宝塚大好き!

◆宝塚大劇場星組公演(97/5/9〜97/6/23)感想◆
 〜『誠の群像 新選組流亡記』『魅惑U ネオ・エゴイスト!』〜

 昨年末、『エリザベート』の再演を見事に成功させた星組が、うってかわって時代劇に挑戦した今回の大劇場公演。『誠の群像』は副題が示すとおり、副長土方歳三を軸に、新選組結成当初から五稜郭での決戦までを駆け足で見せます。1時間半の間に「芹沢鴨の暗殺」「池田屋騒動」「山南敬助脱走」「近藤勇・沖田総司の死」「土方の死」と数年に及ぶ出来事を詰め込んでいるので本当に駆け足というか、それぞれのエピソードを掘り下げる暇がないという感じです。元々新選組ファン、それも土方ファン!という人には、意外に出番の少ない土方を物足りなく思ったり、「私の土方はこんなんじゃないわ」とつまらなく感じた人もいるのではと思います。何しろ新選組はあまりにも有名で、資料も多く、小説・映画で何度も描かれているので、見る人の中に既に過剰なイメージがある分、難しいところがあります。

 『燃えよ剣』ではなく『新選組血風録』を参考にしたということで、一本筋の通ったストーリーというよりは、エピソードの積み重ねで幕末の青春群像を見せるという仕立て。コメディー風の場面もあり、大劇場作品としては及第点だと感じましたが、土方の心の内を見せるシーンがあまりないため、「最後の武士」として死んでいく土方の頑固さは少々空回り。感動が薄いのは否めません。バウホールでじっくり見たかったなという気もします。せっかくの新選組がこの駆け足では少々もったいないなぁと。

 土方役はもちろん星組トップスターの麻路さき。新選組の“制服”ダンダラ羽織姿も、五稜郭での洋装もよく似合い、カッコいいです。いつも睨みを効かせている非情な男の風情がよく出ていて、日舞もうまく、本当に1時間半では物足りない感じ。立ってるだけで男らしいですからね。

 2番手男役の稔幸は山南敬助と榎本武揚の二役。違いを出そうとしたせいか、榎本はやたら怒鳴っているという感じでしたが、山南は好演。ただ、山南のような「いい人」のキャラクターを稔が演じるのは意外性に乏しく、勝海舟を演じた紫吹淳と配役が逆だったらどうなったかなと思います。その紫吹淳。『エリザベート』のルキーニ同様、狂言回しでもあり色の濃いおいしい役どころ。目立ってました。

 新選組と言えば沖田総司、演じるは絵麻緒ゆう。これもハマリ役。あまりにもぴったりで……。そして新しく娘役トップとなった月影瞳。土方と恋に落ちる武家娘・小夜の役ですが、まだまだ堅い。「大輪の花」白城あやかの後ではどうしても地味に映るので、よりいっそうのびやかに、華やかに見えるように努力してほしいです。

 さて、ショー『魅惑U』の方ですが、こちらは岡田先生のロマンチック・レビューシリーズ第11弾。非常にクラシカルというか、まさにロマンチックな色彩にあふれ、中詰めの「ビギン・ザ・ビギン」はまことにレビューらしい美しいシーンです。岡田先生のいう「品」や「香り」がよく表れています。が、「お上品」すぎて少々物足りないというか、特に印象に残るシーンがあるわけではなく、音楽も弱い。悪くはないのだけど、大型男役の多い、キザらせたら4組随一の星組で「ロマンチック」をやられても……。今年はモン・パリ誕生70周年ということで宝塚歌劇団は「レビュー・ルネサンス」を掲げていますが、月組公演からの4作ともあまり成功しているとはいえない気がします。70年もやっていればどうしたって前に見たことのあるシーンばかりになってしまいますが、本当にいい物は何度見ても飽きないのだから、全編いいとこどりで最初から最後までわくわくする物を作ってほしいですね。


インデックスに戻る