、それくらいは分かっていたナルトは、とりあえず指を下ろす。
「何でお前がこんなところにいるんだってばよ?」
「フン、あんなちゃちい門番くらい、潜るのに苦労するか・・・・・・」
暗に、木の葉の里の防衛管理の甘さを指摘。
普段人の言い回しにとてつもなく鈍いナルトが、今回は珍しく気付いたのか、むっとする。
「てゆーか、何のためにこんなところ来たんだってばよ。中忍試験、もうないからな」
「知ってるに決まってるだろ、馬鹿が」
「馬鹿って言うなーっっ!!」
なんかこいつ、話さないところもサスケと似てるけど、話したら話したでむかつくところも、サスケと似てるってばよ・・・。
ナルトはそう思ったが、両者がそれを聞いたら、お互いさぞかし嫌がるだろう。
思わず大声を出したが、それが冷えた空気に響いて、今が早朝だったことを思い出した。
「あ、ヤベ・・・・・・・・・」
近所に特に家はないが、こんなに静かだとどこら辺まで声が届くものなのか分からない。
大体にして、誰か不審に思ったものが来れば、我愛羅がいることで大騒ぎになるはず。
相手の出方がわからない限りそれは避けたいわけで。
「・・・・・・何の用かしらねーけど・・・・・・と、とりあえずあがれってばよ・・・・・・言っとくけど、何にもないからな」
「・・・・・・」
ナルトは無言の我愛羅を、手振りで家に招きいれた。
「何もないけど、とりあえず座れってば。・・・・・・・・もう1回聞くけど、何しに来たんだ?」
「別に大した用じゃない」
「答えになってないし、大した用じゃないのに、他国に侵入するなってばよ・・・・・・」
ナルトが呆れ顔で言う。
「今日・・・・・・」
「今日・・・・・・?」
「誕生日だろう」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ!!」
ナルトの表情が、驚きの表情に。
何で知ってるんだ、とか、どうやって知ったんだとか疑問はいろいろ在るが。
「・・・・・・そのために来たのか・・・?」
「悪いか」
「い、いや・・・・・・・・・悪くは・・・とりあえず、ありがとうってばよ」
意外どころか予想だにしなかった出来事に、戸惑いながらも礼を言うナルト。
「別に、お前のためじゃない」
「・・・・・・・・・・・・」
確かにそうかもしれないが、だったら何のためだというのだろう?
我愛羅はそれだけ言うと、不意に立ち上がりかけた。
「もう用はない、さっさと帰ることにする」
「え・・・・・・?もう帰んのか?」
「・・・・・・・・・・・・?もう用事は済ませた」
・・・・・・・・・それはまたえらくあっさりと。
まさしく怒涛のようにやってきて、怒涛のように去っていこうとしている砂の下忍を見ながら、ナルトは心の中で突っ込みを入れた。
とはいえ、せっかく自分の誕生日を祝いに来た
(のかどうかは知らないが、とりあえずそう受け取ることにした)
のに、このままあっさり帰ってしまうのも何か淋しいかもしれない。
「ちょ・・・待てってば」
「・・・・・・・・・・・・?」
何か用があるのか、と言いた気に、我愛羅がこちらを振り返る。
ナルトからは、早く帰りたがっているような表情にも見えて、少し臆したが。
「せっかく来たんだから・・・・・・お、お茶位なら入れるってばよ・・・・・・」
語尾に『いやだったら良いけど』と、付け加える。
我愛羅に、驚きの表情が浮かんだ。
しばらく沈黙する。
やっぱり、嫌なのかな?
ナルトが、『やっぱ嫌ならいいってば』と言いかけると、
「時間はある」
我愛羅が最小限の言葉を返した。
肝心なところが抜けているが。
「じゃあ、お茶いる?」
確認するようにナルトが聞くと、表情1つ動かさずに
「あぁ」
と答える。
そのとたん、ナルトの顔が少なからず嬉しそうになるのを、我愛羅は見逃さなかった。
「よっし、じゃあ入れてやるってばよ。感謝して飲めよ」
そういうと、ナルトは台所へと立ち上がった。



馬鹿馬鹿しい。
結局何もしていない。
早朝に押しかけて、言葉を少なく交わして、茶を馳走してもらっただけ。
何のために来たんだ?


でも。
とりあえず、あの笑顔が見れただけでも


まぁいい。



end