宝塚大好き!

◆宝塚大劇場星組公演(98/6/26〜98/8/3)感想◆
 〜『皇帝』『ヘミングウェイ・レビュー』〜

 星組トップスター、麻路さきさんのサヨナラ公演です。彼女が最初に注目を浴びた『戦争と平和』からずーっと見てきて、日向薫さん、紫苑ゆうさんとのトリオのゴージャスさが大好きだった私にとっては、いよいよ星組の1時代が終わるか、と感慨深い観劇になりました。

 暴君として歴史に名高いローマ皇帝ネロの生涯を描いた『皇帝』で、麻路さんは豪華な衣装を着こなし、堂々たる威厳を見せます。立っているだけで他を圧する存在感はさすが。本来は英邁でありながら、母への愛ゆえに狂気の仮面をかぶらざるを得ない苦悩も実によく表現しています。そう、この物語は「何故ネロは暴君になったか?」という点に重きがおかれ、「それは母への愛からだ」ということになっています。横暴で残虐な母アグリッピナを慕い、かばいながらもついにはローマのため手にかけるネロ。しかしその死の瀬戸際、「すべてはおまえのためだった。おまえを光り輝かせるため、私はわざと悪役にまわったのだ」という母の言葉に衝撃を受け、ネロは母の汚名を晴らすべく、自ら暴君となることを誓う……。

 アグリッピナのネロに対する愛が非常に偏執的というか、倒錯している(息子の愛人になりたがっているんだもの)ので、彼女のためにネロが人生を台無しにしてしまうのがどうも納得できず、感情移入しにくいストーリーになってしまっています。ヒロインであるネロの妻オクタヴィアも、ネロの仮面を見抜きながら、「暴君としての生涯を完成するために私を殺しなさい」と迫るようなこれまた倒錯した愛の持ち主だし、たとえ「善も悪もこの世に必要なればこそ神はお作り賜うたのだ!」というネロのセリフが正しいとしても、最後までドラマに共感するのは難しかったです。

 一転してショー『ヘミングウェイ・レビュー』はカラフルでスピーディー、音楽も良く楽しめました。文豪ヘミングウェイの生涯をモチーフに、闘牛、イタリア戦線、アフリカ、カリブなどのシーンが展開、娘役トップの星奈優里さんの裸足のダンスや、麻路さんと同期で同じく今回で退団の千秋慎さんの歌が魅力的です。

 自殺して「天国の門」へとたどりついた麻路さん扮するヘミングウェイの、愛する者へ別れを告げる歌は、麻路さん自身の退団と重なってぐっと胸に迫ります。また、その後に続く白扇のシーンも美しく、二番手の稔幸さんの歌「Time To Say Goodbye」をバックに踊る麻路さんと星奈さんのデュエットダンスを見ながら涙ぐんでしまいました。

 今回、麻路さん、稔さん、絵麻緒さんとスター3人が同時に舞台に出ていることが多く、かつての日向さん、紫苑さん、麻路さんのゴールデントリオを思い出させるものがありました。当時は3番手だった麻路さんがトップになり、しかも去っていこうとしている……。いちいち感無量になってしまうのですが、スターさんがそろって出ているシーンはやはり華やかで素敵でした。

 オフの穏やかであたたかい人柄からは想像できないほど、舞台では色気と包容力のある男役として他を圧していた麻路さん。ナチュラルな男役が多くなってきた昨今、その存在は際だっていました。何人ものスターさんが演じた中で、その包容力から一番アンドレらしかった『ベルサイユのばら』、紫苑さんの代役として凛々しい皇太子像を見せた『うたかたの恋』、阪神大震災後のトップ披露『国境のない地図』、手の使い方から立ち居振る舞いすべてが艶めかしかった『エリザベート』のトート……。思い出が多すぎてとても書ききれないけれど、麻路さん、素晴らしい舞台をありがとうございました。


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