強敵・・・手強い相手。
自分が最も苦手とするタイプ。
パチッ。
小気味良い乾いた木の音をたてて。
「王手」
「えぇ〜〜っ!?早いってば!」
非難の声があがった。
「しゃーねーだろ。つーか、お前弱すぎ」
勝負になんねーよ、これじゃ。
「だって、俺ほとんど初めてなんだから当たり前だってば!」
ルールもややこしいし、と。
ナルトが目の前にあった歩の駒をピン、とはじいいた。
こっちに飛んできたその駒を、手のひらで受け止める。
将棋。
ナルトが教えろ教えろとせがむので。
教えてやった。
(めんどくせぇ、と答えたら、あっさりあのオッサンのところへ行こうとしたので、止めた)
ルールの飲み込みは、意外と早かった。
が、弱い。
素人に近いんだからしょうがないとは思うが。
・・・・・・相手になんねぇよ、お前だと。
「大体さぁ、これ意味あんの?」
オイオイ、出来ねえと分かったら、将棋自体を批判かよ。
「実践の作戦立てとかに役立つだろーが」
「マジでぇ〜?」
「そりゃ、時と場合にもよるけどな」
たとえばお前とか。
しばらく見てて思ったこと。
“作戦”ってのはこいつには効かない。
本人が感情で動くバカだから。
こいつを動かせるのも感情だけ・・・なんだろう、多分。
ナルトが一番懐いてる、イルカ先生の例。
詳しくは知らねーけど、あの先生のことだからたぶんに情熱がものを言ったに違いない。
情熱・・・・・・ね。
100%俺には足りない言葉だな。
ああ、クソっ。
分析派なんだよ、俺は。
・・・・・・厄介な相手だ。
なんだってこんな一番めんどくせぇ相手に・・・。
考え出すとため息しかでねぇから、止めとくけど。
とか言って、諦めつくわけもなく。
まぁ、気長にやるか、なんて。
この俺に思わせるあたりが、最強に厄介な相手なんじゃないだろうか、こいつは。
巡り巡ってきた自分の考えにガラにも無く照れてきて
「もー止めんぞ。お前相手になんねーよ」
ジャラジャラと駒を集めて片す。
「あっ・・・」
「誰かに教えてもらって、もっと修行してこい」
修行。
お前の得意技だろうが。
「誰かって誰だってばよ」
「誰でもいるだろ、大人は大概知ってんだよ」
そう言うと、ナルトは少し、考える様子を見せて。
結論。
「シカマルがいいってば」
これだって多分、おそらく、間違いなく。
ナルトにとっては、意識なしの感情論。
・・・一喜一憂するこっちの身にもなってみろ。
「はぁぁ・・・・・・」
そうして俺は、重いため息をついて。
訝しげな表情でこっちを見ている厄介な相手に。
長期戦を覚悟するのだった。