「逆ベクトル」

任務終了後。
私の目の前には、いつもどおりの情景が。

「てめーは絶対俺がいつか倒してやるってばよ!」
「出来るのか?お前見たいなドベに」
「きぃ〜〜!むかつく!」

「はぁ・・・・・・」
そんな見慣れた風景を見ながら、思わずため息。
こいつらは意識してやってるんじゃないんだろうけど。
傍から見れば、それはもう微笑ましい仲のよさそうな風景。
・・・・・・言ったら思いっきり否定するだろうけどね、ナルトは。
サスケ君はどう?
心の中でこっそりと喜ぶかしら?
それとも、単に照れるのかしら?

それにしても。
あ〜あ、むかついてくるわ。
サスケ君は、私がサスケ君に思いを寄せていること、十分承知しておいて。
ナルトはナルトで、私のことを好きだって公言しておきながら。
こうも自分の存在放ったらかしにして、仲良くじゃれあいされるとね。
そりゃあ、悪戯心だって芽生えてくると言うもの。
・・・・・・ナルトに似てきたのかしら、私。

「あんたたちって、ほんっと、逆ベクトルみたいよねー」
わざと大げさにため息をついて、聞こえるように大きな声で言うと。
はっと気付いたように、2人が振り返った。
・・・・・・ああ、そう、2人とも私の存在なんて本当に忘れてたわけね。
「逆ベクトル・・・?ってなんだってば、サクラちゃん」
「・・・・・・」
ナルトは、また俺勉強のこと忘れてる・・・?って感じの顔をして、・・・サスケ君もそんなの習ったか?という表情。
まあね、こんなのアカデミーじゃ習わなかったしね。
知らなくて当然。
「ベクトルってのはね、数学で使う、向きと大きさを表したもののことよ。分かりやすく言えば、矢印みたいなもんかしら?」
ナルトは、ふむふむ、と頷く。
本当に理解してるのか、いまいち怪しいところだけど。
「逆ベクトルってのはね、あるベクトルに対してその『向き』が全く正反対・・・180度反対側を向いているベクトルのことよ」
つまり、今のナルトとサスケ君。
そう言いながら、地面に『←→』と、簡単な図を描いた。
「分かりやすく言えば、『かみ合わない』ってことね」
「ふ、ふ〜ん・・・?俺ってばよくわからん・・・」
ナルトがそう言って、私の書いた図を見ながら首をひねる。
ったくもう、理解力の少ないバカね・・・。
「だーかーら、要するに『仲が悪い』ってことよ」
結局ここまで説明しなきゃいけないんだったら、分かりにくくベクトルの話なんか持ち出すんじゃなかった・・・。
「あっ、なるほど!わかったってばよ」
「ここまで言ってもわかんなかったら、あんたの脳みそを疑うわ・・・・・・」
刺すようにそう言うと、ナルトは、ハハ・・・、とばつ悪げに苦笑い。
「逆ベクトルかぁ〜。当然だってばよ。俺とサスケ仲悪いもん」
・・・・・・あ。
今のは、サスケ君にクリーンヒットしたわね・・・。
ナルトはそんなサスケ君には、気付いた様子も無く
「じゃ、俺そろそろ帰るってばよ〜」
と、笑顔を振り撒いて帰って行ってしまった。
結構残酷よね、アンタ。

「・・・・・・・・・・・・・・」
さっきから一言も言葉を発しないサスケ君。
その姿は、たいそう落ち込んでいるように見えて・・・・・・当然なんだけどね。
好きな子から「仲悪いもん」なんて無邪気に言われて、落ち込まない人はいないわよね。
さすがに、罪悪感を感じるかも・・・。
「サスケ君、せめてフォローすれば良かったのに・・・」
「なんてだよ・・・・・・?」
「『俺は仲悪いとは思ってない』、とか・・・無理か」
そんなこと言える人だったら、毎日あんな喧嘩起こってないはずだものね。
「でも、逆ベクトルってのはただ反対向いてるわけじゃないでしょ」
「・・・・・・?どういうことだ?」
「位置が変われば、向き合うってことじゃない?ホラ」
そういって、地面に木の棒で『→←』という記号を描いた。
「ベクトルっていうのは、位置は関係ないものなのよ」
サスケ君が、その矢印を覗き込んで。
「・・・・・・」
・・・・・・・・・照れた表情。
珍しいものを見れた、なんて思いながらも、理由が酷く情けない。
「はぁぁ・・・・・・」
ため息をつきたくなるのも、当然じゃない。
・・・・・・やっぱりちょっと嫌がらせ言っちゃえ。と思って。
自分で書いた、向き合ったベクトルを指しながら、
「ま、そうなるにはだいぶ苦労するだろうけどね。ナルト、これでもかってくらい鈍いし、サスケ君はサスケ君で素直じゃないし」
「う・・・・・・」
「それに、ナルトの周りにはナルトへの好意を隠さない人、結構いっぱいいるしね〜v」
「うぅ・・・・・・」
「それから・・・」
そう言って、私は立ち上がってサスケ君に背を向けて。
「私だって、ナルトのこと、まんざらでもないのよ?」
振り返って挑発。
「!てめっ・・・・・・」
「クスクス・・・、じゃあね〜サスケ君」
思わず立ち上がったサスケ君は相手にせずに、私は背中を向けて帰って行った。

明日のサスケ君の出方が楽しみと言えば楽しみだけど。
たぶん・・・・・・今までと変わらないんだろうなぁ。
なんせ、『逆ベクトル』だものね。

帰り道そんなことを思いながら、笑いを押し殺していた私は。
やっぱり、ちょっと(?)性格が悪いかもしれない・・・・・・。