久しぶりに、雪が降るのを見た。
それだけなのに、なぜか
彼と見たい、などと思った。


『Just Simple』


久々に、雪の降る日と相成った。
雲に覆われた真白い空から、それよりも白い粉雪が降りてくる。
任務終了後、なんとなく解散場所でそのまま佇んでいたシノは、冷たい空を見上げた。
どういう仕組みで出来ているのかは知らないが、雪の結晶、とは美しいもので。
服の袖に、ふ、と付いたそれを見て、やはりそう思う。
多分、里中のほとんどの人間が、今、この雪を見て、多かれ少なかれ、感動を抱いているはず。
・・・・・・彼も、今ごろこの景色を見ているだろうか?
・・・・・・この、儚くて、けれど美しい結晶を、目にしているだろうか?
ふと、思った。
・・・・・・一緒に、見たい。
何故だ?と同時に疑問符を浮かべ、浮かんだ思いを打ち消した。
ただの雪を一緒に見たところで、一体なんだと言うのだろう。
確かに雪は綺麗だが、そろそろ寒くなってきた頃である。
何時までもここに居ても仕方が無い。
この淡雪が、雨の雫へと変わってしまう前に、帰った方がいいかもしれない。
と、シノが足を進めようとした時だった。

「シノっ!」
「っ!?」
突然、背中に衝撃を感じて、シノが振り返る。
と、予想に違わずというかなんと言うか、視界に入ったのは黄色い髪だった。
「・・・・・・・・・ナルト」
「やっぱここにいたってば」
キバに会って訊いたところ、今日の解散場所がここだったと聞いて。
帰ろうとしていても、途中で会えるだろうとまっすぐやって来た、とナルトが説明した。
見れば、少し息が切れている様子。
随分と急いでやってきたことが、うかがえる。
「・・・・・・・・・何故?」
相変わらず言葉少なく、主語、述語が無いどころか、疑問詞だけの言葉だったが、ナルトには通じたらしく。
「雪が降ってたからさ、来てみたんだってばよ」
一緒に見たいなぁ、って思って、と白い息を吐きながら、言った。
一緒に見たかった?
それは・・・・・・・・・・・
自分もさっき思っていたことだ。
奇妙な思惑の一致に、不思議な気持ちになるシノ。
「何故?」
同じように問うと、さすがに今度はナルトにも、意味を測り得なかったらしい。
「・・・・・・何が?」
と、聴き返す。
「どうして、一緒に見たいと思った?」
「あぁ・・・・・・」
そういうことか、と頷いて。
少し考える。
「・・・・・・なんでって・・・難しいって言うか、考え難いこと訊くなぁ・・・・・・」
理由、と訊かれても、すぐに答えられる明確な原点があるわけでもなくて。
それでもやはり、『一緒に・・・』と思ったからには、何らかの理由があるはず。
「ま・・・・・・、一緒に見たほうがいいと思うから・・・・・・じゃねーの?」
と、ナルトの答えた言葉は、本末転倒とも言える。
尚疑問符を浮かべるシノに、ナルトは付け足した。
「せっかく綺麗なんだからさ、好きな人と見たほうが、もっと綺麗に見えるってばよ」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・あ。」
しまった、とナルトは遅過ぎながらも、口を閉ざした。
いらないことまで言ったかも・・・・・・、と思うものの、既に拭い落とせはしない。
その上相手は、どう思っているのか・・・寧ろ、言った言葉に気付いてさえ居るのかも分からないが、いたって冷静沈着。
照れ隠し程度に
「ま、まぁ、サクラちゃんたちとか、イルカ先生とかと見たって、いいんだけど」
と、付け足す。
好きな人、であるには変わりはないのだから、間違いではない、と思う。
がしかし、そちらの方がシノにとっては、聞き捨てなら無い科白であったようで。
後ろから、ぐっと抱きしめられる形になった。
「わっ・・・・・・な、何」
「どっちがいい?」
比べるものも提示せず、それだけ問われる。
勿論、ナルトにだって分かるはずはなくて。
「はぁ?・・・・・・何と何が?」
訊き返すと、やはりこちらも簡単に、比較対象だけが返って来る。
「サクラたちと見るのと、俺と見るのと」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
呆れというか、羞恥というかで、ナルトは一瞬返答に迷った。
どういう風に、答えろって言うんだ・・・・・・。
「どっちだと思うんだってば?」
「お前が答える方」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
相手のほうが、一枚も二枚も上手であると、確信して。
「シノ・・・・・・に、決まってんだろっ!!バーカ!」
「っつ・・・・・・」
申し訳程度の復讐。
振り返りざまに、手のひらで、シノの額を軽く一発はたいた。
「シノって意外と、ヤキモチ屋なんじゃん」
「・・・・・・そうか?」
「・・・・・・そうだってばよ」
自覚しろ、それくらい。
呆れにも似た脱力感の中、ナルトはそう思ったが、こういう人間は、意外と自分のことに鈍感なのかも知れない。
「ところで・・・・・・痛いんだが?」
額を指差しながら、シノが言う。
「そんなに痛くないはずだってば」
「謝る気は、無しか」
「ぜぇぇったい、謝らない!」
「・・・・・・ほほぅ・・・・・・・」
ふい、と向こうを向いて
「帰ろ帰ろー」
と、もと来た道を戻り始めているナルトの腕を掴んで、振り向かせて。
「え?・・・・・・わっ、痛っ」
振り向いたその額に、同じように一発。
中指で思いっきり、でこピンを喰らわせてやった。