「Lucky Day?」
まだ風が冷たさを帯びている朝早く。
俺は、珍しく他のメンバーより早く集合場所へやってきた。
別に深い意味なんかないんだけどよ。
なんとなく目が覚めたから。
たまには『待つ方』を経験してみるのもいいか。
ちなみに赤丸は、まだ眠いらしく、俺の頭の上で寝ている。
さて、それにしても早く来すぎたかも。
家を出た時間を考えてみると、まだ1時間は裕にある。
う〜ん・・・暇だな・・・。
たまにこういうことをすると、これだもんなー。
と思っていたら。
早朝の幸運を発見した。
「よお、ナルト」
声をかけると、ナルトが振り返った。
「あ、キバじゃん。・・・よっ、朝早いな」
と、笑顔で駆け寄ってくる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・可愛いじゃねーかっ。(ぐっ)
いやー、それにしても朝からこいつに会えるなんて、ツイてるな、俺!
“早起きは三文の得”ってホントだな。
心ん中でそんな風に思いながら、
「お前こそ早ぇな、今日なんかあんのか?」
と会話を続ける。
ナイスだ、俺!
「別にないってば。今日はなんか早起きできたからさー、早く行くんだってば」
「なんだ、俺と一緒かよ」
いやー、俺も早く目が覚めちまってさー、と。
それにしても・・・同じ日にちょうど早起きするなんて。
これはもう、『運命』としか思えねーな。
・・・・・・とまで思考が飛ぶほど、俺は乙女じゃねーけどよ。
まぁ、稀有な幸運に、とにかく感謝だ!
こいつと2人きりで話せるなんて、滅多にあるもんじゃねぇ。
俺の班のメンバー(紅先生含む)は、揃いも揃ってナルトを気に入ってて。
ナルトに出会おうものなら、ナルトが自分から去らない限り、自分からは決して離れようとしない。
・・・・・・って、俺も同じなんだけどよ。
ナルトに会ったりするのはたいてい任務帰りで、班のメンバーが全員揃ってるときが多い。
なので、必然的に5人でしかナルトと話すようなことはないわけだ。
他のメンバー(特に俺が警戒してるのはシノ)は、こっそり会ったりなんかしてるかも知れねーけど。
・・・・・・・・それは考えないことにしておこう。
ま、まぁともかく、ラッキーだ、ラッキー。
この好機をみすみす見逃すことはない、と。
「なぁ、早く来過ぎて俺暇なんだよ。ちょっと話でも付き合っていけって」
ナルトを引きとどめる。
どうかなー、と思ったが
「そーだなぁ・・・、俺もまだ行っても時間あるし。いいってばよ」
と、ナルトは俺の隣に座り込んだ。
ありがとう、時間の神様。(いるのか、そんなもん)
で、話したのは、日々の任務やら修行の話やら、取り留めのないこと。
色気無ぇ・・・、と思うけど、ナルト相手じゃ仕方ないか。
「俺さ、俺さ、かなり強くなったと思うんだよなー」
「ヘェ・・・、アカデミーで万年ドベだったお前がかよ?」
「(ムカッ)だから!上達したんだってばよ!試してみるか?」
「お?組み手やるか?久々に。いいねェ・・・」
ナルトが立ち上がって構える。
接触のチャーンス!
接触っても組み手だろ、とかそういう突っ込みはこの際無視だ。
俺も応戦しようと立ち上がる。
その瞬間。
背筋にゾワッと悪寒が・・・・・・。
・・・・・・・・オイオイ、ヤバイんじゃねェのか、これは・・・。
気配、というより、ここまできたら殺気の領域だ。
ナルトは気付いてないらしい。
『あいつら』、ナルトには気付かれないように、上手く俺にだけ殺気を当ててやがる・・・。
人数を数えると・・・・・・5つ、か。
言うまでも無い、サスケ、シノ、カカシ・紅上忍、とヒナタだな。
ヒナタは、殺気というより羨望と嫉妬の眼差しって感じなんだが・・・。
残りの4人は、間違いなく殺気だ。
ここで組み手が始まって、俺とナルトの手が触れようモンなら、その瞬間殺される・・・(汗)。
「?どうしたんだってば、キバ。やんねーの?」
立ち上がったまま動かない俺を見て、ナルトが急かした。
けど・・・、動けるわけねーじゃねーか、お前のせいなんだよ!
って、ナルトに理不尽な八つ当たりなんかしてる場合じゃない。
「いや・・・やっぱ止めだ。そろそろ集合の時間だろ?」
「・・・は?まだ30分はあるはずだってばよ・・・?」
そりゃそうだ。
俺たちが会って話し始めてから、まだせいぜい15分ほどしか経ってない。
だけど。
「ともかく、赤丸も起きてねェし、今日んとこは止めだ、止め」
未だ俺の頭上で寝こけている赤丸を、引き合いに出す。
さっさと起きろよ、なんて思ってたが・・・・・・寝てて良かった。
「あ、そっか・・・ちぇっ」
俺の強くなったトコ見せたかったのにな〜、と、残念そうな顔をするナルト。
あぁもうちくしょう、んなカワイイ顔してんじゃねーよ。
・・・・・・・・・殺気がだんだん増長していくだろーが。
あぁ、耐え難い・・・・・・。
「お前ももうそろそろ、集合場所に行っとけば?」
と、とりあえず促してみる。
普通のときだったら、絶対こんなことしねェのに!
本心を言えばもっと一緒にいたいが。
この状況では・・・・・・そうも言ってられねぇだろ?
「へ?まだ行ったって何にもなんないってば。どーせカカシ先生、遅刻するんだし」
拍子抜けしたようにナルトが返した。
するとその時。
ナルトの横に、一瞬で黒い影が降り立つ。
「ざんね〜ん、俺はここに来てるよ、ナルトv」
にこやかな顔で、ナルトの肩を抱いて。
俺には、笑顔・・・の裏に隠された、どす黒い感情を見え隠れさせて。
そして優越に満ちた表情も忘れずに。
「カッ、カカシ先生?何でこんな早くにいるんだってば」
突然の登場より、ナルトはむしろ、集合時間前のカカシの登場に驚いている。
「酷いな〜、俺だってたまには早起きできますヨ?」
『酷いな〜』じゃねぇだろ、『酷いな〜』じゃ。
気持ち悪いんだよ、この変態上忍が。
って、言葉で言えたらいいのになぁ・・・(涙)。
この上忍の行動を見かねて、他のメンバーも続々と登場した。
「おはよう、ナルト(あぁっ、今日も可愛いわぁ〜vv)」
「あ、の・・・おはよう・・・ナルト君・・・///」
「・・・・・・・・・・・・・」
「朝から騒いでんじゃねーよ、ドベが」
まぁ、セリフは説明しなくてもわかる・・・よな?
「あっ、なんかあっという間にみんな集まって来たってばよ」
みんなの顔を見回しながら、ナルトは少し驚く。
当たり前だよな、一気に(サクラを抜く)ほぼ全員が集まったんだから。
「じゃ、キバももう暇じゃないってば、良かったな、キバ」
「え?あ、あぁ・・・」
そうだ、“暇だから”っつって誘ったんだったな。
「そっかー、じゃあナルトももう行こうか。一緒に。もうサクラも来てるかも知んないしね」
カカシ上忍がそう言って、ナルトを後ろから羽交い絞め。
「重いっ、放せってば、暑苦しい!」
じたばたと暴れるナルトは、腕力でねじ伏せて。
周りから注がれる痛い視線も何のその・・・ってか、余裕で流してる。
やっぱいいよな、実力者は。
「じゃ、俺とナルトはもう行くんで〜vv」
と、そのままナルトを連れて行く。
「あ、おい!俺も行くぞ。ナルトから離れろ、クソ変態上忍!」
サスケが後を追った。
ナルトも、集合場所へ向かうのは別に反対じゃないらしく、それにおとなしく従った。
「皆、バイバ〜イ。任務頑張れってばよ!」
って、ナルトが振り向きざまに手を振ってくれて。
ナルトを真ん中にはさんだ3人組が、ちょっとずつ遠ざかっていった。
(両端でサスケとカカシが喧嘩してるらしいのが、遠くから見てても分かる)
あ〜あ、せっかく珍しく、2人でしゃべれたのに・・・・・・。
まぁ、しゃーねーか。
次の(あるかどうか分からない)チャンスに賭けるしかねーか。
諦めてふと気付くと。
ここに残った3人の視線が俺に注がれていて。
それはもう、とてつもなく痛かった。
・・・・・・ヤな予感・・・・・・。
「ナルト君と2人でお話なんて・・・ズルイ、キバ君」
「痛い目を見たいらしいな・・・・・・」
「覚悟は出来てるわよね・・・?」
「・・・・・・・・・出来てません・・・・・・(汗)」
かくして。
俺のその日の扱いが酷いものになったことは、言うまでも無い。
今日はラッキーデーじゃなかったのかよ!!?