◆『Crescent』◆


 2003年12月3日、待望のアルバム『Crescent』が発売になりました。前作『MOON』から1年半ぶり、とうとうこれで『MOON』プロジェクトもおしまいです。それを考えると出てしまったのがちょっと寂しいような気もするけれど……。しかし映画『MOON CHILD』で使われた『オレンジの太陽』がHYDEとのコラボレーションで入ってる! これだけでもすごい。シングルカットされるかと思っていたのにされなかった『君が待っているから』も入っている。この2曲が入ってるだけでもう3000円は安い!というものです。

 相変わらずジャケットその他凝っていて、ブックレットも写真集のよう。映画のショウのショットが多くて嬉しい。しかも、前作『MOON』の歌詞カード(これも素敵な写真集)まで入っている。『MOON』には歌詞が付いていなかったので、「プロジェクトを終えるにあたり」ということで入ってたんだけど、すごい得した気分でした。一粒で二度おいしい。

 曲は、既にシングルで発表されているもの6曲と、ライブでは既に発表されていた上記『君が待っているから』『オレンジの太陽』、そしてアルバムオリジナルが4曲の合計12曲。いや、ほんとにお買い得(こればっかり)。

 今までの3枚のアルバムはいずれもオープニングがインストゥルメンタル(でもカードには歌詞が書かれている)だったので、きっと今回もそうだろうと思っていたら。違った。しかもラップでパンク。いや、「パンク」の定義を私はちゃんと知らないから全然違うかもしれないんだけど、とにかく予想を裏切るハードな幕開き。『MOON』プロジェクトの掉尾を飾る「泣けるアルバム」だから、もっと静かな、ライブで弾いてくれた『solitude』みたいな曲で始まるんじゃないかと思っていた。むしろ、そう、バンパイアになってマレッパを捨てさまようショウの、孤独で激しい渇きとの闘い、というイメージの曲。「all voices:Gackt」になってるけど、このラップの声は違うんじゃないの?? タイトルの『Dybbuk』はどういう意味なんだろう。

 2曲目、オリジナルの『mind forest』。前奏とサビのメロディが印象的。ガックンの曲ってどれもサビがはっきりしてて盛り上がれるところがいい。がーっと感情がこうかき立てられて。詩もせつなくて、やっぱりショウの、血を流し続ける魂の彷徨という感じ。

 3曲目が夏に発売されたシングルの『月の詩』で、4曲目が『君が待っているから』。この曲大大大大大好き。前奏だけで泣いてしまう。「世界中の誰もわからなくてもいい 君が待っているなら」歌詞もすごくせつないし、メロディーが盛り上がるんだよ、もう。なんか、絵がすごく浮かぶの。今は遠く離れて、でも決して心が離れることはない二人の。ケイとショウの関係だけじゃなくて、勝手に自分の小説のキャラクターが出てきて(『蒼き月』のアルディオンとセレンとか)、どーっと感情がたかぶってしまうのよね。私本人はそんなせつない恋や別れを経験したことなんかないくせに、キャラクターに魂を乗っ取られて共鳴してしまう。好きだぁ。

 5曲目は『Last Song』のカップリングだった『solitary』。ものすごく不思議な、覚えられない音運びで、ギター一本の囁くような歌声。覚えられないと思ったけど、さすがに毎日聴いてたらだいぶ覚えてきました。6曲目は『月の詩』のカップリングの『星の砂』。これも最初聴いた時は次の音が予想できなくてさっぱりメロディが取れなかったけど、聴けば聴くほど味が出て、怖いくらいせつなくて苦しい曲。

 7、8曲目はオリジナルの『Lust for blood』と『white eyes』。やっぱり2曲目と同じでゴシックな感じがする。血を流し続けるショウの魂っていう、闇の中の真紅。ドラマティックでアニメのサントラみたいな。うん、ガックンの曲ってどれもストリングスが効いた、バンドというよりオーケストラ風なのが多くて、いわゆるポップスというよりアニメソングとか、宝塚の曲のような(笑)。物語があって、それを表現するための楽曲なんだよ(って、私が断言するのもどうかと思うが)。今回、映画や小説を経てこっちに“絵”がたくさんあるせいか、『MOON』より更に音楽劇の色が濃いように感じられます。

 続く『君が追いかけた夢』は春発売のシングルで、これだけ明るくて異質。「もう二度とあの頃には戻れない」という歌詞もあって、「永遠はここにはない」というのがケイの嘆きかなとも思うんだけど、最終的には「ぼくがついてるからがんばれ」という、前向きな応援歌になってる。物語を離れて、くじけそうな人みんなのための歌ですね。

 10曲目は最新シングル『Last Song』。素敵な冬のバラードなんだけど、これも『MOON』の物語を越えてる気がする。だって、この歌を歌うべき女の人が、映画にも小説にもいない。女性ってイーチェとハナしかいないんだもんねぇ。次の物語へ続いて(last)いくのかな。この曲を歌っているテレビ番組を見ると、いつもYOUさんや茶々さんをもっと映してくれと思う。それでもってガックンのセーターがいつも同じなので、「これって衣装なんだなぁ」と妙な感慨を覚えるのだった。だってごく普通のチャコールグレーのセーターで、またその何の変哲もないセーター姿がめちゃめちゃナチュラルでかっこよく見えてしまうところが……さすがです。

 ラス前は映画のエンディングテーマとしても後半使われた『birdcage』。暗いよね、これ。途中でガシャーンと硝子が割れそうな――って、どんなの? 春に『エンタの神様』でイメージ映像のような感じで歌っていたけど、ホントにSFやコミックの一場面のような雰囲気だった。

 最後は、『オレンジの太陽』。CD化されないんじゃないかと思っていただけに、アルバムに入ると聞いた時はほんとにドキドキしてしまった。それもHYDEと一緒なんて! 物語の最後はやっぱりこの曲でなくっちゃねぇ。せつないけど、前向きな歌だし。これも間奏がすごく良くて、特にライブDVDの方ではそこに映画の映像が入るもんだから、CDで聴いてても条件反射で涙が出てきちゃう。ライブ版は本当に感動的で、HYDEの声よりリーホンの声の方がガックンと合ってるような気もする。それにやっぱりケイとショウが一緒にいちゃダメなんだよ。離れてても、そばにいる、っていう、「いつも想ってる」っていう方が。別々の街で、互いに相手のことを想いながら歌ってるっていうイメージ。うん、もし舞台でやるんだったら、銀橋(って宝塚か!?)にどっちかが佇んでて、もう片方は舞台奧の窓辺のセットで月(か、夕陽)を眺めながら呟くように歌ってて、次第に二人の声が絡み合って、一番の盛り上がりのとこで銀橋にいる方が振り返って、あたかも互いの姿が見えてるかのようにデュエットして、でも急にふっとバックの照明が落ちて何も見えなくなって、銀橋に一人残った方が寂しげな笑みをたたえながら袖へひっこんでいく。後ろには小さくもう一人の囁くような歌声が流れていて――幕(笑)。

 孤独で、せつなくて、痛いくらい美しい。

 愛する者の記憶を抱えて、癒えることのない傷を抱えて。

 二度とは戻れない時。二度とは会えない人。それでもこの胸の想いだけは色褪せることがなくて、一緒に笑い泣き合ったあの一瞬は永遠に美しい光を放ち続ける。そう、たとえこの命が消え果ててしまっても。



【おまけ】
 12月3日には3枚目の『12月のLove Song』も発売になりました。日本語、英語と来て今年は予想通りの中国語。しかもリーホンとの共演。いやぁ、いいんだよ、これがまた。『December Love』の時も「ただ歌詞が英語になっただけでない」すごさを感じてびっくりしたんだけど(ほんとに外国の人が歌ってるみたいなんだよ。抑揚の付け方、表現力が)、『十二月的情歌』も感動的なんだ。歌詞は全然わからないのに、曲だけでがーっと盛り上がるし、もちろんその中国語の響きがまた日本語、英語とは違った雰囲気を曲に与えてもいて、しみじみと聞き入ってしまう。またリーホンの甘い歌声が良くって。
 皆さん是非お聞きください。


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