ずっとずっと会えなくて。
最早、禁断症状の発生さえ近いのでは?なんて思い出すような頃。

『2、3日したら、1回帰るってばよ!』

なんていう報告があった日には。
浮かれ出すのも当たり前。

『おかえり祭』

とりあえず、どうしてこんなことになっているんだか。
木の葉の里きっての善人教師、イルカは、目の前の騒動を見ながら、思考回路を巡らせた。

『どうせいつも会えるんだから』
と、年賀状すら寄越したことの無いナルトが、珍しく寄越した手紙。
下手糞な字で、修行が上手くいっていて楽しいことと、いろんなものを見て感動したと言うこと。
それに、数日後に家に置いたままの荷物を、必要最低限の分だけ取りに、1度帰る、と。
そんな内容が書いてあった。
会えるかどうかは分からないが、会った暁には久々にラーメンでも奢ってやろう、と。
そんな風に思っていたイルカだった。
ただ、最後の1行。
『エロ仙人はエロ過ぎて、オレのジョーソー教育に良くないってばよ』
と書いてあったのが、保護者として(!?)気になるところではあったが。

そして、本日がその、ナルト、一時帰還の日。
丁度非番の日であったので、迎えに行ってやろうとイルカが出向いた先には、何故か人だかり。
こんな、里の端の端。
こんな場所に居るのは、せいぜい見張りの忍びくらいだと思っていたのに。
なんなんだ、これは?
しかも、何故かその人だかりを作っているのは、見知った顔ばかりで。

「い、一体これは・・・・・・・・・・・・?」
「ああ、イルカ先生。お久しぶりですねぇ〜」
胡散臭い笑みを浮かべて、気の抜けた挨拶をかますのは、畑野カカシ。
「はぁ・・・・・・久しぶりです」
と、それでも挨拶をしてしまうのは、中忍と上忍の階級のサガだとでも言うか。
「って、それよりも一体こんなところで何してるんです?新人の下忍班が揃いも揃って・・・・・・」
その通り。
イルカの目の前にいる人だかりは、ナルトの同窓生、7、8、10班の勢ぞろいだったわけで。
そして何故か、里の入り口には「おかえりナルト!」、と記した、馬鹿でかい旗が掲げてあるわけで。
「何って〜・・・・・・ナルトの一時帰宅のお迎え&お祝いですよ?」
なんて、笑顔で言った上忍の言葉は、言われなくとも分かりきっている。
問題は、何故そのことを、彼らが知っているのか。
で、あって。
ナルトが手紙で、その意を伝えてきたのは、確か自分だけのはず。
「なのに、なんで・・・・・・知ってるんですか?」
「やだなぁ、イルカ先生。上忍に不可能はありませんヨ」
てんで見当違いな答えを返したカカシの言葉だったが、妙に説得力があったのは何故だろう?


そして待つこと1時間。
よくぞ、こんな何も無いところで、じっと1時間も待ったものだ、と、イルカは自分に感心したが
よく考えてみれば、周りの彼らはそれ以上。
自分がここへ着いたときには、すでに準備を万端整えていたのだから。
自分だってここへこうして来たものの、今日確実に帰ってくる、なんて自信は無かったのに。
ここまでやった彼らは、今日帰ってこなかったら、一体どうするつもりだったのか。
・・・・・・・・・・・・多分、明日もあさっても、同じようにやってたんだろうなぁ・・・・・・。
早くナルト帰ってきてくれよ・・・・・・・・・。
いつも面倒を見るほうだったイルカが、初めてナルトを頼り(←?)にしたとき。
「・・・・・・・・・あれ?なんか、いっぱい人がいるってばよ」
訝しげな、ナルトの声が、不意に聞こえた。
「ナ、ナル・・・」
『ナルト〜〜〜〜〜〜!!!』

「元気か?」
「久しぶりだなぁ」
「ちょっと見ないうちに、大きくなったじゃねぇか」
「修行は楽しいか?」
・・・・・・・・・・・・etc。
あったらまずは最初に何を言おうか。
色々考えながら、今日の第一声を、彼は彼なりに楽しみにしていたのだ。
そんな中忍教師、イルカの第一声は、周りの人間に、綺麗さっぱりさえぎられた。

「久しぶりねー、元気してたの?」
「フン、ちょっとは強くなったかよ、ウスラトンカチ・・・・・・」
「会いたかったよ〜、ナルトvv」
まずは、と周りに群がる、同班の仲間、そしてその担当教師。
「ひ、久しぶり・・・・・・ナルト君」
「よー!元気かよ?」
「・・・・・・久しぶり」
「本当に久しぶりねぇ。修行、頑張ってるんだって?」
と、負けじと張り合う8班メンバーズ。
「なんかおかし持ってない?」
「久しぶりじゃなーい、迎えに来てあげたのよー」
「面倒臭かったけどな」
「どうだ、修行の成果はあがってんのか、うずまき?」
その周りに、さらにわらわらと集まる10班。

突然取り囲まれて、戸惑っていたナルト。
「え、ちょ・・・・・・何・・・・・・皆が・・・・・・あれ?」
意味が分からない、といった様子で、きょときょとと自分を取り囲む人の顔を、交互に見比べていく。
呆然としている間にも、
「会いたかったぜ〜」
とか
「手合わせしろよ」
とか
「ちっとも背ェ、伸びてないのねー」
とか、色々と声が投げかけられ。
ふと、サクラが掛け声をかける。

「せーのっ」

『おかえり、ナルト(君)!』

全員の声が揃って、ナルトに帰還の歓迎を告げた。

「・・・・・・あ・・・・・あぁ!」
ようやく、何故皆がここに集まったのかを、悟り。
同時に、嬉しそうな色がナルトの顔中に広がる。
「ありがとってばよ、皆!」
少し照れ臭そうに、頬を高揚させて、笑顔でナルトが返す。
それが合図かのように、再び全員でナルトを取り囲む。

「ナルト〜、今度は俺と一緒に修行しようか?」
「何言ってやがる、この糞駄目上忍が。テメーはベッドで寝てろよ」
「ハイハイ〜、それはサスケ君も同じよ」
「あ、あの・・・・・・良かったら今日だけでも一緒に修行・・・・・・」
「あっ、ヒナタずりーぞ、だったら俺らも・・・・・・なぁ、シノ?」
「・・・・・・あぁ、そうだな」
「そうねー・・・・、じゃあ、今日はナルトはウチの班と合同練ってことで・・・・・・」
「何勝手に決めてんだ、紅・・・・・・」
「じゃあ、私たちも一緒にさせてもらいますー」
「ま、いいけどな」
「それより僕は、お腹減った〜〜〜」

「い、いや・・・・・・っていうか、なんなんだってばよ、皆して・・・・・・?」


せっかく迎えにきたというのに、顔すら1度も拝んでいないイルカ。
自分は不幸の星の下に生まれているのかも知れない。
それとも今年のおみくじが大凶だったからか?
いやいや、そんなことより、あの手紙を何処からか情報漏れしてしまったのが、自分の失態だったのか?
この間、黒猫が目の前を横切ったからか?
今朝見た、からすの大群は、これの予兆だったのか?
家の風水が悪い?今月の星占いは最悪?
・・・・・・・・・・・・エンドレス。

思いつく不幸のネタ(?)をあげながら、「いいんだ、もう・・・・・・」と、半ば自嘲気味なイルカ。
まぁ、彼ら反応からして、ナルトは元気なのだろう。
それだけ分かっただけでもいいか、と。
仕方がないので、そこから立ち去ろうとした瞬間。

「あーーーーーっ、イルカ先生っ!いた!!」

後ろから指を指され(本人からは見えないが)、
「え・・・・・・?」
と振り返ろうとした瞬間、背中にどすっ、という、しかし慣れ親しんだ衝撃。
一瞬の間にあの集団をすり抜け(神業)、イルカの背中に飛び掛った、ナルトだった。

「イルカ先生、ただいまってばよ〜・・・・・・って、ちょっとだけだけど」
「いってて・・・・・・、いきなり何すんだ。もうちょっと普通にだなぁ」
「しし〜、久しぶりだからさっ」
ゴメンゴメン、と謝りながらも、笑顔のナルト。
残された集団からの視線が、ザクザクと刺さるが、ナルトは気付かず。
イルカも、せっかくナルトが来てくれたので、気にしないフリをすることに。(かなり怖かったが)
「それよりさ、それよりさ、久しぶりだから、ラーメン奢ってってばよ!」
一楽のラーメンの味が、恋しくて恋しくて・・・・・・、と、ナルトはイルカを誘う。
もとより、そうしようかなぁ、と考えていたイルカなのだから、勿論異存は無い。
しかし、快く引き受けてやる、というのも今までの例にないので、
「ったく・・・・・・仕方がねえなぁ・・・・・・」
と、いつもの調子で引き受けて。
「やったあ!」
両手を挙げて喜んだナルトは、後ろに置き去りにした人々の存在など、すっかり忘れている。
「じゃ、オレ、ジャンボミソラーメンにしていい?」
「ジャンボか・・・・・・喰えるのかぁ?」
「食えるってばよ!修行で腹減ってんだから!」
「よし、んじゃ、ギョーザもつけてやろう」
「マジで!?・・・・・・薄給なのに、先生大丈夫?」
「うっさいわ、馬鹿モン!」
など、聞き様によってはいちゃいちゃとしか聞こえない(飛躍しすぎ)な会話を弾ませて、2人は去っていった。
後ろに固まる、彼らと。
そして、むなしくはためく、「おかえりナルト!」の旗を残して。


なぁんだ、まあまあついていたんじゃないか、俺。

と、ご機嫌に一楽へ向かったイルカ。


その後、丸1週間続いた嫌がらせ(カカシ・サスケ中心)に、矢張り自分はついていなかったことを知る。