宝塚大好き!

◆宝塚大劇場月組公演(98/9/18〜98/10/26)感想◆
 〜『黒い瞳』『ル・ボレロ・ルージュ』〜

 育児の合間を縫って、また行って来ました、宝塚。今回は息子を実家に預け、夫と二人で観劇です。有り難きは親の恩、そして夫の協力、でございます。

 さて、『黒い瞳』はロシアの作家プーシキンの『大尉の娘』を元にした作品です。貴族の青年ニコライが辺境の砦で大尉の娘マーシャと恋に落ち、砦の陥落やマーシャの出生(実はコサック)などの苦難を乗り越えて結ばれるラブストーリーと、偶然の出逢いから奇妙な友情を育むことになるコサックのプガチョフと、その反乱の行方(「プガチョフの乱」は史実です)とを軸に話が展開していきます。

 今回外部の演出家(宝塚出身の謝珠栄氏)が演出・振付を担当するということが一つの話題だったのですが、この試みは見事に成功していました。古典的で宝塚にはありがちなストーリーをテンポよく見せ、現代風に仕上げています。芝居とダンスとのバランスや舞台の使い方が巧みで、最後まで退屈することなく見ることができました。

 青年ニコライ役は真琴つばさ。マーシャは大劇場はこれが最後となる風花舞。そしてプガチョフには紫吹淳。真琴、風花の両トップはそれぞれの役を好演していましたが、このコンビになってから3作とも「好青年」と「純情可憐な乙女」の組み合わせでしかも一目惚れ。ハッピーエンドは初めてだったものの、風花さんが辞める前に違ったパターンを見たかったです。

 紫吹さんは主役を喰う怪演。反乱軍の首謀者ということでどうしたって印象は強く、おいしい役ではありますが、その懐の大きさ、破滅の予感を秘めながらも前進するしかない、トップに立つものの孤独をにじませた演技は見事でした。彼女の演技がこの作品を支えていたと言っても過言ではないでしょう。

 もう一人、作品を締めていたのがエカテリーナ2世役の千紘れいかさんです。出番は決して多くありませんが、貫禄といい美声といい、初風淳さんのアントワネットを彷彿とさせるものがありました。

 「生みの親は政府軍に、育ての親はコサックに殺されました。もうたくさん」というマーシャのセリフ、そして、あなたは貴族で私はコサックだというマーシャに向かってニコライが言う、「もう言うな。そのためにどれだけの血が流されたか。僕たちはその多くの人のためにも強く生きていかなければいけない」という言葉に作者の想いが込められています。紛争は今も絶えず、ここに描かれたような話は決して「古めかしい」昔話ではないのだと。

 ショー『ル・ボレロ・ルージュ』は「エスニックなリズムをテーマに構成した」という話なのですが、正直期待はずれでした。スパニッシュのプロローグは非常に格好良かったのですが、後が続きません。いくら真琴さんが魔物系メークが似合うと言っても、中詰めが「魔界のカルナバル」というのはいただけません。どこがエスニックなの?と言いたくなります。「ブルー・モスク」の場面もセット・ダンスは幻想的でしたが、音楽が今ひとつでした。どうせならコーランの詠唱を使ってもっとイスラム色を出してほしかった。

 プロローグでの樹里咲穂さんの歌が出色でした。また、彼女はフィナーレでも千紘さんとデュエットでエトワールを務めていましたが、これも素晴らしかった。男役と娘役のデュエット・エトワール(通常は美声の娘役のソロです)はこれからも使って欲しい発想です。


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