アマ小説家の作品

◆パペット◆第19回 by日向 霄 page 1/3
 一体何がどうなったのか、外の状況はまるでわからない。しかし今しなければならないことははっきりしていた。マクレガーの手から落ちたレーザーガンを巧みに拾い、ジュリアンはドアのロックを破壊した。蹴り開けたドアから、手錠でつながれたムトーもろとも車外へ転がり出る。
 路面に体を打ちつけてモタモタするムトーを後目に、ジュリアンは流れるような動作で起きあがる。引っ張られて、ムトーも立ち上がらざるをえない。背骨が悲鳴を上げる。
 見ると、車は見事に横転し、割れたフロントガラスから血塗れの運転手の顔が覗いている。別の車に分乗していた“正義の盾”の一団が、銃を手に応戦していた。
 応戦? 一体何に?
 だが相手を確かめている暇はない。とにかくムトーはこけないようにジュリアンに引っ張られていくしかないのだ。
「おい!」
 走りながら、ムトーは叫んだ。
「おい、ジュリアン!」
 大儀そうに、ジュリアンが振り向く。
 ムトーは手錠を指さした。擦れた手首に血が滲んでいる。
「切ってくれ!」
「手首を?」
「手錠をだ!」
「この方が早く走れる」
「バカ言え」
「俺じゃなくて、あんたがさ」
 ムトーは舌打ちした。やっぱりこいつは嫌な奴だ!
 青い車が路地から急スピードで飛び出してきた。二人を追い越し、追い越したかと思うとバックして二人に並んだ。
「乗って!」
 運転席から女の声が叫んだ。
 ジュリアンはためらわなかった。素早く後部座席のドアを開け、シートに転がり込む。無理矢理一緒に引っ張り込まれながら、ムトーは抗議の声を上げた。
「待てよ、味方かどうかもわからないのに」
「乗っちゃってから言ってもしょうがないでしょ」
「それはおまえが―――」
「安心して」
 ムトーの言葉は女の声にさえぎられた。
「とりあえず、味方だと思うから」
 振り向いて不敵な笑みを浮かべる女の顔に、見覚えはなかった。金色の短い髪に、浅黒い肌。目鼻立ちのはっきりした顔は、美人と言うよりハンサムと形容したい凛々しさに満ちている。
「知り合いか?」
 ムトーの質問にジュリアンは首を振る。
「まさか」
「忘れてるだけじゃないのか、この記憶喪失」
「そう思うんなら最初っから訊くなよ」
 ジュリアンは女の正体にさして興味があるふうでもなく、のんきに窓の外に目をやっている。その落ち着きぶりときたら、一人でやきもきしているムトーが滑稽に見えるほどだ。まるでこの状況が当然予想されたものででもあるかのように。


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