バレンタインデー。
それは、恋人達にとって、クリスマスと並ぶ一大イベント。
残念ながら作者には過去現在共に、恋人と言うものがいないので、その程は分からないが・・・(死)。
とにかくこの時期、片思いの者も思い合っているもの同士も、色めき立つわけだ。
そしてそれは、この木の葉の里の者達とて、例外ではなかった。
 

 
Chocolate*Chocolate
 

 
「おーい、ナルト。そろそろ出来上がる頃なんじゃないか〜?」
台所の方から、イルカの声が呼ぶ。
まもなく、とととっ、という廊下を走る足音が聞こえ、
「できたっ?」
と、なにやら嬉しそうなナルトの顔が覗いた。
そんなほほえましい元教え子の様子を見て、笑顔を浮かべながら。
イルカは、自分で見てみろ、と冷蔵庫を指差す。
待ちきれないように、ナルトは勢いよく冷蔵庫を開けた。
「んん〜・・・、ちょっと白っぽくなっちゃってるってばよ・・・」
と、少し残念そうな表情でそう言いながら、中から大きなトレイを出した。
「急に冷えたばっかりだからだろ、ちょっと待てば元に戻る」
だからちょっと待ってなさい、と、おなじみの教師の口調で、ナルトの頭をなでるイルカ。
ナルトは、ふむ、と納得し、
「よしっ、じゃあ今のうちにラッピングの用意しようっと!」
と言うと、まだ足音を響かせながら、どこぞの部屋へと消えていった。
 
10分後。
「そろそろちゃんと出来てる頃だってば・・・」
わくわくした面持ちで、トレイを覗いたナルトは、中身を見て嬉しそうに顔をほころばせた。
「やった!上手く出来上がったってばよ!」
「おっ、いい出来だったか?良かったなぁ、ナルト」
「へっへーv」
イルカに頭をなでられ、少し照れたように笑うナルト。
こんなほのぼのとした情景だが、『彼等』が見ていたら、嫉妬の視線の嵐だろう。
ナルトは今、その『彼等』のためにこうしてチョコレートを焼いているのである。
焼いていると言うか、焼き終わったと言うか。
「イルカ先生にも、ちゃんとあげるってば」
「ははは、ありがとう。・・・お前も料理上手くなったよなぁ・・・」
「イルカ先生の特訓のおかげだってばよ」
そう、ナルトは意外に料理は上手かったりする。
独身生活を続ける男性が、いつのまにか料理が上手くなるのと同じ現象というか。
それでも3年程前までは、やはりあまり得意とはいえないナルトだったが、イルカの特訓によりそこらの女子にも負けない腕となった。
最近の女子は料理が下手というから、それ以上かもしれない。
ナルトはテキパキとした手つきで、出来上がったチョコレートを、シンプルかつおしゃれにラッピングしていった。
 
 
次の日
世間は例の“バレンタインデー”とやらであり、里中もどこか色めきだっていた。
都合のよいことに、7班の任務はいたって簡単なものであり、午前中に終わりそうである。
 
サクラが、いつもより華やかな笑顔で集合場所へ来ていた。
カカシは遅れると分かっているのに、ちゃんと時間に集合する彼らは偉い。
「おはよう、サスケ君、ナルト」
「・・・・・・あぁ・・・・・・」
「おはよう、サクラちゃん!」
「サスケ君・・・今日はなんの日か、知ってる?」
乙女モードに突入したらしきサクラが、節目がちに訊いてくる。
サスケは悪寒を感じた。
何の日か知らないわけがない。
昨晩、『ナルトにチョコレートをもらえるかもらえないか』で、庭に生えていた花と言う花をむしりまくったサスケなのだから。
あんたも大概アホだよな。
「さあな・・・知らん・・・・・・」
知らぬフリを装うサスケ。
しかし。
サクラは実は彼の昨晩の奇怪な行動を、終始見ていたのだった。
サスケに近づき、小声でささやく。
「うそつき、サスケ君v昨日の夜何してたか、ナルトに言っちゃうわよ・・・?」
「な・・・・・・っ!!?」
予想通りの反応に、サクラは満足した。
「くすくす・・・v受け取ってくれるわよね、サスケ君?」
明王の顔より恐ろしい笑顔でそう言われては、受け取らないわけにはいかなかった。
かわいくラッピングを施された包みを、大人しく受け取る。
「ナルトに変なことしたら、いくらサスケ君だって私たちが黙ってないわよv」
手渡されるときに同時にいわれた、サクラの警告(らしき台詞)。
“達”ってだれだ、“達”って。
 
それを済ませると、サクラはナルトに振り返った。
「ナルト、もちろんあんたにも作ってきてるわよ」
「えっ、マジ?」
やっぱサクラちゃんはサスケかぁ〜・・・、と思っていたところだったナルトは、素直に喜ぶ。
『内なるサクラ:く〜〜っ、やっぱナルトは素直で良いわvやっぱ作ったからには喜んでもらいたいものよねー・・・』
そんな内なる自分を隠しながら、
「ま、不公平だしね。1人だけ作っちゃ」
と、さりげなく手渡した。
実際、カカシの分もちゃんと作ってきてある。
ちなみに、サスケのは幻覚剤入り、カカシのは砂糖の代わりにわさび入り、ナルトのは普通のものである。
「ありがとってば・・・。あっ、じゃあ俺のも〜」
そういって、ナルトは昨日の夕方イルカと作ったチョコレートを、サクラに差し出した。
「え・・・・・・?」
「昨日俺が作ったんだけど・・・やっぱ男が・・・って変?」
すこし済まなそうな顔をするナルトに、サクラは慌てて
「あ、ちが・・・ううん、そうじゃないけど・・・ナルトが料理できるなんて意外だわ・・・」
フォローしようとしたようだが、いまいちフォローになっているのか疑問だ。
「う〜ん・・・まぁ、まずくはなかった・・・と思う」
「ふふ・・・そっか、じゃありがたく頂くわ」
そんなやり取りで、チョコレートを交換する2人。
なかなかさわやかなものである。
 
そんな雰囲気に、水をさすチャクラは。
(サクラめ・・・ナルトの手作りだと・・・?羨ましすぎるじゃねぇかっ・・・)
歯こぼれでもせんばかりのいらだちっぷりでで、ギリギリと歯をかみ締めるサスケのもの。
そんなサスケに、気付いたのか気付かなかったのか。
多分、気付かなかったのだと思うが。
ナルトは救いの言葉をかけた。
「サスケの分もちゃんとあるってばよ、ホラ」
しかし、やはりサクラのときとはうって変わって、受け取れや、といわんばかりにチョコレートを放り投げるナルトだった。
それでも、サスケにはとりあえず充分過ぎるほどの至福だったらしく。
 
(ふっ・・・やはりな。ウスラトンカチが俺にチョコを用意してないなんてことはないとはわかっていたんだ・・・。
 しかし、サクラにも作って、俺の分のカモフラージュまでするとはな。ったく、照れ屋な奴だな・・・。
 この調子だとあの変態にも作っているのだろうな・・・。まぁいい、本命はこの俺なのだから・・・)
 
彼は夢の・・・というより、妄想の世界へと旅立った。
チョコレート1つで、よくぞそこまで旅立てるものである。
 
ちなみに数十分後。
同じくチョコレートを手渡され、サスケのように妄想へ旅立つのではなく、生物らしく(笑)行動にでて、ナルトに抱きついたカカシとサスケのバトルが繰り広げられているのだった。
 
 
午後12時半。
8班メンバーは、弁当タイムのため、丁度休みを取っていた。
そこへやっていたのは、このあたりでは珍しい金髪、ナルト。
「こんにちは、ナルト君v」
「こんにちはー、紅先生。・・・よっ、キバ、シノと・・・ヒナタ」
「よぉ」
「・・・・・・」
「こ、こんにちは・・・ナルト君・・・」
それぞれ独特な挨拶をする。
なかなか、8班のメンバーは色濃い。
 
「わざわざ来てくれるなんて、珍しいわねぇ・・・何か御用?」
ご機嫌な様子で、紅上忍が訊ねる。
先ほどまでとの、あまりの人格の変わりように、8班3人は寒気を覚えながら。
「おうっ!あの・・・さ、俺チョコレート作ってきたんだってば!いっぱい作ったし・・・みんなも食べて?」
にっこり笑って、そう渡されて。
断れるはずもないし、断るつもりもはなからないが。
「ありがとう、ナルト君v嬉しいわ・・・ナルト君の手作りなんて。私もホワイトデーに何かお返しを考えなきゃねぇ・・・v」
「おっ、気が利くじゃん。貰っといてやるよ」
「・・・・・・ありがとう」
「どーいたしまして・・・ってあれ?ヒナタは・・・?」
ヒナタは、いつの間にか姿が見えなく・・・
と思っていたら、シノの後ろになぜか隠れていた・・・。
「どうしたんだってば、ヒナタ?」
「あ・・・あの・・・ありがとう・・・それでっ、わ、私も・・・コレっ」
ゆでダコのようになったヒナタが、顔を垂直下に向けながら差し出したのは、小奇麗にラッピングされた小包。
少し苦労した痕跡が垣間見られるのも、乙女らしい努力の表れである。
「・・・・・・俺に?」
「うっうん・・・チョコレートなんだけど・・・受け取って・・・くれる?」
硬直した状態でチョコを差し出すヒナタから、ナルトはそれを受け取った。
「ありがとなっ、ヒナタ。嬉しいってば」
にっこりと照れたような笑みを浮かべ(本人的には、男らしいさわやかな笑顔らしい)、礼を言うナルト。
「う、ううん・・・私も・・ありがとう・・・」
「うん、じゃあな〜」
そうして、夢の世界へ旅立っているヒナタを残して、ナルトは走り去っていった。
ついでに、なぜか打ちひしがれている紅上忍を残して。
 
「チョコレート、用意するの忘れてたんすね・・・紅先生」
「俺たちはホワイトデーがあるが・・・」
「女がホワイトデーに男に返すって、違和感あるもんな」
同情の意を浮かべて話す、シノとキバだった。
「だって・・・上忍になってから、そんな乙女なイベントの存在なんて忘れていたんだもの・・・・・・。ごめんね、ナルト君・・・」
 
 
お次は10班。
7班と同じく早めに任務を切り上げた10班は、アスマの気の利いたはからいで、茶屋でお茶をしていた。
カカシ先生もコレくらい気が利いてたらいいのに、と、ナルトは思う。
「よーっ、アスマ先生」
「おぉ、うずまきか。珍しいなぁ・・・どうしたんだ?」
アスマのテンポは、いつでも父親のイメージに似ている。
「またうっさいのに会った・・・」
「アスマ先生、お団子おかわり〜」
「ちょっとぉ〜、ナルトだけなわけ?サスケ君はー?」
言うまでもないが、上からシカマル・チョウジ・いの。
ずいぶんな御挨拶だ。
「失礼な奴ばっかりだってばよ・・・、アスマ先生、教育がなってないっ」
「ははははは、まぁ、お前だって礼儀がなってるわけじゃあないだろ」
びしっと指差して非難するナルトに、対するアスマはおおらかだ。
熊のような(失礼)外見とは裏腹に、性格のほうは穏やからしい。
「俺は挨拶くらいちゃんとするってばよ・・・。せっかくチョコレート持ってきたのにさ・・・」
「えっ、マジマジ?わーいvvv」
チョコレートと聞いて、身を乗り出してきたのはチョウジ。
「勝手な態度だってば・・・」
呆れたように、溜息をつくナルト。
「ごめんって〜、チョコレートくれよ〜」
「ま、せっかく作ってきたし、やるか」
仕方ない、といった口調で、でもどこか楽しそうにナルトは4つ包みを出した。
「やった、ありがとー」
「おっ、わりィな・・・」
「おお、俺にもくれんのか。ありがたいな」
「私にも?じゃーありがたく受け取るわー」
「おう、受け取れってばよ」
ナルトは4人にチョコを手渡した。
すると、
「あ、じゃあ私からもあげるわー」
と、いのがかばんの中から、チョコらしきものを2つ取り出した。
「片方はサスケ君にわたしといてー」
と。
「サンキュー、いの。・・・おぉ〜、そういえばコレで俺、チョコもらったの3つ目だってばよ」
いやー、俺ってモテルじゃん、と嬉しそうに頭をかくナルト。
そして、いのの
「でもサスケ君はあんたの10倍は貰ってるわよ、きっと」
と言うツッコミをうけ。
「うっさいってばよ、サスケはサスケ、俺は俺!」
と、言い訳なんだかそうでないんだか、微妙な捨て台詞を残してナルトは去っていった。
 
「ナルトもねー、素直でいいのよねー」
ナルトの後姿を、団子をほおばりながら見ていたいのの一言。
シカマルが、呆れた表情で
「おいおい・・・、お前はサスケじゃなかったんかよ」
とつっこむ。
「弟にしたい感じね、ナルトはー。サスケ君とはまた違うのよー」
あっさりとそういういのを見て、シカマルは男には理解できない女心の複雑さと思うのだった。
 
 
さて、次は誰に渡そうとふらついていたナルトの目に。
任務がないらしく、ガイの思いつきでひたすらに身体を鍛える修行をしている、リー班が移った。
(なんで“リー班”・・・)
「おー、丁度良いってばよ」
ナルトは熱い熱気のたぎる(約2名の所為と思われる)そこへと、近づいていった。
 
「おーじゃま〜・・・」
「あれ?ナルト君ではないですか」
リーの言葉を聞いて、他の3人も集まってきた。
「珍しいですね、こんなときに会うなんて。何か御用ですか?」
後輩にも丁寧語で話すリーは、『礼儀正しい少年』の鏡だ。
「ホント、珍しいわねぇ・・・?」
「久しぶりじゃないかっ、ナルト。どうだ、青春してるかっ?」
「ははは・・・」
青春する、とは、具体的にどういう動詞なのか、と聞きたいが。
「・・・・・・あ、・・・・・・よう、ネジ」
「・・・・・・ふん・・・」
ライバル(?)同士のさりげないやり取りに、熱意を感じたのか。
「リーよ・・・あれが男の青春と言うものだ・・・」
「はいっ・・・輝いています・・・っ」
約2名、どこか違う世界で会話する者達が。
「何の用件だ、こんなところに」
「あっ、そうだ」
(厭味なほどに)冷静沈着なネジの言葉で、ナルトは用事を思い出した。
「今日はバレンタインだから・・・チョコレート持ってきたってばよ」
そういうと、ナルトは4つのチョコを、それぞれ手渡した。
「あら、どうもありがとう」
「これはこれは・・・わざわざ、どうもありがとうございます」
「おぉっ、済まないな、ナルト。いやー、俺も昔はよく・・・(以下省略(酷))」
「・・・・・・ふん、受け取っておくか」
「もうちょっと愛想いい受け取り方できねーのかよ、ネジは」
しかし、他のみんなはなかなか礼儀正しい反応だったので、それほど文句は多くないナルトだった。
「よし、んじゃ渡すものも渡したし、俺行くってばよ」
「ああ、カカシによろしく伝えといてくれ」
と、親指を立てる青春ガイ。
伝えられてカカシが喜ぶとも思えないが。
「どうも〜、ばいばーい」
「お気をつけて」
最後までちゃんと礼儀正しい、2人。
「むかつくネジ」は最後まで無礼者だった。
 
3分後。
「あれ、ネジ?さっきからえらく張り切ってますね・・・?」
なにやら、珍しくやる気を出しているネジを見て、リーが問い掛ける。
木を蹴ったり殴ったりの、打撃音をBGMに、数十秒間の空白。
「・・・そうか?別に変わらないが・・・」
「(・・・妙な間が空きましたね・・・?)」
う〜ん?と首を傾げるリーだったが、それ以上は何も突っ込まないでおいた。
 
 
 
夕方5時ごろ、ナルトは任務終了して6時間後に、やっと帰宅した。
「ただいまー、イルカ先生もう来てる〜?」
「おう、あがらせてもらってるぞ」
中から、イルカの声がした。
「あ、来てた来てた」
嬉しそうに、靴を脱いで家の中へ入っていくナルト。
「ちゃんとチョコは渡せたか?」
「おうっ!7班のみんなと〜、キバたちの班とシカマルたちの班と・・・あとネジがいる班のみんなにも渡した!」
「そうか。俺もちゃんと、頼まれてた火影様と木の葉丸にも、渡しておいたぞ」
「ありがとってばよ、イルカ先生」
「木の葉丸が、最近ナルトにあえないと淋しがってたぞ?」
「しょーがないってばよ、俺も任務で忙しいんだってば」
そう言いながらも、ナルトは“オニイサン気分”で嬉しそうだ。
ははは、と、笑って、イルカはナルトの頭をなでた。
「ま、また時間があるときにでも、会いに行ってやれ、な?」
「時間があるときな」
そういうナルトの表情は、なんとなく弟を持った感じで、誇らしげである。
「で、俺にはチョコはないのか?」
と、イルカが手を差し出す。
「もちろんあるってばよ!」
嬉しそうに言いながらナルトが取り出したのは。
今までの中で、1番大きな包みだった。
「先生には手伝っても貰ったし。特別に1番おっきなやつだってばよ!」
と、にっこり笑って、チョコを渡す。
「ありがとなー、ナルト」
対するイルカも、優しい笑顔で。
「じゃあ、おれもホワイトデーにいいものを用意しなきゃな」
「3倍がえしなっ、先生。3倍3倍!」
手作りチョコレートに●倍、とはつけにくいと思うが。
イルカはこつっ、とナルトの頭を小突き、
「ばか者、せいぜい2倍だ、2倍」
と言った。
(だから・・・倍とか・・・・・・・)
 
「よし、じゃあバレンタインついでに、今日は俺がイルカ先生に御馳走するってばよ」
ナルトは立ち上がると、台所へ向かった。
「お、いいな」
「何が良いってば?」
「う〜ん・・・じゃあ・・・カレーかオムライスかな?」
とりあえず、ぱっと思いつくものを。
しかし、ナルトには物足りなかったらしく。
「え〜?かんたんすぎるってばよ〜」
と、非難の声があがった。
「簡単な料理でも、おいしく作れば良いだろうが」
と、いかにも先生な答え。
「はーいはい」
とナルトは答え、リクエストに答えるべく、料理を作り出すのだった。
 
 
恋人達の大イベント、バレンタインデー。
それぞれに嬉しい思いを抱きながらも。
 
 
結局1番おいしい思いをしたのは、イルカ先生だったらしい。