本の虫

◆第51回『椿姫』/デュマ・フィス & 『マノン・レスコー』/アベ・プレヴォー◆

 前回の『アマ小説家はつらいよ』で書いたとおり、美輪明宏さんの舞台のポスターを見て衝動買いしてしまった『椿姫』。娼婦と純情青年の純愛物語というキャッチフレーズだけは知っていて、ちょうど書いていた『あなたのぬくもり』が機械の娼婦と美貌の男娼の話だったこともあり、興味を引かれた。でも先に読んじゃうと影響を受けやすい私のこと、『あなた』の展開に影響するかもしれないと思って買ったもののしばらくは書棚の肥やし、『あなた』がほぼ終幕に近づいた頃、ようやく読み始めた。したらば。

愛!  面白い。ほとんど電車の中で読んだんだけど、最近は眠気に負けてちっとも読めないことが多いのに、どんどんと読み進んでしまう。すごーく眠くて、せっかく座れてるんだから寝よう!と思ってもついページを繰っちゃって、気が付けば「もう終わり」。いやぁ、この面白さは何? 話の展開には最初から予測がついてるのに、何か引き込まれてしまう。

 で。『椿姫』の中には『マノン・レスコー』のことが言及されていて、ネット書店の読者レビューにも「両方おすすめ」みたいなことが書いてあったので大いに期待して手に取った『マノン・レスコー』。♪私はマノーン、マノン・レスコー♪という歌があったね、岩崎良美の。娼婦というか悪女の代名詞、という知識しか持ち合わせていなかったんだけど、これがまた。

 面白くない! 『椿姫』より全然薄っぺらいのにちっともページが進まない。もう途中で読むのやめようかと思うぐらいだった。「生まれついての娼婦」のような魔性の美少女マノンに振り回される青年の話で、まぁマノン自体は確かに魅力的なキャラではあるんだけど、男がアホすぎる。そのアホが涙ながらに自分とマノンとの「愛」を語るという体裁になってるから、付き合ってられるか!なんだよねぇ。

 『マノン』を読んで、『椿姫』の方が断然情緒豊かで表現が細やかなんだってわかった。『マノン』の方は、肝心のマノンがどう思っているのか、男を振り回してあっけらかんとしている彼女の内面はさっぱりわからない。『椿姫』の方はマルグリットの辛く苦しい心情がよくわかる。『椿姫』だって男の側からの語りで、最後の手紙以外に直接彼女が想いをさらけ出すところはないにもかかわらず、セリフや様々な描写によってそれがわかるんだなぁ。男自身の心理も圧倒的に細かく描かれている。心理大好きな私には「出来事の羅列(しかもそれがアホの繰り返し)」の『マノン』がどうにもつまらない。ホントに同じこと繰り返して破滅するんだもんな。ドラマとしても『椿姫』の方が序破急がしっかりして、終幕に向けてどんどん気分が盛り上がっていく。

 しかし何だね。当時の上流の若者というのは親の金をあてにして遊んでたんだね。どっちの男も働いてないもんねぇ。「お金がなきゃ恋だの愛だの言ってられないわ」というマノンは平気で金持ちのおっさんと寝て、自分に恋いこがれる男に「私があなたに望んでいるのは精神的な愛だから」と自分の代わりの女の子を差し向ける。「一人じゃさびしいでしょう?」と言って。うん、確かに天晴れな女だよ、彼女は。しかもまだ10代とかで。対するマルグリットも湯水のように金を使う借金だらけの贅沢な生活をなかなか捨てられずに男を嘆かせるわけだけど。男には女が自分以外の男と付き合うことが許せなくて、でも女は「だって仕方ないでしょ」と経済的理由を盾にする。♪よ〜く考えよう、お金は大事だよ〜♪ってか? 愛はパンに勝るか、精神的“愛”と肉体的“愛”の関係はどうなのか。

 最終的に、『椿姫』では金の問題よりも彼女が「娼婦」であるという身分(や過去)の問題で悲劇になる。『マノン』の方も、どうにか経済的問題をクリアして、精神的にも肉体的にも結ばれたカップルになろうとするところで彼女の美貌がよけいなトラブルを引き起こしてあっけなく最期を迎えてしまう。♪美しさは罪〜♪(今回よく歌が出るなぁ)。

 はてさて“愛”とはなんぞや。“若気の至り”か!?(どう考えても『マノン』の男のはそうだ) 『マノン』がつまんなくて欲求不満がたまっちゃったので、次は『嵐が丘』に挑戦です。

『椿姫』(新潮文庫)
以上 デュマ・フィス(訳:新庄嘉章)
『マノン・レスコー』(新潮文庫)
以上 アベ・プレヴォー(訳:青柳瑞穂)


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