誘拐犯



薄暗くしか光の入らない狭い部屋で、ナルトは目を覚ました。

「え・・・あれ?ここどこだってば・・・?」

周りを見回そうと体を起こそうとしたとき、体に起きている異変に気づいた。

「なっ、なんだってばよ、これはっ!」

足は閉じた状態で、手首は後ろできつく、縄のようなもので縛られている。

ごそごそともがいてみたが、相当しっかり結ばれているらしく、解ける気配はない。

ナルトは手首をよってみたり、ひねったりしながら、一体なにがおきたのか思い出そうとしていた。

 

 

その帰り道、ナルトはぶつくさ文句をいいながら、人通りの少ない近道を歩いていた。

「ちぇーっ、もう真っ暗だってばよ・・・数学なんてやったって分かるわけねえっつーのっ」

どうやら、数学の補習授業を受けた帰りらしい。

養父であるイルカから、夜遅くに人通りの少ない道を通るな、と言われていたが、貴重な時間を数学の補習なんかでつぶされたナルトにとっては、早く家に着くことのほうが先決であった。

それがいけなかったのだろう。

 

電灯もつかない細い道で、向こうからやって来る人影が見えた。

もっとも、人通りの少ない道とはいえ、まったく人が通らないわけではない。

こんな夜遅くに、珍しいなぁ、と思いながらも、別にたいした不信感は抱かなかった。

その人影は、普通に自分の横を通り過ぎたように思えた。

その瞬間。

やや斜め後ろから、その通りすがりだと思っていた人物が、ナルトの身動きを封じた。

 

最後にある記憶は、なにやら布らしきものを、口元に当てられた感触。

それからすぐに気を失ってしまったらしく、それ以降の記憶はまったくない。

一体何をされたのだろう、と思ったが、体調に特に以上がないので、ちょっとした麻酔か何かだろう。

縛られてはいるが、外傷がある様子でもない。

 

 

(・・・って、ちょっと待てよ?)

そこではたと気付き、数学の教師にさじを投げられたほどの足りない頭を、回転させる。

たどり着いた答えは、単純かつセオリーなものだった。

「これっておもいっきり誘拐だってばよ!!」

「ごーかっくv」

「・・・っっ!?」

 

思わずあげた声にまさか返事をする(?)者がいるとは思わなくて、ナルトは思わず無理な格好のまま飛び退った。

暗くて顔まではよく見えないが、どうやら長身の男のようだった。

ほんの数メートルもないところに立っている。

「目ぇ覚めた?こんばんは、うずまきナルト君・・・ちゃんかな?」

「君もちゃんもいらない・・・って、あんた誰だってば!?」

名を名乗れ!と叫ばんばかりに、ナルトが噛み付くように言うと。

「う〜ん・・・自分から名を名乗っちゃう誘拐犯は、いないと思うぞー?」

自らを誘拐犯だと名乗ったこの男は、愉しげに笑った。

自分を馬鹿にしたような態度に、ナルトがムカッとする。

「この縄解けって!俺なんか誘拐しても、あんまり身代金なんか取れないってばよ!」

イルカが聞いたら、怒るだろう。

「んー?別に、身代金目当ての誘拐なんかじゃないよー」

男は、さらにやる気なさげな口調で話していた。

「ただ、ナルトとちょっと、2人っきりでお話がしたくってねー」

「はぁ?」

 

ナルトはワケが分からなくなった。

2人っきりもなにも、自分はこんな誘拐犯、知らない。

知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない。

・・・・・・・・・・・・しかし。

と、ナルトの思考回路が、ぴたりと止まった。

こんなやる気のないしゃべり方をする人は知らないが、声にはなんとなく聞き覚えがある。

聞き覚えがある、が、一体誰の声だったかが思い出せない。

ついさっきまで、聞いていたような気さえするのに・・・・・・。

 

「俺が誰か、考えてるんデショ」

「!!」

見透かされたような気がして、ナルトはびくっとした。

「でも、まだわかんないんだ?」

「〜〜〜〜〜〜〜〜っ」

次々と言い当てられて、理由もなく腹が立つ。

ナルトは、知ってるやつなら絶対思い出してやる、と思った。

そんな悔しそうなナルトの様子を見て、男は愉快そうにのどをクックック、と鳴らす。

「酷いなぁ〜、さっきまで一緒にいたのにね」

「え・・・?」

 

さっきまで、一緒にいた・・・・・・?

俺はさっきまで(どれくらい時間がたったのかわかんないけど)、数学の先生とマンツーマンで補習を受けてたのに・・・?

って事は・・・。

 

答えはひとつだった。

 

「・・・・・・数学のカカシ先生!!?」

「おっ、せーかいー!」

男、改めカカシは、パチパチと拍手を送った。

「何のまねだってば、先生」

「さっき言ったとおりだよ?ナルトと2人っきりになりたかったのー」

と、子供のような口調で言う。

「だってさー、せっかく補習って呼び出して、2人きりになったのに、ナルト数学の問題解くのに必死で、俺の相手してくんないんだもんなー」

それは当たり前である。

ナルトは、ともかくさっさと終わらして、早いところ家に帰りたかったのだから。

そういえば、人が問題解こうとしてるのに、やたらに話し掛けてくるウザイ先生だったな、とナルトは思い出した。

「何考えてんだってば、ワケわかんねぇっ」

「だーかーらっ、ナルトと2人きりになりたかったんだ、って言ってるデショ?何度言わすのかね、この子は」

授業のときからは想像もつかないような口調で、カカシはおどけた。

それが余計にナルトを苛立たせ、

「何のために?」

不機嫌な様子で、言った。

「んー、ここまで言っても気付いてもらえないとはね・・・可哀想な俺・・・っ」

「いいから早く言えってばよ!」

ナルト、不機嫌度&不快度最高潮。

「ナルトが好きだからに決まってんでしょ」

そう答えたカカシが満面笑顔なのが、ようやく暗闇に慣れてきた目で分かった。

一瞬、ナルトの世界が止まった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ナルトの言葉を待つように、カカシも黙っている。

 

「・・・・・・ごめんなさい。」

「うわ、早!」

もうちょっと考えてくれてもいいのに〜、とカカシが乙女ポーズをする。

「結構俺っていい男だと思うんだけどなー・・・」

「っちゅーか、女子高生攫うような変態、どんなにかっこよくったってごめんだってば」

汚いものを見る目で見ながら、ナルトが言った。

「それに俺、男なんかと別に付き合うつもりないしー・・・」

「じゃあ、先生が女装して・・・・・・」

「やめろっ!」

会話が通じないことに疲れて、ナルトはため息をつく。

この訳の分からないところに閉じ込められたまま、この頭のおかしい男の相手をするのか?

・・・・・・冗談じゃない。

 

「もー本当にさ、これ解いて帰してほしいんだけど・・・明日英語提出物あるのに・・・」

それも1ページどころか1問も手をつけていない、問題集だったが。

とりあえずそれは黙っておく。

すると、意外なことに

「う〜ん、そっか。じゃあ、また明日にしよっかね、ナルトとゆっくりお話するのはv」

教師らしく、提出物がある、と聞くとそんなことを言いながら縄を解いた。

(ナルトにとっては)聞き捨てならないセリフを言いながら。

「・・・ちょっと待て、明日・・・ってどういう意味だってばよ?」

数学の補習なら、今日もう終わったじゃん、と疑いの眼を向ける。

カカシは勝ち誇ったような顔で(何故・・・)、

「あれで終わったと思ってんの?補習の最後にやった小テスト、18点(100点満点中)だったデショ」

と、にっこり笑った。

「う゛・・・・・・・・・・・・・っ」

まぁ、それでも元0点だったナルトにしてみれば、健闘した方だったのだが。

カカシは、やはり一応教師らしく、補習があると言うことだけは譲らない。

「このまんまじゃ今度の定期考査もヤバイデショ。せめて小テストで70点取るまでは、補習終わらないよ」

「げええぇぇ〜〜〜!」

大嫌いな数学に加えて、いかにも怪しげな教師との補習・・・考えただけでも眩暈がした。

しかし、成績に関係のある補習ならば、生徒のナルトは受けざるを得ない。

 

「ささ、解いたから、今日は早く帰って英語やっときなさいよ」

言いたいことだけ言ってあっさりすっきりし(やがっ)たカカシは、笑顔でナルトを見送った。

ナルトは、

(自分で誘拐しておいて・・・)

腹の底から湧き上がってくるような怒り(笑)をかみ殺した。

 

外に出されると、案外自宅からそこまで遠くない国道沿いの道だった。

どうやら、カカシの自宅らしい。

国道沿い、ということでネオンやら電灯で明るいが、空を見上げると真っ暗である。

「早く家帰んなきゃ!」

「送っていこうか、家まで」

「いい!近いし!!」

即座に答えて、駆け出していくナルトを後ろから見送りながら、カカシは苦笑した。

「ま、いっかー、明日もあるし〜」

 

 

「ただいまー!」

「ナルト、遅かったじゃないか。心配したんだぞ、何してたんだ?」

勢いよくドアを空けると、台所の方からイルカが出てきた。

「・・・・・・あーのー、数学の補習受けてたんだってば」

まさか誘拐されていた、なんて言えるはずもなく、無難にそう答える。

(それに、嘘ではないってばよ)

「ってことは、また悪い点数取ったんだな・・・」

呆れたように窘めるように、イルカが言った。

「ちゃんと補習受けて、ちゃんとわかるようにして来い!」

「はーいはい」

そう答えながら、ナルトは心の中で

(冗談じゃないってば・・・)

と思った。

 

夕飯を食べたあと、ナルトは英語の問題集には手をつけず、数学の予習をし始めた。

(何が何でも、明日の小テスト、一発で70点以上とってやる!)

提出物をサボっている、と知らないイルカは、宿題でもないのに勉強をしているナルトを見て感動していたが。

 

もちろん、それまでちっとも数学の勉強などしてこなかったナルトが、いきなり出来るようになるわけもなく、結局その後2週間、ナルトは数学の補習を、不本意ながらも受けることになったとか。



*後書きという名の後言い訳*

初挑戦、学生的(?)パラレルでございます。
ナルトを女子高校生、という設定にすると、なぜかカカシ先生が勝手に数学の教師になってくれました。
でも、あんましナルトが女子高校生だと表現してないですが・・・。
女子高生にしては、言葉遣いが乱雑すぎるのはご容赦を。
カカシ先生、ちっとも凶悪犯ではないのにもご容赦を・・・(いいかげんにしろ)。
(ある意味で強烈に凶悪ですが)
しかも、誘拐という設定を生かせているのやら・・・?(恐)
設定を生かすのが、私はへたくそです。
しゅ、修行してきますぅぅ〜〜・・・。

毎回毎回ヘタレ小説しか書けない愚か者でありますが、これからもなにとぞ・・・。
3333Hitありがとうございました!