誕生日が祝われるものであったことを。
とりあえず、あの子が知っていたかどうか。



イワイゴト



10月10日。
カレンダーを見て、エビスは、今日が例の日であったことを思い出した。
おそらく、多くの人間の命日である今日。
4代目火影の命日でもある今日。
そして同時に。
あの、うずまきナルトの誕生日でもあったことを、エビスはふと思い出した。


去年のこの日だったと思う。
エビスは、偶然、本当に偶然だったが、うずまきナルトの誕生日を祝うイルカと、驚いているうずまきナルトを見かけた。
「おめでとう」
と。
プレゼントも何も手渡さずに、お祝いの言葉だけ告げて、『一楽』とか言うラーメン屋に連れて行ってやろう、と話していた。
そのころ、『九尾のガキ』としかその子供を認識していなかったエビスは、特に何も思わなかった。
強いて言うなれば、あの中忍は何を考えているのだ、と。
そちらの方が気になったのが、事実。
何故祝われたのかも分からないで、驚いている子供の表情には、気付かないフリをして。
誕生日を祝ってもらうことがなかったらしい、子供に対しての印象は、記憶のかなたに放置した。


今年もやはり、あの中忍に祝ってもらっているんだろうか。
そんな風に出てきた考えを、振り払おうと、頭を振る。
何故自分がそんなことを気にする?
関係ないではないか、と。
確かに、以前と違ってあの子供がただの『九尾のガキ』でなかったことは、認識している。
が、それと自分が彼の誕生日を気にするのとは、無関係だ。
気にしてどうする、まさか自分が祝いに行こうとでも思っているのか、と。
馬鹿馬鹿しい考えに、嘲笑した。


「オイ、めがね教師!ナルト兄ちゃんの所行くぞ、コレ!」
突然自分のところへやってきた木の葉丸が、そう言った。
「・・・・・・は?なんですと?」
「だから、ナルト兄ちゃんのところ行くんだ、今日はちょっと早めに終わるって言ってたんだ!」
そう言った木の葉丸は、おそらく誕生日プレゼントの類であろう、小包を抱えている。
「何を言ってるんです、今日はもう少ししたら修行の時間ですぞ」
木の葉丸がナルトを慕っていることは知っているが、教師として修行をサボることを公認するわけにはいかない。
「それは帰ってきてからいつもの2倍やるから!じいちゃんもコレを届けろって言ったんだぞ、コレ」
「火影様がですか?・・・・・・それでは仕方ありませんな。帰ってきたら本当にみっちりやりますぞ」
「わかってる。やったーー!!」
木の葉丸が無邪気に喜ぶ。
修行の時間が削られるのは痛いが、その分内容の濃いものを、一生懸命やるのなら、それでもいい、と。
エビスは一緒についていくことにした。
あまり長く修行を削らないための見張り、と言ったが、今日のうずまきナルトが気になった、というのも、否定は出来なかっただろう。


今日の、はたけカカシの班の演習場所へ、あせって足元の早まる木の葉丸を落ち着かせながら、ついていく。
そこには、どう考えても4人以上の人数が集まっていて。
おかしいな、と思い見ていると、他の班の者たちらしいことが分かった。
止める間もなく、木の葉丸が一直線にナルトに向かって走っていく。
「おーい、ナルト兄ちゃん。誕生日おめでとう、コレ!」
「お孫様!!」
エビスも慌てて後に続いた。
「プレゼントだ、コレ!」
木の葉丸が包みを手渡すと、ナルトは
「えっ、木の葉丸もくれんのか?・・・ありがとうってばよ」
と、戸惑うように笑ってそれを受け取る。
その手には、すでに抱えきれないほどのたくさんの荷物を持っていて。
周りにいる友人、師たちから貰った、誕生日プレゼントであることは、明瞭であった。
「お祝いされっぱなしだね〜、ナルト」
上忍、カカシがいつもの笑顔で言うと、
「まぁ、誕生日だもんね」
「てめーみたいなドベが祝われるなんて、こんな日くらいしかないだろーがな」
と、同じ班の2人が、それぞれ口にする。
「やっと歳が同じになったけど、やっぱ背は低いままだなぁ?ひゃひゃひゃ」
犬を連れた少年がからかうと、ナルトが反撃する。
「これから伸びるんだってばよ!それに、キバだってシノよりだいぶ低いじゃん」
「・・・・・・そうだな」
見かけ同様無口らしい少年がそう言うと、一同に笑いが起こった。

うずまきナルトも、たくさんの贈り物を抱えて。
たくさんの人に囲まれて。
たくさんの人の好意に包まれて。
笑っている。
まるで、それが当たり前家のように、受け止めて。

あぁ、そうか。
祝ってもらえるように、なったのか。
そんな居場所が、ちゃんと、出来たのか。
・・・・・・・・・・・・良かった。
そう思うと同時に、なぜか淋しい思いがしたのも、また事実なのだけれど。


木の葉丸の後ろから、形だけだが、言葉を口にする。


「おめでとうございます、ナルト君」


一瞬驚いたように、自分を見て。
けれど、
「ありがとうってば」
と応えた君の、ぎこちなく笑うその笑顔の、なんて嬉しそうなこと。