本の虫

◆第47回『秘密―トップ・シークレット―』/清水玲子◆

 私はこの本の書評をSFマガジンで見ました。すごいなー、さすが玲子さんだなーと感心して、早速購入して読みました。それは第1巻が出てしばらくしてのことで、もう1年ぐらい前のことです。その時は「うーん、いいけど……でもここで取りあげるほどじゃないかなぁ」と思って、この間2巻が出た時も買おうかどうしようか迷って、貧乏なんだから我慢しようと思ったのですが。たまたま宝塚の帰りに尼崎の駅構内の書店で売ってるのを見つけてやっぱり買ってしまいました。で、読んだらやっぱりすごかった。

無謀な挑戦  この『秘密』のシリーズは年に1作ずつ書かれているようで、最初は1999年。その後2001年から今年まで3作。2001年からの分の舞台は2060年の日本で、第1作だけがアメリカ。共通して出てくるのが、死んだ人間の脳の蓄えている映像を見ることができるMRIスキャナーという技術。凶悪事件の犯人を挙げるために、被害者の脳の映像を見るわけです。怖〜い顔をした犯人に殺される瞬間を捜査官達は追体験できてしまう……。

 まぁ犯人がわかるのはいいんだけど、被害者の脳は何も犯人だけを見ているわけではないので、その他もろもろの映像を――つまりは記憶を――捜査官達は覗き見てしまうことになる。トイレ入ってるとことかセックスしてるとことか、逆にその人自身が犯罪に手を貸してるとことか。犯罪捜査のためとはいえ、一人の人間の『秘密』の領域に足を踏み込んでしまう……見なくてもいいものまで、決してその人が見せたくなかったものまで見てしまう……。この葛藤が、テーマなんです。

 2作目以降は童顔美青年の薪警視正と部下の青木くんが活躍する話で、なかなかいいコンビなんですけど、全然違う印象の第1作がまたいいんですよねぇ。大統領が謎の死を遂げて、読唇術の専門家であるケビンは警察に協力を求められ、MRIスキャナーの映像を見ることになる。映し出された絵は、大統領が命を賭けて守った「秘密」。誰にも悟られないようひた隠しにしていた想い。同じように、決して明かせない母親への思慕を抱えたケビンは、二度と母親の姿を見るまいと決心して家を出ていく。だって、「見る」ことは「証拠として残る」ことだから。もし自分が事件性のある死に方をしたら、すべてが白日の下にさらけ出されてしまう。「もうこの女(ひと)の顔は見ない 見ることで聖域を荒されるのなら 一生見ない それくらい愛している あいしている 愛している」……切ないよぉ。

 2作目は、『沙庄妙子最後の事件』を彷彿とさせる話。すごーく、辛い。凶悪殺人事件の被害者だの加害者だのの脳ばっかり見てたら、こっちも気が狂うよ。それに、時には知らない方がいい真実ってものがあるもの。3作目は「故人の見た夢まで再現できる」という話で、4作目は、青木くんに真っ向から「故人の許可もなくスミからスミまで見ておいて、この恥知らず!」と挑戦状を叩きつける美少女の話。これもかなり、辛いです。

 玲子さんって、ホントに絵が綺麗で、4作目の最後の所なんかもうホントに絵見てるだけで胸が締めつけられちゃうんだよねぇ。もしも同じ印象を文章だけで与えようとしたら一体どう書けばいいの?ずるい!って心底思う。おまけに泣かせ所を心得てて、3作目のラストも滂沱。……さすがです。

『秘密―トップ・シークレット―』@A(白泉社ジェッツ・コミックス)
以上 清水玲子


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