不眠症のあの子に、せめて、安らかな夢を。




『インソムニア(不眠症)』




最近ナルトの様子がおかしい、と気付いているのは、7班メンバーだけではなかった。
とにかく簡単に表現するとするなら、「ボーっとしている」。
それは、持ち前の猪突猛進とドジに加えて、彼の体に傷を残すのに一役買っていた。
が、その他のメンバーが普段の倍苦労して、それをサポートしていた。

ドジだけならまだしも、元気が無いことにさすがに心配したサクラが
「アンタ、最近どうしたのよ?全然元気ないじゃない?」
励まし半分叱咤半分に訊ねると、ナルトはいくらか力ない笑みを浮かべて答えた。
「うーん・・・・・・あのさ、最近ちょっと眠れないんだってばよ。
 あっ、でも、またそのうち眠れるようになるから・・・・・・大丈夫、大丈夫」
そして、心配かけてごめん、と。
笑ってはいたものの、それで周りも安心出来るはずはなく。
心配なら素直にそれを表現すればいいものを、サスケはいつものごとく
「自分の体調管理も出来ねぇなんて、忍失格だな」
と突っかかったが、それに対するやり返しをするほどの気力もないらしいナルトに、7班全員は目を丸くしたという。




とにかく、寝つきが悪くなる時期が、幼い頃から不定期的にあった。
やっとのこと意識が消えてきたかと思えば、襲ってくる悪夢。
そのくせ、その夢の内容は、起きたときには何一つ覚えてもいない。
どうしてか、昔は解からなかったけれど、「九尾」のこととか知って、最近ちょっと解かるようになった。
あの、砂の我愛羅と似たような現象なんだろう。
ただ、俺の封印の方が格段に質がいいのか(俺の術じゃねーけど)、俺はずっとって訳じゃない。
もっと小さい頃は、しょっちゅう起こってた気もするけど、それは俺のチャクラが安定してきたからかもしれない。
どう努力したって治るもんでもないと思ってたから、今まで放っておいたけど。
この分じゃ、皆に心配をかける・・・・・・かもしれない。(サスケのヤローは微塵もそんな感じじゃないけど!)
どうすれば止められるように・・・・・・眠れるようになるのか、エロ仙人にでも聞いて見ようかなぁ・・・・・・?
まぁ、サクラちゃんに心配してもらえるのは、ちょっとは嬉しいけど。




今日こそはよく眠れるといい。
とりあえず、今日も眠れなかったら、または悪夢にうなされでもしたら、本気で自来也にでも相談に行ってみよう。
そんな風に思いつつ、内心、襲ってくるかもしれない悪夢にドキドキしつつ、ナルトは布団に潜り込んだ。
“自分の腹の中のモノ”が、自分の安眠を妨害しているなんて、腹立たしくてやりきれない。
更には、それは到底自分の力では及ばないところなのだから、余計に。
・・・・・・腹ン中に赤ちゃんが居て苦しい女の人とかって、そんな感じなのかなぁ・・・・・・?
・・・・・・あ、それは違うか。赤ちゃんは可愛いし。
等と、場違いなことを考えながら、ナルトは半ば無理矢理目を閉じた。




今夜もまた、嫌な夢見るのかもしれない。
内容は覚えて無くても、起きたときのあの、汗びっしょりの嫌な感じ。
明らかに不自然な、バクバクいってる心臓とか。
一人で寝るのには慣れてる(っていうより、そのほうが自然)だけど、こういう時はやっぱり不安だってばよ。
甘えてるとか、ガキ臭いとか思われるのはやだけど。
「お母さん」とか「お父さん」とかいたら、やっぱこういう時傍に居てくれるもんなんかな?
そしたら、安心して眠れるもんなんかなー・・・・・・・・・?
うーーーー、・・・・・・どーでもいいから、今日こそは眠りたい・・・・・・。















次の日。
久しぶりにテンションの高いナルトに、7班はほっとしながらも、首を捻った。
「今日は元気じゃない、ナルト。昨日は眠れたの?」
既にナルトの姉化が進んでいると思われる、サクラが、ナルトの様子に安心して言った。
振り向いたナルトの表情は、この間と違って大分明るい。
「うん、・・・・・・・なんかさ、昨日すっげーいい夢見たんだってば。あんましよく覚えてねーけど」
「・・・・・・・・・夢?」
「そう、夢。
 なんか・・・・・・俺が寝ててー・・・・・・、で、誰か大人の人が、俺の手ぇ握ってくれてる夢・・・だった、かな?」
曖昧な夢、だったにもかかわらず、妙にそれに安心して、昨日は久々に安眠できたことを、ナルトは回想する。
「大人の人〜?それってもしかして、先生かなぁ?」
せっかく安らかだった雰囲気を、ものの見事に壊してくれたのは、担当上忍。
すかさず
「ナルトの部屋に、何しに忍び込んだのよ!?この変態!!」
と、ナルトの姉、もといサクラから、手痛い突っ込みが炸裂する。
クナイを投げようとしたサスケは、出遅れた様子。(とことんヘタレ)
っていうか夢だって、と突っ込んだ冷静沈着なのは、ナルトの心の中でのみだった。
「先生じゃないってばよ。もうちょっと若かったし・・・・・・髪も黒かった、気がするし。
 ・・・・・・・・・あ、そう言えば、なんかサスケに似てた気もする・・・・・・けど、もうちょっとかっこよかったけど!」
曖昧な記憶を辿り語りながら、しっかり2人に打撃を与えるナルト。
御見事。
サクラは心の中で、ナルトに拍手を送った。


一方サスケは、ナルトの言葉にサックリと刺されながらも、
“カカシより若い、自分に似た大人の男”(自分よりかっこいい説は排除)
という人物像に、一瞬浮び上がりかける人物に、軽く戦慄を覚えた。
が、すっかり元気になったらしいナルトを見て、まぁいいか、ととりあえずの落ち着きを取り戻す。
もとより、そんな悲劇、彼としては、想像もしたくなかったとも言える。







「・・・・・・・・・さっきから、何か言いたそうな表情をしてるな」
「この里に、未練など無いと、おっしゃってませんでした?イタチさん・・・・・・」
「あぁ、まるで無いな」
「じゃあ、何故“あんな真似”を?」

「・・・・・・・・・・・・気まぐれだ、単なる」




終われ