不器用なショウネンゴコロ
うちはサスケ(推定)13歳。
彼は今ほど自分の口下手を呪ったことはなかった。
3メートルほど離れたところには、黙々と武器の手入れをしているナルト。
ちなみにサスケの手の中にも、既に数十分磨かれたクナイが収まっている。
カカシがサクラを引きつれて、とある資料探しに行ってから、2人はこの部屋で暇な時間を過ごしていた。
資料というのは次の任務で必要なものであるらしい。
サスケとナルトは、喧嘩して資料室を荒らす可能性が高いということで、この部屋に閉じ込められたのだった。
暇な時間、というものが何より嫌いなナルトは、しばらく機嫌悪くしていたが、諦めて武器の手入れにかかった。
そう広くもない部屋の中で2人きり。
密かに(ナルト以外にはもろバレだが)ナルトに思いを寄せているサスケとしては、絶好のチャンス。
だが。
普段、いちいち悪口を言うことでしか関係を保てないこの若き少年に、話し掛ける勇気などありはしなかった。
カカシが、ずいぶんあっさりと自分とナルトを2人きりにしたのは、これがわかっていたからか?
そう思うと、不甲斐ないのは自分だとはいえ、少し、いや、かなり悔しい。
(てめーも普段五月蝿いくらいのくせに、2りになったとたん黙ってんじゃねぇよ・・・)
と、ついつい心の中でナルトにまで八つ当たりしているあたり、相当情けない。
何の罪もないナルトに、恨みがましい視線を送る彼の姿は、駄目な男度最高潮。
(あ、こっち向いた・・・)
「なんなんだってば、さっきからじろじろ睨みやがって」
振り向いたナルトの顔は、まだ先ほどの不機嫌さを引きずっていた。
そんな表情でも、振り返ったことに嬉しいと感じている自分が恥ずかしい、うちは少年。
だが、彼の口からその感情に順じた言葉が出るはずもなく。
「ふん、誰がお前の事なんか見るか、ドベ」
ナルトの顔が、ますます引きつる。
「ドベ・ビビリ・ウスラトンカチって・・・・・・お前の頭ん中には、悪口しかないのかよ」
「お前を形容する言葉が、悪口にしかならないだけだ」
「・・・やっぱムカツクっ・・・・・・・・・・」
(あ、怒った・・・)
自分が怒らせたとわかっていながらも、素直に謝ることは出来ないのがこの少年。
というか、煽ることしか出来ない、幼さの成す悲しい性。
「お、いつもは突っかかってくるくせに、今日は来ないんだな」
どこか残念な気持ちも残っているのには違いないけれど。
「お前が突っかかってきてるんだろっ」
「なんで俺が・・・お前だろ」
「サスケだ!」
「お前だ!」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
両者の沈黙。
さながら一触即発の猛獣同士というか。
「だーっからサスケと2人になんの嫌なんだってばよ」
ナルトが、ぷいっと顔を・・・、というか身体ごとそらした。
「喧嘩にしかなんねーもん。つまんないってばー」
あーあ、サクラちゃんとが良かったのに・・・、とぶつくさ言いながら、再び武器の手入れに取り掛かるナルト。
今さら判りきったことのはずなのに。
ズキン、と胸に痛みが走る。
「・・・レだってなぁ・・・」
「・・・は?」
「俺だって、好きで喧嘩ばっかしてんじゃねーんだよ」
「はぁ?」
ナルトは、なんなんだ、と振り返って、・・・・・・目を見開いた。
後ろから見える耳が、微かに赤い。
「さ、サスケ・・・?なんか、顔赤いってば・・・?」
「うるさい!」
「なっ・・・」
人がせっかく心配の一言をかけてやっているのに、とまたムッとするが。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あー」
照れ隠しなんだなぁ、と理解できるほど大人でもないけれど。
どこか少年らしさを感じるサスケの姿に、笑いがこみ上げてきて。
「・・・ぷっ」
さすがに失礼だとは思ったが、押し殺した笑いが噴き出てしまった。
「何笑ってやがんだ、てめーはっ」
赤い顔のまま、サスケが怒鳴る。
が、言われても特にナルトは腹も立たなくて。
「ははっ、あははっ・・・わ、わりーってば、でも・・・なんかッ、くく・・・ッ」
「なんなんだよ、一体・・・」
訳がわからず、サスケは笑うナルトを見て、溜息をついて。
でもどこかほっとする。
まだ少し肩を震わせているナルトと、俺らしくない、と自己嫌悪に陥っているサスケと、背中あわせで座りながら。
ようやく笑い終わったらしいナルトが、口を開いた。
「よっしゃ、んじゃ今日は一緒に修行な、夕方」
「・・・・・・しょーがねーから、付き合ってやるよ」
END