本格的にナルトが修行に入った初日。
カカシの第一声は、こんなものだった。
「まずはナルトと誰か、手合わせしてみよっか」
「「「「「「・・・・・・・・はぁあ!?」」」」」」
驚くのも無理はない。
修行初日から、しかもしょっぱなから、手合わせを始めるとは。
「何考えてんだってば、先生?」
実践の方が好きなナルトも、さすがに驚いた。
「だって、とりあえずお互いの流儀の型を知るのには、実践が一番手っ取り早いでしょ?」
確かに・・・。
全員がとりあえず納得した。
「ね、決まり。じゃあ・・・今日はまず、キバとやってみよっか」
カカシが、ポンと手をうった。
完全に納得するわけもないが、唐突なのはカカシの定石らしい。
そうこうしている間に、ナルトとキバは道場の真ん中に構えている状態となった。
「一本勝負ねー。じゃぁ・・・」
カカシが(珍しく)真剣な目つきになると同時に、戸惑っていたナルトとキバにも緊張が走る。
「始めっ!」
すばやくキバが向かってきた。
襟元をつかまれそうになったところを、寸前で引いて腕をかわす。
「ちっ」
その瞬間、ナルトがキバの腕をつかみ返そうとした。
が、すっと引かれて、グッとその腕を曲げられる。
(・・・・・・結構強いってば・・・・・・)
互いに一歩引いて、間合いを取る。
(俺のほうがちょっと(?)身長低いし・・・間合いは不利か)
ナルトは、そう判断した次の瞬間、キバの懐に入り込み、軽く当て身を食らわせた。
キバの足元が、一瞬ぐらつく。
「くっ」
その一瞬を見逃さず、ナルトはキバの二の腕と手首を両手でつかむ。
そのまま足を引っ掛け、地面にたたきつけた。
(もちろんキバは、受身を取ったが)
ドォン・・・・・・っ
「勝負あり!」
カカシの声が響いた。
しばらく道場内がしぃん、と静まり返った。
キバは立ち上がり、ナルトと向き合って終了の礼をする。
「ありがとうございましたっ、キバ」
そう言って、ナルトがにっこりと右手を差し出した。
キバも同じように右手を出して、硬く握手する。
「ありがとうございました。ナルト、さすがに強ぇなー」
「しししっ、3歳の頃から修行してたからな。当たり前だってばよ!」
嬉しそうにそう答えるナルト。
しばし2人の間に、青春番長漫画の喧嘩の後のシーンような、さわやかなムードが流れる。
が、それを黙ってみているほど心の広くない奴等が、ここには数名いる。
「おつかれさまっ、ナルト」
半ばキバを押しのけるようにして、カカシがナルトの目の前に入り込む。
そして、ナルトの肩に手を置いてにっこり笑う。
「いやぁ〜、御手並み拝見したよv強いね〜ナルトは」
「おう!でも、俺ってばこれからも強くなるってばよ!」
「そうだねー、そのためにもここで、一生懸命修行しようねぇ〜」
第3者から見れば、ほほえましい師弟のやり取り・・・なはずもなく。
「お゛い゛貴様・・・さっさとその汚い手を除けやがれ・・・」
いつのまにかカカシの背後にいたサスケが、ドスの利いた声でカカシを睨みつけながら言った。
道場内一のモテモテ男さん(死)が、そんな声を出すものではありません。
すると、先ほど突き飛ばされたキバが起き上がり、
「いきなり突き飛ばしやがって・・・人を一体なんだと思って・・・」
と、非難がましい目でカカシに怒りを向ける。
見れば、手合わせを見学していた他の皆も、尋常ならざる表情でこちらを見ている。
我愛羅に至っては、なにやら構えている。
「???????」
ワケが分からないナルトを無視して、展開している様子。
「ふっふっふ・・・サスケ・・・それは先生に取る態度じゃないよなぁ〜?」
「はんっ、てめーが1度でも先生らしい態度をとってくれたんならな」
「弟子を突き飛ばしたり・・・か?」
キバは、突き飛ばされたことを相当根に持っている様子である。
「どうでもいいが、早く練習なり何なり始めないか?時間の無駄だ」
ネジの年長らしいしっかりとした発言。
だがしかし、
「うるせぇ!そんなもんより、今はこっちの方が大事なんだよ」
サスケの切れた発言に、見事かき消された。
「・・・・・・貴様はいつも、先輩の俺に向かって偉そうな口を・・・」
ネジまでもが切れ始める。
この際、何で練習よりそれの方が大切なのか、とかは関係ないらしい。
「ちょっとは後輩らしく振舞ったらどうだ!」
ネジの参戦をきっかけに、道場が乱闘の場となる。
いつの間にやら我愛羅も参戦。
どうやら『戦い』を見ていると、自分もじっとはしていられないようだ。
戦場カメラマンにはなれないタイプ。(なる必要もないが)
わけのわからない喧嘩に巻き込まれるのはごめん、とばかりに逃げたナルト。
最初から参戦するつもりなどないシノとシカマル。
3人は、道場の隅から止むことのないこの喧騒を眺めていた。
「な、なぁ・・・これ、止めなくていいんだってば・・・?」
「いいんじゃねーの?止めんのめんどくせーし・・・」
青ざめているナルトに、シカマルが答えた。
表情もいかにもめんどくさそうで、言葉を見事に体で表している。
シノも関わる気はさらさらないらしく、
「気にするな。これはこれで、こいつらのコミュニケーションなんだろう・・・」
と無難に付け足した。
「あ、ああ・・・、コミュニケーション・・・だったら・・・いいのかな?」
上手い具合に納得し、
(激しいコミュニケーションだってばよ・・・俺はついていけなさそうだってば・・・)
新しい道場での行き先を、少し心配するナルトだった。
「で、でもこのままじゃ、修行も何にも出来ないってばよ・・・」
どうしたものか、とナルトが首をかしげる。
願ってもいないチャンスである。
シカマルとシノは
「「じゃあ、一緒にするか?」」
同時に言った。
「よっしゃ、3人でやろう!」
ナルトが喜んで頷く。
3人・・・。
シノやシカマルから言えば、本当は2人きりが理想だったのだが、まぁ3人なら8人で修行しているよりいいだろう。
親密度が増すというものだ。
そんなこんなで、3人は他を放って練習へくりだすことにし、
「ここではあの暴れている連中が邪魔になるから、外のトレーニング場へ行こう」
という、シノの提案で、5人に気付かれないまま道場の外へと出て行ったのだった。
そのころ、うずまき流拳法道場にて。
「4代目・・・まだ落ち込んでるんですか・・・?」
「だって・・・っ、ナルトが・・・ナルトが・・・」
頭をがっくりと垂れて、いじけるような声を出しているのは、うずまき流拳法の現4代目師範。
つまるところ、うずまきナルトの父親である。
「参ったなあ・・・ナルト君が出て行ってからずっとこんな調子だもんなぁ・・・」
「まぁ・・・4代目がナルト君のこと溺愛してたのは知ってるけどな・・・」
大分歴の長いらしい、2人の青年が顔を見合わせた。
「そんなに落ち込むなら、ナルト君の将来の夢、許してあげればよかったじゃないですか」
片方が呆れたように言う。
「そう言うわけにもいかんでしょーが・・・俺の後継者はナルトしかいないんだから・・・」
俺だって板ばさみで辛いんだよ、と愚痴る大の男は、4代目師範と言えども情けない。
青年たちは、はあぁ・・・とため息をついた。
「あぁ・・・ナルト、あっちの道場で、いじめとかにあってないかなぁ・・・、ライバル道場の息子だからって」
「大丈夫ですよ、ナルト君は明るい性格ですから、どこに行っても人気者になりますよ」
「・・・それはそれで心配だ・・・変な奴にだまされてないか・・・?汚されてなんかいないのか!?」
「っだーもう!ナルト君だって相当強いんですし、そんな心配いらないでしょう!」
青年はそう言って、4代目を半ば引きずるようにして道場へと向かわせた。
「早くともかく修行を始めないと!弟子も待ってるんすから!」
「そうですよ。そんなに心配なら、誰かに様子を見に行ってもらったらいいじゃないですか!」
2人の青年は、言い聞かすようにそう言った。
引きずられながら4代目師範が呟いた。
「そうか・・・誰かに様子を見に行ってもらうか・・・」