未来予想図
「ちゃんと遅れないように来なさいよ?今日はあんたが主役なんだからね」サクラが、書類を整理しながら言った。「分かってるってばよ、ちゃんと行くってば」ナルトが、大丈夫大丈夫、とでも言うように頷く。何年経っても、自分とサクラちゃんのさながら姉弟とのような関係は、ほとんど変わっていない。ふと、そう思い、ナルトは苦笑した。「なに笑ってるのよ?」「ううん、別に。ただ、昔と全然変わってないなー、って思って」サクラがはじめて、ナルトを振り返って顔を見た。「昔って、スリーマンセル時代のこと?」「うん」「変わってない・・・かしらねぇ?ま、確かにアンタは、馬鹿なところも単純なところも、変わってないわよ」「ぐっ・・・・・・・・・・・」そう言うサクラの方こそ変わっていない、という言葉は、飲み込んだ。「でもね」サクラが、作ったような笑顔を、ナルトに向けた。この顔をサクラがしたとき、自分にいい結果が待っていたことはない。ナルトは思わず身構えた。「そんなアンタが明日から火影なのよ。さっさとこの、たまりにたまった書類を、片付けなさい!!」と、サクラが指差したところには、膨大な量の書類が机の上につまれている。「うっ・・・・・・・・・・・・・・・」中忍を経て、上忍へと昇格したナルトだったが、なにぶん実践向きのその性質。書類関係の仕事となると、ついついたまりがちだった。これを片付けないことには、火影就任だのと言っていられない。どう逃げようとも、今日中に片付けなければならない書類たちなのだった。「集中してやれば、2時間ほどで済むわよ。約束の5時まで、あと4時間あるでしょ。頑張りなさい」サクラはそう言い残し、部屋を後にし、残ったナルトは見るだけでやる気をなくすような書類を片付けるべく、机についた。
「火影・・・・・・かぁ・・・・・・」
ナルトの、次期火影就任が決まってから、2週間が経とうとしている。ここ2週間は、いろいろと事務作業とやらで忙しい日々だった。上忍に昇格し、数年の間、言わば生死の境目を生きるような生活だったが、ナルトは実力・評価ともに、目覚しい成長を遂げた。もちろん周りの同期の仲間や、先輩・後輩に当たる人たちも、それぞれ個人差はあれど、すばらしい忍びへと成長している。その中で、新しい火影にナルトが選ばれたのだった。もちろん、ナルトは大喜びした。なにしろ、小さな頃からの夢であるのだから。しかし。やっと掴み取った夢だと言うのに、感情が湧きあがってくるということもなければ、手放しで浮かれる、ということもなく。どちらかと言うと、気の抜けたような、実感のない生活が、送られている。(・・・・・・やっぱり就任の儀式でも終わったら、実感わいてくるもんなのかな?)そう思いながら、ナルトは慣れない手つきで筆を進めた。サクラは2時間もあれば終わるといったが、大体にして常人よりも事務作業が苦手なナルトは、普通の人の倍はかかる。(それを計算した上で、サクラは2時間と言ったのかもしれないが)「早く終わらせなきゃ、5時に間に合わないってばよ」
5時、というのは、サクラを初めとする、いの、ヒナタの同期女性陣が計画した、私的な祝賀会である。『どうせ就任後は、何かとあわただしくってろくにお祝いできないわよ』『そうそう。その点、火影様就任の儀式の前日だったら、皆ほとんど里にいるだろうからー。好都合じゃない』サクラといのがそう言って、(半ば強引にだったが)ナルトの親しい人たちを集めてくれたのだった。そういえば、それぞれが上忍などへと昇格した後は、お互いの都合がなかなかつかなくて、会える人はほぼいなかった。皆と会うのは、久しぶりである。そう考えると、今日の会合も、より楽しみに思えた。「よしっ。頑張るか!」ナルトは張り切って、書類作業に集中した。
「ふぃ〜〜〜っ、終わった終わった」肩をまわしながら、ため息をつくナルト。実に3時間半。その間、ナルトは慣れない書類と判と、戦い続けたのだった。それから来たのは、例の会合の集合場所から5分程のところにある、森である。そして、ナルトがよく修行に使った場所だった。何とはなく来てみたが、特にすることがあるわけもなく。ナルトは、ただ一人で、ぼーっとしているだけだった。
夢だった火影になるはずなのに、この脱力感は何だろう?脱力感というより・・・・・・焦燥感に近いような・・・・・・とにかく安心できないような気分。
「何だっけ、こういうの・・・えっと・・・マタニティ・ブルー?」「そりゃ妊婦のかかる病気(?)だろ、このウスラトンカチ」「!!!」「よう、久しぶりだな・・・・・・」後ろから突っ込みを入れたのは、確認するまでもなくサスケ。「おー、久しぶりだってばよ。今から行くのか?集合場所」「まぁな。お前はまだ行かねえのかよ」「ん?行くってば、そろそろ」そういえば、そろそろ行った方がいい頃かもしれない。なんせ、サクラが事前にあれほど念を押したほどだ。遅れると、拳骨の1発や2発ではすまないはず。「なんだよ、元気ねぇみたいだな。お前らしくもねぇ・・・・・・・・・・・・」火影就任ということになって、今ごろさぞかし浮かれているだろう、と思っていたサスケは、少し拍子抜けしたようにナルトを見た。「そう?元気ない訳じゃないんだけどなぁ・・・・・・なんかこう・・・・・・“ウツ”な気分ってヤツ?」「“鬱”?(良くそんな単語知ってたな、この馬鹿が)」「ホラ、俺ってば神経細いし、ナイーブだし?」「あほか。お前みたいに神経図太いヤツは、そういねーよ」「なんだとぉ!!?」「いちいち向きになるところは、ガキのことから変わってねえな」「お前こそ、いちいち嫌味なところは、ちーっとも変わってねえってば」言い合いながら、なんとなくスリーマンセル時代のことが思い出されてきて。どちらからともなく、2人で笑った。「で、鬱ってなんだよ?まさか火影になんのが嫌とかか?」サスケが、笑い止めて訊いた。「そんなわけないってばよ。俺にもよくわかんねー・・・。不安って言うか、疑問なのかなぁ・・・・・・?」「疑問?」「何で俺なんだろ、とか思ってるのかもしれないってば」「自分のことの癖に『かも知れない』ってなんだよ」「うっさい!俺にもよくわかんねーんだもん、こういうの」「(相変わらずのアホだな・・・)で、何がだよ?」「え?ん〜と・・・・・・たとえばさ、サスケは暗部にも入って、里屈指の実力者、とか言われてんじゃん?」「まぁな」「サクラちゃんとかシカマルは、すっげ頭良いし・・・・・・」「そうだな。(シカマルのあの面倒臭がりの性質は、やや問題だと思うが)」「シノも、冷静だし、トウソツリョク?とか、あると思うんだってば・・・・・・」「だろうな。(ただ(俺以上に)無口すぎて、何考えてんのか良く分からん)」「まぁ、他も皆いろいろとすごい能力持ってんのに、何で俺が・・・俺で大丈夫かな・・・とか、思うんだってばよ、多分」サスケはナルトの顔を見た。以外に神妙な表情をしている。アホでウスラトンカチで単純なヤツだが、こいつなりに考えているのかもしれない、と。サスケは納得して、口を開いた。「ナルホドな。単細胞の割りに、よく考えてるじゃねーか」「単細胞って言うな、馬鹿!」「だが、俺だったらやっぱり、お前を火影に選ぶと思うぞ・・・・・・・・・」「・・・・・・え・・・・・・・・・?」
「ナルト、いた――――!!」次の瞬間、ナルトとサスケの耳に、聞こえなれたサクラの大声が聞こえた。「あっ、サクラちゃん・・・ってヤベ、5時まで後5分だっ」「アンタ、あれだけ言ったのにこんなところで油売って・・・・・・」サクラの声は怒りで1オクターブ低くなっている。「ご、ゴメンサクラちゃん・・・で、でも、まだ5分あるし・・・・・・」「主役が何言ってんのよ、10分前には来るのが常識でしょう!」そんな常識が、世界の一体どこで作られたのか知らないが。とにかくナルトは、ガミガミと叱り付けてくるサクラに、謝った。まさしくスリーマンセルの時代から変わらないこの光景に、サスケが苦笑する。「?どうしたのよ、サスケ君?」「いや・・・・・・。それより、ナルト」「へ?何だってばよ?」
「サクラも、アイツらも同じだろ。だからこうやって集まってくれんじゃねーのか」
サスケがそう言って指差した先には、いのとヒナタを先頭に、今日の祝賀会のメンバーがぞろぞろと集まっていた。
「あ・・・・・・っ」「よぉ、おせーぞナルト!火影になったってのに、トロイのは変わってねーのかぁ?」「キ、キバ君・・・・・・お祝いの席なのに・・・・・・」「遅刻のことでは、人のことを言えないだろう、キバ・・・」「まったく、あれだけ遅れないように言っといたのに・・・・・・。カカシ先生の遅刻魔が移っちゃったんじゃないの?」「酷いな〜サクラ。俺は別に遅刻魔じゃないよ〜」「遅刻魔じゃなかったらなんだと思う?アスマ」「ま、せいぜい変態か悪魔じゃねーか?」「あぁ?ちょっと、何が言いたいの?紅、アスマ」「まあまあ、こんなところでいい大人がケンカしないでくださいよ」「立派な大人ねー、イルカ先生は」「・・・・・・ったく、めんどくせー会合開きやがって・・・・・・」「いいでしょー、シカマル。こうやって集まれることなんか、滅多にないんだからー」「そうそう、ご飯もいっぱい食べれるしね!」「てめーはいつでも食ってんだろ」「あんたはいつでも食べてるでしょー!」「いやぁ、それにしても全く、おめでたいですね、ガイ先生!」「ああ!熱き青春の1ページだ!リー!!(意味不明)」「熱き青春は良いから、もうちょっと落ち着いてよ、2人とも・・・・・・」「何を言っても無駄だろ、テンテン。好きにさせとけ」
・・・・・・・・・・・・ぞろぞろと、元8班、10班、ガイ班のメンバーと、かつての担当教師、カカシと、恩師でもあり親代わりでもある、イルカ先生がやってきた。突然の出現に、ナルトはしばらく声をなくす。サクラが「ほら、みんな集まったんだから。ナルトも行くわよ。サスケ君も」と、ナルトの首根っこをつかんで引っ張った。「いっ、いたたたたっ、自分で、歩けるってばよ、サクラちゃん〜〜!」皆が笑う。
そうだった。俺の夢は、火影になることだけじゃなくて。『皆に認めてもらうこと』
そう思ったナルトは、今までつっかえていたものが、すっと取れるのを感じた。
「ナルト、火影就任、おめでとう!」イルカ先生が、自分のことのように嬉しそうに大声で言うと、『おめでとう』と、周りの声が続いた。そして、誰からともなく拍手が起こる。一足早い、祝賀会の始まり。「・・・・・・・・・・・・・・・・ありがとうってば・・・・・・・」ナルトは、自信に満ちた笑顔で、そう答えて、皆の方へと走っていく。
「あっ・・・・・・・・・・・・・・ちっ」サスケが舌打ちをするのを、サクラは聞き逃さなかった。からかうような(サスケ曰く悪魔のような)顔で、「ふふふー、残念ね、サスケ君。せっかく独り占めしてたのに・・・・・・」と、笑う。「ちっ、うるせ・・・・・・」「そーそー、残念だったよなぁ?」五月蝿い、と払いのけようとすると、いつの間にやらキバが隣に回りこんでいた。「なにがだよ?」「だってよぉ、お前は暗部、ナルトは火影。この先会える回数なんて、どんどん減るんじゃねぇ?」「そうね〜、私とシカマルなんか、ナルトの就任と同時に火影様直結の参謀役だし・・・・・・」楽しそうに笑うキバに、サクラが乗った。サスケ、思わずシカマルのほうを見る・・・・・・と。なにやらナルトと、愉しげに談義中。更によく見れば、隣にはシノやらヒナタやらカカシやら、ともかくサスケとしては厄介な連中。「シノとヒナタは火影の補佐役(多分火影の大半の仕事をこなす)だし、カカシ先生は直結の情報係でしょ」サクラが、サスケを見透かしたように付け加えた。「まーよ、少なくとも皆お前よりはナルトに近くなるってことだ。スリーマンセル時代みたいにはいかねぇんじゃねぇ?ひゃははは!」「てめっ、キバ!!」「そうよねー、まぁ、ナルトのことは私たちに任せて、サスケ君は暗部の仕事、頑張って頂戴v」「サクラ!!」2人に怒鳴りながらも、内心冷静でいられないサスケだった・・・・・・・・・・・。
end
大変お待たせいたしました。
大人のナルト・・・というと、どうしても私には火影関係になってしまい。
勝手にこんな話になりましたが・・・どうでしょう?
ちょっとサスナル風味な感じもしますが、別に意識してやったわけでは・・・。
まぁ結局は、皆に愛され信頼される火影(ナルト)ということです。(いかにも私的な)
ずらずらと解説もなく会話文・・・どれが誰か、当ててみてください(死)。
6000HITありがとうございました〜vv
これからも我がヘタレサイトを、よろしくお願いします。(ぺこっ)