本の虫

◆第62回『レナード現象には理由がある』/川原泉◆

 今頃『笑う大天使(ミカエル)』が映画になっちゃってる川原泉の最新刊です。いや〜、ホントに久々だねぇ。前作の『ブレーメンU』も久々だったし、『ブレーメン』が完結してからももうけっこう経ってるよねぇ。もう描かないのかな、と心配してしまうほどだった。

 しかしこの新刊、手に入れるのに苦労した。発売直後に書店に行ったのに、全然見当たらない。もっと大きい都会の本屋に行けばあったのかもしれないけど、近所の2つの店では見つからず、結局ネットで注文。なぜカーラ教授の最新作が平積みになっていないのだ!!! 映画化とタイミングも同じくしているというのに。そもそも『笑う大天使』自体積まれてなかったもんなぁ。『NANA』なんてもう延々山積みのままなのに。

 世の趨勢がどこにあろうとも、カーラ教授の作品はやはり面白いのだった。たっぷり楽しませてもらいました。

 全国有数の超進学校、私立彰英高校を舞台に繰り広げられる連作短編集。まず初めの表題作『レナード現象には理由がある』では、どうしてそんな超進学校にいるのかわからない、うっかり受けたらうっかり受かってしまって後がえらいこっちゃな女の子蕨さんと、そんな超進学校の中でも飛び抜けて成績のいい超天才、しかも顔も良くて運動神経も良くて家柄も良くて性格だけ悪い飛島くんのお話。

 続く『どんぐりにもほどがある』では、どんぐり拾いを趣味とする超お気楽な自称“普通の高校生”亘理(わたり)さんと、彼女とたまたま成績の順位が同じだったために勝手に“普通友達”にされて一緒にどんぐり拾いをすることになる友成くんのお話。地味で目立たない友成くんには実は秘密があって、とーっても悩んでることもあるのだが、お気楽な亘理さんのへらへらパワーですっかり癒されてしまうのだった。

 天才だったり性格が悪かったり堅物だったりする男の子(あるいは“子”じゃなくてもうちょっと年が行ってたりするが)の心を、へらへら系(でも実はかなり健気だったりもする)の女の子が癒す、といのはカーラ教授の定番中の定番、お家芸なので、お話としては別に珍しくも新鮮でもない。

 が。

 であればこそ、「ああ、川原泉だぁ」とファンにはたまらなかったりするのだな。セリフ回しの巧みさとか、いちいちの突っ込みとか、やたらに高度な解説とか。ついつい頬がゆるんでしまう。

 まぁ「そこがイヤ」という方には全然ウケないんでしょうけど。私、川原泉が面白くない人なんていないだろう、と勝手に思っていたのよね。私の好きなマンガの中では比較的“少女マンガ”だし(比較の対象は例えば『エロイカより愛をこめて』や『やじきた学園道中記』)、読み終わってとても幸せな気になれるから。でもやっぱりいるんだよね。この年になって出会ってしまった。「川原泉?ダメ、私あれ嫌い」って言う人。そーかー、やっぱ人の好みって色々なんだ。

 3作目の『あの子の背中に羽がある』は、隣に引っ越してきた小学6年の女の子にときめいてしまった高校3年の保科くんのお話。“俺ってロリコン?”とマジメな保科くんは悩んでしまうわけだが、しかしよく考えれば6歳差のカップルなんて世の中ざらにいるんだよな〜。うちの親だって6歳違いだし。相手がまだ小学生だから“ロリコン”にもなるが、もうちょっと時が経って、15歳と21歳ぐらいになったら別に犯罪でもない。「15歳まで育ったらもう興味ない」だとちょっとヤバいけどさ。

 こーゆー年の差カップルも、川原作品にはよく出てくる。ってゆーか、そっちの方が多いよね、普通の同級生カップルよりも。もっとも川原作品の場合、カップルと言ってもキスシーンがあるわけでなし、「好きです!」と告白して「付き合ってる」になるわけでもなく、とっても奥ゆかしい(←死語?)。でも今回は連作なので、ちゃんと3作目や4作目に1作目・2作目のキャラ達がカップルで出てくるので、「あ、あの人たちちゃんとうまくいってんだ。うぷぷ」と嬉しくなる。

 で、4作目。『真面目な人には裏がある』。そりゃそーでしょー、ってか? これはちょっと前3作とは違ってて、アニキ同士が実はゲイで、アニキ同士が付き合っている日夏さんと塔宮くんのお話。どっちかって言うと、主役は傲慢大王、邪悪なバジリスクの塔宮くんの兄、まーくんかもしれない。

 この連作は白泉社の雑誌『MELODY』で現在も連載中。5作目は『その理屈には無理がある』で、6作目は『その科白には嘘がある』というタイトルであるらしい。いや〜、楽しみだなぁ。ちなみに『MELODY』には清水玲子さんの『秘密』シリーズも載っているし、成田美名子さんやひかわきょうこさんといった、私が高校生の時に『LaLa』で活躍していた方々の作品が色々掲載されている。今ドキのマンガは全然わからない、という20年前の女子高校生向け雑誌かも(ははは)。

 この作品の舞台が超進学校になっているのも、それだと20年前と同じくケータイなんかの出てこない、古き良き時代(?)の学園マンガが描けるからではないかな。まぁ現実には超進学校の生徒でもケータイ持ってるだろうし、登校途中に鏡で眉チェックとか、してる子はしてるんだろうけど。

『レナード現象には理由がある』
以上 川原泉 白泉社ジェッツ・コミックス


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