本の虫

◆第61回『ナルニア国物語』全7巻/C・S・ルイス◆

 読んだことがなかった。

 「タンスの中の異世界」じゃなくて、なんでか「押し入れの中の異世界」だと思っていた。

 大学生の時、友達に、「え、『ナルニア』読んだことないの!? あんた、よくそれでファンタジー作家なんか目指してるわね」と言われたのだけど、それでも読まなかった。同じルイスの『別世界物語』は読んだんだけど、天の邪鬼な私としては、そう言われるとよけい「誰が読んでやるか」って気にもなって(笑)。実のところ『指輪物語』も同じ友人に、「読んだことないの!?貸してあげるから読みなさい」と言われたけど、1巻目で挫折しちゃった。……だから未だにアマ小説家なのかしら、私……。

 ま、そんなことはともかく。

 映画化ということもあり、小学校の図書ボランティアを始めたこともあり、「名作中の名作」、やっぱり読まなきゃまずいか、と思って読み始めた。もちろん図書館で借りて。全7巻読破するのに、10カ月ぐらいかかったかなぁ。なんかこう、やっぱり「次から次へ、読まずにはいられない!」って感じにはならなかったのよねぇ。最初の『ライオンと魔女』、なるほどね、って思ったし、1冊1冊は読み始めればどんどんとページを繰ってしまうんだけど、でも次の巻を手に取るのは躊躇してしまうの。せっかく借りてきたのに、返却期限ぎりぎりまで読む気になれなかったり。

 決して面白くないわけじゃないんだけど、やっぱ私には説教臭すぎるっていうか。

 かなり厳しいお話だよね。自分の良心が試される。誰の心にもあるだろう小さな“悪”の部分が容赦なくつつかれる気がする。登場人物の子どもたちの苦労の描写がうますぎて、「ああ、どうしてこうなっちゃうの〜」とストレスがたまる。偉大なライオン“アスラン”はとっても魅力的なキャラクターだけど、でもやっぱり「唯一絶対の神」みたいな存在にはアレルギーを起こしちゃう。『さいごの戦い』で「真のナルニア」が出てきた時には、「え〜〜〜〜〜〜っ、それって天国のこと!?」とのけぞってしまった。ちゃんと“現実世界”で子どもたちは死んじゃったことになってるし。そういうオチなのかよ!って。

 この“現実”は何か別の世界の写し絵にすぎなくて、この“現実”での“生”以上に素晴らしい“生”が他にある。この“現実”での“死”を“一切の終わり”と考える必要はない、という考えは魅力的だし、そうだったらいいなぁ、とも思う。ずっと昔に死んだ人々とまた一緒になって冒険を始められるなんて、なんて素敵だろうと。仏教にだって極楽浄土の考えはあるし、神仙界とか、私たちの目に映らないからといってそれらが存在しないとは思わないけれど。

 でもやっぱり、あのオチはなぁ。一人“現実”に残ったスーザンはどうなるんだ?とか思うし。『さいごの戦い』のラストでスーザンはけちょんけちょんに言われてたけど、良きにつけ悪しきにつけこの“現実”の中でもがいている人間を斬って捨てて、「君たち善き心の持ち主はこの“真の世界”で新しい冒険を始めなさい」と言われてもなぁ。

 この短い人生をあがいて死んでいく私たちを、この“現実”の中で肯定してもらいたい、と私は思う。アスランの教えとナルニアの想い出を胸に、子どもたちには“現実”を生きぬいてもらいたかったなぁ。

 なので、私はシリーズ中では『馬と少年』が一番好きです。この一作だけ、“現実”世界の人間の子どもたちでなく、ナルニアの中の子どもが主人公だから。いわゆる“貴種流離譚”で、ただの貧しい少年だと思ってたら実は……、っていう、「もの言う馬」が出てきてアスランが力添えをする以外は別に舞台がナルニアでなくてもいいお伽噺。これはホントに素直に楽しめたなぁ。ナルニアの創世を語る『魔術師のおい』もけっこう面白くて、やっと読みやすくなってきた、と思ったら最後にあのオチ……。ああ、合わないわ。

 もしも子どもの時に読んでたら、素直に感動できたのかなぁ。ナルニアに浸れないのは私がスーザンのように“浮世に適応してしまった”からなんだろうか。私が読んでいるのを横からちょこちょこ読んでいた息子、『ライオンと魔女』以外はしっかり読むこともなく、あまり食指を動かされたようではなかった。瀬田貞二さんの訳はかなり古めかしく、お世辞にも読みやすいとは言えないので、そーゆーこともあるかもしれない。でもそれを言ったら『プーさん』の石井桃子訳だって大概なんだよなぁ。あれはあれで味わい深くはあるんだけど、今は使わないような言い回しが一杯出てくるし。それでも息子は暗記するほど読んでた。比べるのが間違ってるんだろうけど、私も『プーさん』の哲学のが好きだ。

『ライオンと魔女』
『カスピアン王子のつのぶえ』
『朝びらき丸東の海へ』
『銀のいす』
『馬と少年』
『魔術師のおい』
『さいごの戦い』
以上 C・S・ルイス 瀬田貞二訳 岩波書店刊


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