宝塚大好き!

◆宝塚大劇場月組公演(98/2/13〜98/3/23)感想◆
 〜『WEST SIDE STORY』〜

 『ウエストサイド』と言えば今さら説明の要もないミュージカルの名作、もはや古典といってもいい作品です。ナタりー・ウッドやジョージ・チャキリスの出演した映画が有名ですが、もともとは舞台作品で、日本では宝塚が初めて上演したそうです。今回30年ぶりの再演となりました。

 初演時は「女ばかりの劇団であのダイナミックなダンスを踊れるのか」という周囲の杞憂をくつがえす熱演で大評判をとったとのこと、私はもちろん初演を見てはいませんが(30年前って生まれた年だもんね)、今回も出演者全員期待を裏切らぬ大熱演。映画も素晴らしかったけれど、生のダンスは迫力が違います。加えてあの数々の名曲もすべて生なんですものねえ。私なんか幕の開く前の序曲を聴いただけでもう感動して胸がいっぱいになっていました(笑)。

 主役のトニー、マリアはもちろん真琴つばさ、風花舞のトップコンビ。ジェット団、シャーク団という弾けた若者達の中でトニーは一人「静」であることを要求される、ともすれば影の薄い人間になってしまいそうな役ですが、真琴さんはなかなかよく踏みとどまっていたと思います。難しいとされるトニーの歌もよくこなしていました(あまりの音域の広さに出ない高音もありましたが)。一方、せっかくのダンス巧者の風花さんなのに、あまりダンスのないマリア。マリアの歌も難しく、かなり苦しそうでしたが、無邪気で純粋な少女に始まり、毅然としてトニーの葬列に加わるラストまでの心の動きはよく表現されていました。最近の風花さんは本当にどんな役もこなせる演技巧者にもなってきたなぁという感じがします。

 しかし、主役の二人をさしおいて、3番手であるはずのベルナルドもさしおいて、私が最も注目し、感激したのはアニタ! もともと『ウエスト・サイド』の中では一番好きな役で、配役発表を楽しみにしていたのですが、普段は男役の樹里咲穂さんがやると聞いて一層期待が高まりました。その期待は裏切られず、確かな歌唱力と男役ならではのダイナミックなダンス、そして思った以上の表現力でアニタになりきっていました。出番が多くおいしい役である反面、アニタがこけると作品自体がこけてしまうと思えるほどの重要で難しい役。本当に素晴らしかったです。

 激しいダンスの最中に歌も歌わなきゃならないリフ(初風緑)やアクション(成瀬こうき)もよくがんばっていたし、エニーボディズ役の叶千佳さんも下級生ながら大健闘で印象に残りました。

 物語の余韻を残すため、またストーリーを割愛せず完全版として上演するため、宝塚名物のフィナーレが今回はなく、大階段も出てきません。「それが楽しみで来てる」という方には残念なことかもしれませんが、感動のラストシーンの後に何の関係もないラインダンス等が続くよりはシンプルなカーテンコールがこの作品にはやはり合っていると思います。羽根や大階段がなくても十分宝塚は素晴らしいのだという意味でも。

 音楽もダンスもまったく古さを感じさせず、またこの作品で訴えられている「いがみあいは悲劇しか生まない」「愛だけが憎しみを超えられる」というテーマも、今なお色褪せることはありません。逆に言えば、人種間の対立、大人と若者との対立、貧困、偏見などなど、この作品が生まれた40年前から事態は何も変わっていないということです。色々と考えさせられてしまいました。


インデックスに戻る