◆還ってきたMOONサーガ◆
NEWアルバム『DIABOLOS』


 ああ、なんか長かったな。前のアルバム『Crescent』が出てから1年半。その間に、ベストアルバム、アコースティックカバー、そしてバレンタインプレゼントの『LOVE LETTER』があって、ライブだってあったけど。ファンのみんなが待ちこがれていた“痛い”Gackt、ハードでダークでゴージャスな世界がやっと戻ってきた。

 と言っても、先行シングルとなる『BLACK STONE』は早や5月に出ていたし、そもそも一昨年『Crescent』でMOONサーガに一旦ピリオドが打たれた時は、「5年後ぐらいにまた幕が開く」という話だったから、たった1年半での再開は「早すぎる」と言えないこともない。MOONではない、別のダークな物語が降りてこなかったというよりは、やっぱりMOONを語らずにはいられない、ってことなんだろう。常々「いつ死んでも悔いのないように」「残された時間は少ない」と言っているGacktさんのこと、少しでも早く、少しでも多く、届けようとしてくれているのに違いない。

 一聴して、「あ、意外に明るい」って感じた。何しろラス前の『Road』がやけに明るくて、あの曲が始まったとたん他の曲の印象がぱあっとどっかに行っちゃうんだけど、『Crescent』がとっても悲痛なアルバムだったから、それに比べると「今度のMOONには希望が――救いがある」と感じる。『BLACK STONE』も『Metamorphose』も「君がいなくなっても、僕は君のために闘い続け、走り続けていくよ」という歌だし、2曲目の『Farewell』も、「一人でも歩いていくんだ」っていう歌だ。

 『Ash』や『Noesis』がいいっ!というのはシングル発表の時に書いたけど、シングルで聴いた時に際立っていたダークさ、バックの音の広がりがアルバムの中ではそんなにも目立たないのは、やっぱり他の曲も負けないだけの広がりを持っているからなんだろう。最初に聴いた時はわからなかった音が、回を重ねるごとに聞こえてきて、まだ全然意識的には思い出せないのに、何かの拍子に急に頭の中に『Storm』や『Dispar』のフレーズが流れてくる。ブログではインストゥルメンタルの『Misty』が一番好き、なんて書いたけど、気がつくと「やっぱりこれもいいな」「これも好きだな」になってしまっている。

 『Misty』から『Farewell』への音の繋がり方、『Future』のファンタジックな雰囲気。ファンタジーはファンタジーでも、可愛い妖精たちじゃなくて、物の怪達の鳴き声(?)みたいなのが入ってて。深い森の奥、奇怪な枝が絡まり合う中、哀しい咆吼を上げる怪物たち。木の上で彼らの声を聴きながら物思いに耽るのは黒い翼に角を持った美しい青年。かつて人間であった頃を思い出しながら、青白い月を眺めて――。

 勝手に話を作るのはやめましょう(笑)。

 ああ、『Future』にはちゃんと泣きのバイオリンが入ってるなぁ。好きだぁ、ガックンのストリングスの使い方。ついつい勝手に話を作りたくなるほど、詩的な音。

 バックの音がゴージャスなのと対照的に、今度のアルバムはボーカルがとても素直な気がする。最初『MOON』を聴いた時はその声の変幻自在さに驚いたものだけど、アコースティックカバーやラブバラードという「ボーカリストとしての自分を見つめ直す」時間(そんなようなことをインタビュー記事で読んだ記憶がある)を経て、「変にいじりすぎないストレートな歌い方」になっていると感じる。うん、なんか可愛い、この声。

 ただ、最後が『届カナイ……』になっているのだけが、やっぱり不満。何度も聴いているうちにだいぶ馴れてはきたんだけど、なんかこう、私の中のMOONサーガにはあんまり“恋愛”の要素がないので、違和感が拭えない。曲としては素敵だけど、詞がわりと普通のラブソングだからなぁ。PVでは吸血鬼のお姉さんが出てきてたけど、あれもなんか美しくなくて。特にお兄さんの方が(笑)。アルバム『MOON』は、本当に美しい、きらきらした波打ち際を思わせる余韻のある終わり方だったし、『Crescent』は映画を見た人間にはたまらない、HYDEとデュエットでの『オレンジの太陽』。前2作の終わり方があまりにも感動的だったので、明るい『Road』が来て、『届カナイ…』で終わるのがなんかちょっと物足りない。

 この中途半端さ(って、あくまでも私の感じ方ですよ)は「終わらないから」ってことだと考えていいんでしょうか、Gacktさん。まだまだ続いていく物語だから、あえて特別な「ラストシーンの音」がないのだと。


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