全ては 「必要とされているから」 なんかじゃない。


『必要性』


たまに・・・・・・ではないかもしれない、結構頻繁に。
彼は平気な顔をして、なかなか痛い科白を吐く。

「お前は主務失格だ!」

とかね。
主務失格って・・・・・・僕、小早川瀬那は、主務としてアメフト部に在籍しているんですが。
まぁ、言いたいことは分かる。
とりあえず、“アイシールド21”として走れ、ということなのだろう。
けれど、それはあくまで、「自分」であって「自分」ではない。
分かり難い表現になるけれども。
ぶっちゃけ、主務として自分が必要なくなった以上、「小早川瀬那」はこの部活に必要なくなるのでは?
少なくとも、ヒル魔さん、栗田さんを除いた周りの人間の認識として。
「小早川瀬那」は「アイシールド21」ではないのだから。

生来の性格なのか、それとも此れまでの人生による形成か。
停滞る事を知らない僕のマイナス思考は、どんどん底を深くして行く。
結論。
主務失格ならば、「小早川瀬那」はアメフト部に必要ないのではないでしょうか?


「僕って、いらなくないですか?」
はぁ?と言う表情で彼が振り返ったのは、その唐突さの所為だろう。
何の前フリも無く、こんな質問をされて、その意図を読み取ることの出来る人間が居たら。
質問を吹っかけた自分が言うのもなんだけれど、僕だって見てみたいです。
「何のことだよ、一体・・・・・・」
「あ、いや・・・・・・だからですね、主務失格だったら、僕って必要ないんじゃないかなー・・・って」
短くとも、性格に意味が相手に伝わるように。
言うと、ヒル魔さんはきょとんとした表情を見せた。
「だったら走りゃいいだろーが」
・・・・・・それは予測していた答えです。
「そうじゃなくて・・・・・・それはアイシールド21のことであって・・・・・・「小早川瀬那」じゃないじゃないですか?」
「・・・・・・何ややこしいこと言ってんだ、テメーは?」
「やっぱ、ややこしい・・・・・・ですかね」
う〜ん、と僕は首を捻った。
伝わってはいないけれども、自分なりに考えた結論なのだけど。
「上手く言えないですけど・・・・・・「アイシールド21」と「小早川瀬那」は別人って言うか、ですね・・・」
「・・・・・・ま、なんとなく意味は分かる・・・様な気もしないではねーけどな」
言いよどんでいると、なんだか頼りない返答が、返ってきた。
そして。
「で、必要なかったらどうだって言うんだよ?」
図らずも論題は、根本へと戻された。
『どうだって言うんだ』と聞かれると、なんと答えればいいか分からない。
どうだって言うことも無いんですが。
更に僕が口篭っていると、重ねるようにヒル魔さんが言葉を連ねる。
「『必要ない』んだったら、部活辞めんのかよ?」
「・・・・・・・・・・・・」
あぁ、そうなのかもなぁ。
なんて、呑気に思う反面、それは嫌だ、と強く否定する自分が居る。
答えられないでいる僕に、畳み掛けるように彼は言葉を投げつける。
「辞めてぇのか?」
「・・・・・・・・・・・・辞めたくは、・・・無いです」

居る意味はないのに。
必要とされては居ないのに。
この部活に、『居たい』と思う。

我儘?執着?欲?

自分勝手な考え、なんだろうか・・・・・・?

一人思考をめぐらせていると、ヒル魔さんの大きく、けれど指の細い手で、少し乱暴に髪を撫でられた。
撫でられ・・・、と言うよりは、頭をつかまれた、というほうが表現が正しいのかも知れない。
この、時たまする彼の行為が、
「よくやった」と言う、ちょっとした賞賛だとか、或いは彼なりの激励だとか。
そういう意味合いが篭められているのだろう、と気付いたのは、つい最近の話。

「・・・・・・?」
ただ、今はその行動の意図が読めずに、疑問をもって相手を見返す。
そこには、いつもと同じ、勝ち誇ったような笑みを浮かべるヒル魔さんが居た。
「それでいいじゃねーか」
「・・・・・・・・・・・・」
「必要だからじゃねえ、テメーがやりたくて、やってんだろーが」


核心をつかれた。
気が、した。


「テメーは必要だから部活やってんのかよ?」
「・・・・・・違います、けど・・・・・・」
「やりたいからやってんじゃねーのか?」
「・・・・・・・・・・・・」

入部の仕方は、かなり無理矢理だった感も否めないけれど。
自分が目指していたことと、今現実にやっていることは、かなり違う気もするけれど。
ひっくるめて、自分が今、アメフト部に執着を持っていることも、矢張り否定できない。

無言のまま、僕は頷いた。

「じゃ、それでいいんだろーが」

呆れるほど簡単に、拍子抜けするほど短絡的に。
彼のたった一言で、僕の葛藤は、意味のない物にされてしまった。
けれど、そんな言葉に、彼の価値観に、妙に納得してしまうわけで。

「敵わない・・・・・・なぁ」
思い知らされる。
彼という人物の、『凄さ』を。
溜息交じりに呟くと、ヒル魔さんは再び、は?という顔をしたが。



「オイ、『必要とされてるから』なんて、思い上がるんじゃねーぞ。まずは『自分』だろうが」
「は、はぁ・・・・・・」
励ましているんだか、いないんだか。
きつい言い方が、既に持ち前の口調として定着してしまっているのか。
とりあえず、前向きな意味での言葉なんだろう、として受け取っておく。

「ヒル魔さんの言葉って、時々(ていうかいつも)キツイですけど、たまに、前向かされますよね」
感謝の意味をこめて、言うと、彼は呆けた表情。
そして返ってきた
「お前はたまに、訳分からんこと言うな」
との言葉に、僕は再び首を捻ることになる。



END