醒めない夢・3
次の日曜日、麻衣と翔は初めて二人で出かけた。 映画を観て、お茶を飲んで、他愛ない話をしたり、勉強の話だったり・・・。空が茜色に染まる頃、二人は鴨川の流れに
沿って、腕を組んで歩いた。そして、麻衣は翔に、両親から聞かされた本当の親のことを話した。 「・・・・・そうか。そんな事情があったんだ」 「うん・・・でね、私、改めてお父
さんとお母さんに育ててもらえて良かったな、って思ったの」 「うん」 翔はそっと麻衣の右手に自分の手を重ねた。翔の温もりが、そのまま彼の優しい心のような気がして、
麻衣はほんのりと暖かい気持ちに包まれた。 「・・・そうだ。麻衣、プレゼント、何がいいか決めてきたか?」 思い出したように翔が言った。それを聞いて麻衣の頬がほんのり
と赤く染まる。 「う・・ん・・・・・あのね、怒らない?」 「何?・・・まさか、うん十万もするような宝石、とか言う気か?」 「違うよ。あのね・・・寮まで、送って、くれる?」
「何だ、そんなんでいいのか?」 「うん・・・明日の朝に、ね・・・・・」 麻衣は腕を解いて俯く。顔から火が出そうだった。 「麻衣・・・」 思いがけない彼女の言葉に、翔
は一瞬言葉を失う。けれど、目の前で真っ赤になっている麻衣を見ていると、たまらなく愛おしく思えてきて、そっと彼女の肩を抱き寄せる。そして、その手にほんの少し力が込められ
た。
翌日。 新しい週の始めである月曜日の朝を、麻衣は翔の腕の中で迎えた。 昨夜のことも、翔が自分を好きだと言ってくれたことも、両親やきょうだいと血の繋がりがな
いことも、みんな紛れもない事実なのに、何だか夢の中のような気がする。 「・・・、あ、そうか」 「何が?」 車を運転しながら翔が聞いてきた。 「うん、あのね、私は
今、醒めない夢の中にいるんだなーって思ったの」 「醒めない夢の中?」 「そう。翔くんのことも、両親のことも、現実なのに夢みたいな気がしてるから」 「成程な・・・
そうかもしれないな」 「うん」 赤信号で車が止まり、二人は顔を見合わせて小さく笑った。
fin.
この話を書いたのはもうかれこれ10年は前、ですね・・・。翔と麻衣は私にとって大切なキャラなんですが、この後書き進めていくうちに、設定が変化していった部分
がありまして。今回、HPに立ち上げるに当たって、微妙な部分を修正してあります。 初めて、これを読んで下さった方にはあまり関係のないことですが、昔、これを読んで下さった
方がもし、いらしたら・・・そういう訳ですので、驚かないで下さいね。 最後までおつきあい下さってありがとうございました。よろしければ、感想など聞かせて下さい。
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