宝塚大好き!

◆宝塚大劇場月組公演(97/6/27〜97/8/4)感想◆
 〜『EL DORADO』〜

 久世星佳退団を受けて、新トップとなった真琴つばさのトップ披露公演は1本立ての大作。オリジナルの1本立ては阪神大震災後の第1弾で麻路さきのトップ披露でもあった『国境のない地図』以来、2年ぶりです。

 国を追われたスペイン人将校イグナシオが、「争いのない理想郷」を求めて南米大陸に旅立ち、思い描いていた通りの黄金郷エル・ドラドにたどり着き、太陽神に仕える乙女レーニャと禁じられた恋に落ちて……。二人の愛の強さにエル・ドラドの皇帝ワルパは掟を改め、『今日からは愛を邪魔するどんな掟も存在しない!』と叫ぶ。が、その時既にエル・ドラドの黄金を狙うスペイン軍が上陸していた……。

 インカ帝国をモデルにしたエル・ドラドとスペインが舞台ということで、フラメンコとフォルクローレの両方が楽しめる上、「黄金郷」の名に恥じない豪華な衣装。本物の水を使った滝のセットといい、舞台装置も凝っていて、宝塚らしい華やかな舞台に仕上がっています。エル・ドラドの住人が何故かみんなスペイン語を話せたり、敵役や裏切り者があまりにも類型的だったりするのはまぁご愛敬で、ストーリー展開がわかりやすく、宝塚初心者の方にも楽しめる内容になっていると思います。結果的にエル・ドラドは滅亡し、主要な登場人物は全員死んでしまうのですが、ラストで生き残った老人が孫娘に『じゃあもうこの世に理想郷は存在しないの?』と問われ、『夢を信じて進んでいけば、きっとおまえのエル・ドラドが見つかるよ』と答えるシーンは非常に感動的です。

 主人公イグナシオを演じるのはもちろん新トップ、真琴つばさ。歌がうまくなっていることにまず驚かされました。声に幅が出たというのでしょうか、セリフも明瞭で堂々たるもの。何と言っても非常に綺麗な人ですし、初めてレーニャに逢うシーンでの軽妙洒脱な味は彼女ならでは。ただ正義に燃える一直線な男というのでなく、知性と意志とユーモアを兼ね備えた「ずうずうしいスペイン人」(皇帝ワルパのイグナシオ評)がぴったりはまっていて、ドラマの悲劇性を救っています。

 レーニャ役の風花舞も、既にトップ娘役の貫禄十分。「男性に話しかけてはいけない」という掟のため、初めてイグナシオに出逢うシーンでは一言もセリフがないのですが、目と表情だけで心の動きがしっかり伝わってきました。

 皇帝ワルパは姿月あさと。根は善良なんだけど生まれた時から権力を持っている青年の役が不思議に似合う人です。3枚目を演じても生真面目さの漂う彼女には一度徹底したワルを演じてほしいですね。他に目立ったのはイグナシオに片思いしているジプシー娘ラウラの千紘れいか。思っていることを全部口にする明るいラウラはセリフも多くておいしい役。ヒロインのレーニャがあまり派手な動きのない役なのでよけいに目立ちます。千紘は熱演ですが、少々力みすぎの感もあり、セリフの声がきんきんして聞こえます。ラウラのキャラクターには合っていましたけどね。

 ともあれ新生月組は順調な滑り出し。真琴も風花も素晴らしいダンサーですからショー作品にも大いに期待が持てますし、軽妙な真琴と重厚な姿月の対照的で美しいコンビがこれからどんなドラマを見せてくれるのか―――。私の月組びいきはまだまだ当分続きそうです。


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