欲しいと思ったものを手に入れるためなら、出来る限りのことはする。
これは、太古の昔から継がれてきたであろうヒトの性質で。
欲しいと思う気持ちが強いものであれば、なおさら。

犠牲と執着


 
「ねー、センセー、ラーメンおごって?」
「・・・・・・・・・・・・」
呆れた表情で、自分の腕にぶら下がる子供を見るカカシ。
「そういうことはイルカ先生に頼みなさいね」
保護者役は自分の範疇じゃないよ?と、暗に匂わせる。
右腕に余計な負荷をかけている犯人、ナルトは、にっこりと笑って。
「だって、カカシ先生と一緒に食べたいんだもん。いけないってば?」
疑問形になりながらも、断られるとは微塵も思っていない様子。
カカシはますます呆れて、溜息をついた。
ナルトにではなく、自分、に。
いつの間にか、足は例の“一楽”に向かっている。
「きしししししし」
無邪気なお子様は、歯を見せて笑った。
無邪気?
そう思いながらも、一番彼の“策略”を実感する瞬間。
 
  このまま全て囚われて行って、最終的にどうなるんだろうね、俺は?
  いつまでも、永遠に、お前が俺だけを、なんて確信が、どこに?
 
最近おなじみになりかけてきた“一楽”の暖簾をくぐる。
「おっちゃん、ミソラーメン1つー」
席につくなり、ナルトは人差し指を一本立ててそう言った。
既に条件反射なんじゃないかと思うくらい、自然な動き。
やれやれ、と自分も席につきながら、カカシはチャーシューメンを頼んだ。
「お前ね、こんなしょっちゅうラーメン食ってて、飽きないの?」
「ん?・・・しょっちゅーじゃねえってば。最後に来たの、4日前じゃん」
記憶をたどるようにしていった。
「はぁ・・・」
と、カカシが溜息をつく。
「お前と食事すんのは良いけど、ラーメンばっかり喰って栄養失調になるのはごめんだよ」
「心配ないってば。俺はずっとラーメン喰ってるけど、栄養失調じゃないもん」
そう言って、ナルトは喉を鳴らして水を飲み、喉を潤した。
 
  嘘吐け。
  そんなこと言って、身体は折れそうなくらい細いくせに。
  こんな小さな身体のどこに、忍びに必要なだけの体力があるのか、時々疑うよ。
  ・・・・・・幸せ太りって知ってる?
 
あっという間に運ばれてきたラーメンは、伸びる間もなくあっという間に食べられた。
“せっかく出されたラーメンなんだから、ちょっとでも伸びる前に食べなきゃ”
とは、イルカ先生に諭されたらしい、ナルトの持論。
 
「ナルト、何ノロノロと歩いてんの?」
普通の速さで歩いている自分と、既に4、5mほども距離が出来てしまったナルトに、カカシは振り返った。
暗く・・・というよりは、紫色に近い色に空が染まった帰り道。
夕日の逆光で、ナルトの顔は見えない。
「・・・カカシ先生、歩くのはやすぎ」
口調からして、どうやら少々すねた様子であることがわかる。
カカシは、少し訝しい表情をして
「普通の速さで歩いてるよ、任務のときと同じ速さ」
と、説いた。
すると、今度はナルトが小走りで寄ってきて、カカシの腕をがしっ、とつかんだ。
「?」
「俺は、ちょっとでもカカシ先生と一緒にいたいんだけど?」
下から睨みあげるような目線で。
いつどこで、上目遣い、なんて覚えたんだか、とカカシは頭を掻く。
素直に言葉を紡げるっていうのは、時々すごい武器になるものだ。
「特攻あるのみってのはナルトらしいけどね。忍びとしては減点。駆け引きってヤツも考えましょう」
教師口調になるのは、感情を悟られたくないから。
自分のどこか子供な感情表現に、内心苦笑しながら、カカシはナルトの頭を軽く叩いた。
「・・・・・・・・・・・・・・」
急に黙り込んだナルト。
怒らせるようなことを言っただろうか、何て考えながら、カカシは何も言わずナルトの言葉を待った。
不意に耳にさわったのは、思わず漏れたような感じの笑い声。
 
「別に、“忍びとして”先生のこと好きなんじゃないし」
 
不敵な笑みを浮かべてそう言った。
「それに、“特攻あるのみ”でも十分脈ありだと、俺は思ってるってば」
声も自信ありげ。
図星なだけに、カカシは言葉も返せなかった。
言い終わってすっきりしたかのように、ナルトは歩幅大きく、歩き出した。
 
  感情を他人に見せないのは得意なはずなんだけど。
  お前の前では見せてしまってたのかねぇ?
  それとも、お前が鋭いだけ?
  ・・・・・・どっちにしたって口惜しいことに変わりはないけど。
 
「欲しいもの手に入れるためなら、時間も言葉も惜しみなく使おうって思ってるだけ。
 火影のことでも先生のことでも、おんなじことだってば」
今度はカカシの前を歩きながら、振り返ろうとはせずにナルトは言った。
「たとえばそれが、俺の時間でもカカシ先生の時間でも・・・」
「・・・ずいぶんと自分勝手な御判断だこと」
呆れたようなカカシの言い方を聞いて、ナルトは、くすくすと、押し殺したような笑いを漏らす。
「でも、本当に嫌がってたら、先生は無理矢理にでも自分の時間取り返すでしょ?」
ナルトがこっちを振り向いて、
「俺も自分の時間使った甲斐があるってもんだってば」
そう言うと、機嫌よさそうな足取りで、先へと歩いていった。
 
  本当に。
  “時間”と“言葉”を惜しみなく使った甲斐があったというか。
  これからの俺の“時間”と“言葉”のほとんどが、お前の為のものとなってしまうんだろうね。
  お前が何時までそれを求めていてくれるか、確証もないのに・・・。
 
 
 
「おーい、ナルト。こっちは先生の家の方向だよ?」
「わかってるよ?」
「・・・・・・まさか泊まっていく気じゃないでしょーね?」
「いけないってば?」
 
ラーメンをねだったときと同じ口調に
自分の惨敗を確信したカカシだった。

END

 

◆後書きという名の言い訳◆
 
・・・・・・まったくと言って良いほどリクに答えられていないような・・・(死)。
強いて言えば、カカシ先生がナルトに骨抜きなところぐらいでしょうか?
うううううう・・・す、すみませぬ・・・修行してきます。
ナルトはこう・・・カカシ先生を乱す〜、という感じに書いたと思うんですが。
ど、どうでしょう・・・?(どうでしょうもなにも)
 
こ、こんなんでよろしければ貰ってやってくださいまし・・・。(逃)
 
1000HITありがとうございました〜v